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広がる自衛隊任務、処遇改善に一歩 手当増・定年を延長

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政府は20日、首相官邸で自衛隊の処遇改善に関する関係閣僚会議を開いた。給与や手当、住環境の整備に関する基本方針を策定した。定年年齢の延長も検討する。東アジアの安全保障環境を踏まえ、任務の幅の広がりに見合う処遇を目指す。民間との格差を縮め自衛官のなり手の確保も狙う。

閣僚会議の議長を務める石破茂首相は、自衛隊の処遇改善を政権の重要政策に掲げる。近く閣議決定する2025年度予算案に反映する処遇改善策も踏まえたこの先の基本方針を示した。

首相は会議で「充足率が向上しなければ意味がない。今後も施策の効果を検証し、深化に向けた検討を継続したい」と強調した。

特殊任務や重要任務に就く人向けに計33の手当を新設・拡充する。例えば自衛隊の航空基地などで働く航空管制官や航空機整備員、野外演習などに従事する隊員向けの手当を新たに設ける。災害派遣に従事した隊員への手当を1日あたり540円引き上げる。

これまで特殊部隊などを対象にしていた「特殊作戦手当」の支給対象にサイバー部隊の要員も加える。政府はサイバー防衛の体制を米欧並みの水準に引き上げることを目指す。

潜水手当の不正受給など不祥事が相次いだことを踏まえて、手続きの電子化なども進めて再発防止に取り組む。

国家公務員としての自衛隊の給与を定める「俸給表」も28年度をめどに改定する。

現在は警察や海上保安庁などと同じ「公安職俸給表」をベースに、1カ月で計21.5時間の超過勤務に当たった計算で給与を出している。これを常に有事対応に備える業務に見合うよう改める。

体力維持の観点から、多くの隊員が50代で定年を迎える問題にも対応する。一般隊員の定年年齢を28年度から2歳程度引き上げる議論を始める。宇宙やサイバーといったさほど体力を必要としない一部の職種の定年年齢を60歳にする。

生活基盤の維持のため定年後の再就職支援にも力を入れる。経済産業省をはじめとする省庁と連携し、防衛産業など経験を生かすことができる企業で活躍できるよう働きかける。

閣僚会議は1年に1回のペースで開催して効果を検証する。防衛省内に人的基盤の強化を担う部署を設立して検討体制を充実させる。

自衛官の処遇改善は国際情勢の近年の変化が議論を後押しした。

日本周辺では中国が国防費を急速に増やし、高性能の近代的な潜水艦の保有数は日本の2倍、戦闘機も計1588機と日本の5倍程度保有する。北朝鮮は弾道ミサイル発射を繰り返し、ロシアとの軍事連携が進むのも新たな懸念事項だ。

自衛隊は米軍と協力して東アジアで即応体制をとるために任務の幅を広げる。「反撃能力」の運用に加え、サイバーや宇宙といった新領域への対処、無人機などの新たな装備品への適用能力の向上も欠かせない。

他国軍との共同訓練も増えている。ベトナムやフィリピンなどの同志国に赴き、災害時の救助方法などを教えるといった任務もある。

国内は地震や大雨といった自然災害が頻発し、災害派遣は増加の一途をたどる。

任務ばかりが増え、給与や待遇が見合わなければ人材は確保できない。実際に人手不足は深刻で、自衛官の定員およそ24万7千人に対して24年3月末時点で1割ほどの欠員が生じた。

高卒で2〜3年の任期制自衛官に就く前の「自衛官候補生」の初任給は4月時点で15万7100円。任務に就かないことから初任給が他業種と比べると数万円も差がある。

自衛官になってもすぐに他業界に転職する人も多い。23年度の中途退職者数は6200人ほどで、19年度から3割超増えた。退職自衛官のうち4割ほどがサービス業、2割弱が運輸や通信・インフラ業に再就職した。

民間は65歳まで働く人が増えるが、自衛官は階級によって主に55〜58歳で定年を迎える。幹部自衛官の一人は「定年を迎えて再就職しても、年収が下がる人が多い。生活基盤が不安定になる」と話す。

海外に目を向けると軍人の処遇が民間より高いことがある。米陸軍で最も低い階級の「2等兵」として入隊した場合、最初の年収は6万4千ドル(およそ1千万円)。米労働統計局によると米国の平均年収は6万5千ドル(およそ1020万円)ほどだ。

階級が低くても平均年収とほぼ同等の生活水準が約束される。円安・ドル高や物価高の影響で単純に比較はできないが自衛官と比べて高い。

曹士として入隊し、現在幹部として勤務する自衛官は「金銭だけで解決できる問題ではない」と述べる。「入隊した人は皆、国を守る志を持った人たちだ。そういった思いをくむような対策も今後、より検討してほしい」と語る。

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賃上げは賃金水準を一律に引き上げるベースアップと、勤続年数が上がるごとに増える定期昇給からなる。2014年春季労使交渉(春闘)から政府が産業界に対し賃上げを求める「官製春闘」が始まった。産業界では正社員間でも賃金要求に差をつける「脱一律」の動きが広がる。年功序列モデルが崩れ、生産性向上のために成果や役割に応じて賃金に差をつける流れが強まり、一律での賃上げ要求の意義は薄れている。

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