20.次のセーフエリアにて
ハシゴの上の方からアンズに強引に引き上げられた私は勢いよくセーフエリアに飛び込まされた。
勢いは強かったけど何か下に柔らかいものが敷かれていたおかげでそこまで痛くなかったのは幸いである。
私はぶつかったショックでくらくらする頭を振りかぶりながら体を起こそうとすると下から声が聞こえてくる。
「あのですわね…ニミリこの体勢はちょっと、どいていただけると助かるのですが?」
…なるほど下にあったクッションはアンズだったのね。
ふにゃりとして心地がよかったのはまあいいけど体勢?
私が両手を床について立ち上がろうとしていて、その間にアンズの顔があるよね?
それで両足はアンズの体にまたがって押さえつけているようなポジションと…なるほど?
これは仕返しのチャンスという奴ですね?
「ねえアンズ?本当にどくだけでいいの?」
私の回答にアンズの顔がきょとんとしている。
私はアンズの顔を覗き込むように正面から近づけていく。
「い…いやあのですねニミリ、こういうのはやぶさかで…は無くてですね。周りに他の方にいるのでまたべ…」
私が上からぴったりと体を近づけるとさらにあわて具合が加速している。
これ自分でも何を言っているのかわかっていないだろうね。
顔を少し赤らめながら水着姿で体をよじっているのは可愛らしくもあるのかもしれないけど今はいたずらが先である。
私は混乱しているアンズの耳元にフッと勢いよく息を吹きかける。
「ひゃいん!?」
うん、現実と似た感じでいい声で鳴きますね。
さてと、とりあえずこれで仕返しは半分ぐらいは完了でいいかな。
私はいたずらをし返してすっきりするとサッとアンズから離れて飛び起きると周囲を観察する。
それでと…ここは何かな?
上には蛍光灯がついており、どこかの建物内であるという事はわかる。
割といっぱいあちこちに段ボールが積まれていたり、ベルトコンベアがあったり。
ベルトコンベアはあちこちに別れているけどシャッターで閉まっている?
空港?
いやそんなまさか学校の壁から見た所徒歩で行けそうなところにそんな施設は見当たらなかった。
そして後ろを見ると。
先に登っていたお茶の介さん、ブラックさん、シマムラさんが立ち尽くしている。
…何でこちらを凝視しているのかな?
「どうしました?私に何かありました?」
三人とも気まずそうにこちらを見ている。
そして意を決したのだろうかシマムラさんが声をかけてきた?
「いや…さっきのがな?」
さっきの?
あぁ、アンズをからかったあれかな?
「軽いおふざけですから気にしなくていいですよ」
「いやできたらつづ…」
そう言っていると後ろから何かがゆらりと立ち上がる気配がする。
おかしいここはセーフエリアのはずなのに危険な気配だ?
とっさに振り返ると頬に走る痛みと共に私は吹き飛ぶ。
「ニミリのバカーー!」
…まさかグーで殴って来るとは思わなかった。
私はセーフエリアでの二回目の宙間飛行を満喫したのだった。
数分経過すると皆落ち着いてきたようなので話を再開する。
まだアンズがぷんぷんと怒っている気がするけど放っておこう。
むしろまた仕返しし直さないといけない。
「それでここはどこかわかりますか?」
私が尋ねるとブラックさんから答えが返ってくる。
「ああ、俺達も下の騒ぎが気になって何も調べてないんだ」
結構時間があったのに進捗は無いらしい。
そこは指示が無くてもセーフエリアで安全なのだから調べておいて欲しかった。
「セーフエリアなのだから先に調べておいて欲しかったのですけど?」
「まあそれはそうなんだが…。お陰でいいもの見れたしな」
…?
最後の辺りがぼそぼそとしており聴き取れなかった。
まあ今さら言っても仕方ないので次の行動に移りましょう。
「仕方ありませんね。とりあえず別れてここの調査をして一度戻りましょうか?戻った三人を待たせ続けるわけには行きませんし」
「セーフエリアの外は調べなくていいのか?」
「外も含めるときりが無いのでセーフエリアの中だけにしたいけど…そこは各自にお任せします。ただしどこから外へ行けるかは後で教えてください。時間は…十五分とります。その後は集合しなくてもいいので各自エスケープしてコミュニティールームに集合してください」
「了解、それじゃあ…」
「別に十五分で戻らなくて欲張っても構いませんがその場合は学校の用務員室に置いてきたアイテムとかの分け前は無しにしますね?」
これで外に出て下手にデスペナルティを十分間も貰うと集合時間に間に合わなくなるのでプレッシャーになるよね。
こちらの意図を察したのかやれやれといった感じで顔を苦笑させるとそのまま全員散って行った。
…本当は個人都合できりをよくしておきたかったというのは後ろめたい。
調査結果がきりがよければルームを抜ける時すんなりといきそうかなと計算したせいなのである。
けど指揮権をいただいた以上は有効活用させてもらいましょう。
おっといけない後ろめたい事を考えるのは止めて私も時間内は調査しておかないと。
頭を振りかぶって企み事を振り払うとアンズがまだ立ち尽くしていた。
ムスッとした顔をしており、不満が隠せていない。
「ニミリ行きますわよ?」
そのまま腕を掴まれて引っ張られる。
さっきの説明聞いてなかったのかな?
「え?バラバラに調査した方が効率がいいでしょ?」
「いいから行きますわよ?」
…有無を言わさないとはこの事だろうか?
ちょっとからかいすぎたかもしれないと思いつつ仕方なく引っ張られながらセーフエリアの建物の中をアンズと一緒に調査したのでした。
さてとそろそろ十五分経過かな?
時計機能はVRのマシンの方に付属しているので間違いは無いと思う。
「アンズそろそろ戻るよ?」
「もうそんな時間なのですか?わかりました」
機嫌は幾分か直ったみたいだね。
やはり男の前でからかいすぎたのはプライドが傷ついたのかな?
…そりゃあお嬢様だしね。
そこは私の配慮が足りなかったかもしれない。
私は反省しながらコンソールを呼び出しアンズと共にエスケープを選択した。