遅れた円安是正、ジレンマの日銀 海外投信2年で2倍

金利0.5%の重み(2)

 

 

ディーリングルームに飾られた日本と米国の国旗(東京都港区)

 

「1月に利上げできず、3月もできなければ円安が加速しかねない」。0.5%への追加利上げを決める1月の金融政策決定会合前、日銀関係者は危機感を示していた。

 

日銀が追加利上げを決めた大きな理由の一つが円安だ。2024年7月、外国為替市場で円相場は対ドルで一時、37年半ぶりの円安・ドル高水準となる160円台をつけた。その後も150円台の円安が続く。

 

利上げを見送った24年12月会合前も日銀内には「仮に(円が対ドルで)170円まで円安が進んだら(追加利上げを)やる」との声があった。トランプ米大統領の経済政策の影響は現時点で未知数だが、市場が混乱する可能性はくすぶる。「動けるうちに動いたのでは」と政府関係者はみる。

 

円安は輸出産業の底上げとなる一方、輸入物価を上昇させて物価高につながる。足元で目立つのは負の側面だ。

ドイツ証券の試算によると、1990〜2009年に円が対ドルで10%下落した際は9カ月後に生鮮食品を除くコアCPI(消費者物価指数)を0.23%押し上げた。

 

しかし、10年から24年は同じ円の下落率で12カ月後に0.83%押し上げていた。植田和男総裁も24日の記者会見で「過去と比べると為替変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面がある」と懸念を示した。

 

一方、プラス面は薄れる。財務省が発表した24年の貿易指数(速報値、20年=100)によると、輸出数量指数は102.9と前年比2.6%減で3年連続の減少だった。輸出額は6.2%増の107兆913億円だが、円安が輸出量を増やす構図は失われつつある。

 

資源エネルギー庁によると、23年の化石燃料の輸入金額は27.3兆円と20年(11.3兆円)から2.4倍に増えた。財務省によると、23年の農産物の輸入額は9兆582億円と、大規模緩和前(12年)と比較し66%増えている。円安を要因としたエネルギーや原材料価格の上昇は家計を圧迫し、企業経営の足かせにもなっている。

 

円安傾向が定着したのは、新型コロナウイルス禍後に急ピッチな金融引き締めを進めた米欧の中銀と日本の金利差が開いたことが一因だ。24日の追加利上げ公表後も外国為替市場は円高方向に一時振れたものの長続きしなかった。市場関係者の多くが円安の要因となっている米国との金利差が急速に縮まる可能性はまだ低いとみる。

 

長引いた円安で家計のポートフォリオは大きく変化している。

「全額を米国株(S&P500)に投資している」。

 

商社に勤める24歳の男性は24年12月のボーナスをすべて米国のS&P500種株価指数に連動する投資信託の購入資金に充てた。新NISA(少額投資非課税制度)の年間の非課税枠360万円を全て使い切った。

 

みずほ銀行の唐鎌大輔氏の試算によると、家計の外貨性資産(外貨建て投信、外貨預金、対外証券投資)は24年9月末時点で98.5兆円に膨らんだ。ここ5年で7割増えた。金融資産に占める外貨性資産の構成比率も24年9月末時点で4.5%と2000年初頭から比率にして5倍に伸びた。

 

投資信託協会によると海外資産で運用する公募株式投資信託の残高は24年12月に約63兆9000億円に上る。植田総裁が就任する前の22年12月(約31兆7000億円)から2年で倍増した。

 

ドル円相場が150円から120円の円高に動いた場合、株価が動かなくても単純計算で数兆円単位で評価損が膨らみかねない。

 

20代の男性会社員は「(過去の円高時に)新NISAに投資していた資産が目減りした。日銀が利上げを進める中、今のポートフォリオでよいか不安だ」と話す。

 

日銀の24年7月の追加利上げ後、外国為替市場では急速に円高が進み、8月に日経平均株価は1日で4451円下落した。「利上げのペースは市場や経済への影響を見ながら慎重に進めざるを得ない」。別の日銀関係者はこう指摘する。

 

円安を放置すれば物価高が長引くが、円高が進めば個人資産の損失リスクや株価急落につながりかねない。日銀はジレンマに直面している。

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