東京女子医大の背任事件、元理事長の横暴を“見て見ぬフリ”…「他の理事たち」の法的責任はどこまで問えるか【弁護士解説】

弁護士JP編集部

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東京女子医大の背任事件、元理事長の横暴を“見て見ぬフリ”…「他の理事たち」の法的責任はどこまで問えるか【弁護士解説】
東京女子医大(khadoma/PIXTA)

東京女子医大の元理事長が、一級建築士に業務の実態がないにもかかわらず報酬を支払い、約1億2000万円の損害を女子医大に与えた背任罪の容疑で、警視庁捜査二課に逮捕された。

元理事長は「女帝」といわれ絶大な権力をもち、他の理事メンバーは不正を知りながら「見て見ぬふり」をしていたことが指摘されている。東京女子医大も公式コメントを出し、その点を認め、「必要な責任追及を行います」としている。

他の理事たちの「法的責任」とはどのようなものか。また、学校法人内部での法的責任の追及を「内輪でのかばい合い」にせず、実効性をもたせるにはどうすればよいのか。

他の理事には「理事長の不正をやめさせる」法的義務がある

私立学校法44条の2は「役員は、その任務を怠つたときは、学校法人に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めている。「任務懈怠(けたい)責任」とよばれる。

元理事長以外の理事会メンバーが、元理事長の不正を知っていた場合に、それをやめさせるよう働きかけなかったことは、「任務懈怠」にあたるのか。会社、学校などの組織に関する法律に詳しい杉山大介弁護士は、本件では「理事長以外の理事は、当然に任務懈怠責任を負う」と説明する。

杉山弁護士:「理事は理事長を監督する義務があります(私立学校法36条2項)。また、業務の執行に際して理事会で業務を決定して、法人の利益のために仕事をする義務があります(同法37条2項、40条の2参照)。

理事会とはそもそも、そういう相互監視のために存在する機関ですので、当たり前の義務です。それに違反した以上、監督義務違反として、任務懈怠責任を負うことは当然です」

元理事長逮捕直後に大学当局が出したコメント(1月13日、東京女子医大公式HPより)

「逆らえなかった」では済まされない

今回の事件では、元理事長に逆らう者が降格左遷など不利益な扱いを受けることをおそれ、理事会によるコントロールがはたらかなかったという事情が指摘されている。

一般企業でもままあることだが、理事長が絶対的な権力をもち、逆らえば自分の立場が危うくなる事情があったとしても、任務懈怠責任を問われなければならないのか。

杉山弁護士は、そのような事情の有無にかかわらず、理事には任務懈怠責任が認められるとする。

杉山弁護士:「そのような事情は一切考慮されません。そんな甘いことを考える人間はそもそも役員を引き受けてはいけないというのが、法人に関する法律の作り方です。

また、後述するように連帯責任も定められているので、任務懈怠責任から逃れる余地はありません」

ちなみに、一般企業については、最高裁が、株式会社での取締役の監督義務(会社法362条2項2号)は「名目だけ」の取締役であっても負うと判示している(最高裁昭和55年(1980年)3月18日判決)。

学校法人の「理事」も一般企業の「取締役」も、責任ある立場に就いた以上、経営トップに対する厳しい監視を行い、時には「ノー」を突きつけなければならないという重い法的責任を負うことを十分に理解しておかなければならないだろう。

理事長以外の理事が賠償責任を負う「損害」の額

本件で、元理事長以外の理事は、どのような損害に対し賠償責任を負うのか。元理事長と違って、他の理事は「見て見ぬふり」をしていたのであり、自身の私腹を肥やしたわけではない。その点はどのように扱われるのか。

杉山弁護士:「理事の損害賠償責任は連帯責任です。あくまでも、元理事長と連帯して責任を負うことになります(私立学校法44条の4参照)。

今回は背任という刑事事件が先行しているので、犯罪として取り上げられる取引の部分はみな、学校法人のために役に立たず、理事長個人か誰か学校法人以外の人のために出費されたものと評価されることになります。

この取引全額について、元理事以外の理事も、学校法人に対し損害賠償する必要があるということです。

理事の責任とは、それほど重大なものなのです」

「身内に甘い処分」で済ませないためには?

東京女子医大は「必要な責任追及を行う」としている。しかし、「身内に対する処分」では自浄作用が期待できないのではないかという危惧がある。

東京女子医大がその点を克服して関係者に対し適正な処分を行い、いささかなりとも社会的信頼を回復するには、どうすべきか。

杉山弁護士:「まず、思いつくのは、弁護士等が入った『第三者委員会』など、外部的な調査監督機関を設置することでしょう。これらが必要なのは当然です。

しかし、それ以前に、責任追及の主体である理事会の構成が重要です。

なぜなら、問題を明らかにするほど、前理事長時代の理事会メンバーの法的責任が重くなるからです。基本的には旧メンバーが中心となって事案解明を行う場合には、潜在的に利益相反の問題が生じると考えるべきでしょう。

それを踏まえて、責任追及のための体制を作るべきです。

メンバーは、少なくとも過半数は、問題が発生した当時のメンバーから入れ替えるべきでしょう。

ただし、『全入れ替え』では、当時のことが分かりにくくなる場合もあるので、一部のメンバーを残すことも選択肢としてはありです」

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