京アニ事件、青葉被告の死刑確定 本人が控訴取り下げ
36人が死亡した2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件で殺人罪などに問われ、一審・京都地裁の裁判員裁判で死刑判決を受けた青葉真司被告(46)が大阪高裁への控訴を取り下げたことが28日、関係者への取材で分かった。取り下げは27日付。検察側は控訴しておらず、判決が確定した。
23年9月に始まった一審では、放火した事実に争いがない一方、「京アニに作品を盗用された」「闇の人物への反撃だった」などと言及する被告の刑事責任能力が最大の争点とされた。
検察側は動機について「筋違いの恨みによる復讐(ふくしゅう)。妄想が影響した程度も限定的だ」と指摘した。被告には完全責任能力が認められるとして「極刑を回避すべき事情はない」と述べた。
弁護側は精神疾患の一つである「妄想性障害」による心神喪失か耗弱の状態にあったとして、無罪や刑の減軽を求めた。
公判は計20回超にわたって開かれ、生い立ちや事件に至る経緯などを尋ねる被告人質問に多くの時間が割かれた。
24年1月の一審判決は、被告が妄想性障害だったとした一方、犯行は性格や過去の経験で身についた考え方によるものとして「妄想の影響はほとんど認められない」と判断。現場周辺で怪しまれないように行動していた点などを踏まえ、善悪を区別できたとして完全責任能力があったと結論づけた。
「強固な殺意に基づく計画的な犯行であり、極めて危険で残虐な犯行態様」などと指摘し、求刑通り死刑を言い渡した。被告と弁護側がそれぞれ控訴していた。
過去には控訴取り下げの妥当性が争われたケースもある。
16年に相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害された事件では、弁護人が植松聖死刑囚による控訴取り下げを無効と主張した。その後最高裁が有効と判断した。15年に大阪府寝屋川市の中学1年生の男女が殺害された事件でも、山田浩二死刑囚の控訴取り下げを巡り有効性が争点となった。
京アニの代理人弁護士は28日、「(控訴が)取り下げられたことは承知している。ただ、状況が定まらないうちは会社としてのコメントは差し控える」とした。
事件を巡っては、青葉被告が家族や社会との接点が減り、孤立を深めた経緯や心情が浮かび上がった。京アニ事件をはじめ、21年の大阪・北新地のビル放火殺人事件、小田急線の車内で起きた乗客への襲撃事件は孤立対策の重要性が改めて認識される契機になった。
24年4月施行の孤独・孤立対策推進法は、孤独や孤立について誰もが体験する可能性がある「社会全体の課題」と明記。政府は官民連携で取り組む重点計画を決定し、自治体やNPOの活動支援や市民ボランティア「つながりサポーター」の養成を図っている。自治体に対策の協議会を設置する努力義務も課した。
新潟青陵大の碓井真史教授(社会心理学)は、人間関係が希薄化し孤独を感じる人々が増えている社会の現状があるとした上で、「自分の窮状を発信できない人々への支援が課題だ。事件を犯人や家族だけの責任とすべきでない」と強調する。
青葉被告は事件前、心身の状態を観察する訪問看護を受けていたが、次第に拒絶し孤立を深めたとされる。碓井教授は「行政やNPOが支援対象者に積極的に関わっていくアウトリーチ型の支援を強化し、支援者との関係を絶やさない仕組みづくりが求められる」と話す。
【関連記事】
事件の審理は①事件の経緯や動機②刑事責任能力の有無③量刑――の3段階に分けて進行する異例の経過をたどった。事件で全身やけどを負った被告は車いすで出廷。被害者参加制度に基づき、遺族らが直接質問する機会も設けられた。犯罪被害者の支援策が拡充されるきっかけの一つともなった。