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半導体の“アメリカファースト”がインテルと米国にもたらすもの

トランプ政権とバイデン政権を通して、米国は半導体チップ製造を国内に「呼び戻す」ことにした。そしていま、オハイオ州にあるインテルの広大な敷地に膨大な資金とインフラが流れ込んでいる──インテル自体は崩壊の危機に瀕しているというのにだ。
Photograph: Ruddy Roye

メアリー・スプリンゴウスキーは2016年の事故以来、マイクロチップに取り憑かれている。その年、オハイオ州北東部のフォード工場で、自動車部品を積んだカートに衝突され、アキレス腱が断裂した彼女は、数週間の寝たきり生活を余儀なくされたのだった。

フォードで25年間働き、自動車労働者組合にも加盟していたベテラン社員のスプリンゴウスキーは、クリーブランド・エンジン工場のチームリーダーで、いくつかの車種で利用される4気筒エンジンの製造に携わっていた。また、エリー湖に沿って西に40kmほど離れた場所にあるオハイオ州ロレインという都市の市議会議員でもあった。ロレインは人口がおよそ65,000人で、自動車、鉄鋼、銅などを製造する工場で栄えた町だ。ある工場は閉鎖された05年までの50年ほどで、およそ1,600万台のフォード車、具体的には、サンダーバード、フェアレーン、ファルコンを生み出した。ロレインはいまだにふたつの巨大な製鉄所が景観を支配している。そのうちのひとつはスプリンゴウスキーが事故に遭った年の初めに操業を停止し、もうひとつは最近になって、グローバル市場の大きな変動を理由に800人ほどの労働者を解雇したばかりだ。ロレインは「うまくいっていない」と、スプリンゴウスキーは語る。

けがのあと、スプリンゴウスキーは多くの時間を、ソファーに腰掛けて片足を高く上げ、膝にノートパソコンを置き、ロレインの問題を解決する糸口を探すために費やした。ロレインは環境保護庁によって、数千万ドルを費やして老朽化した下水道網を修復するよう命じられた。同市は水道料金の値上げに言及し、市民は不平を漏らしていた。そうした事情から、スプリンゴウスキーは水の価値について考えるようになった。ロレインはエリー湖に水をもたらす主要水源のひとつ、ブラック川が注ぐ河口に位置している。スプリンゴウスキーは「製造に最も多くの水を必要とする産業は?」とググってみた。

すぐに答えが見つかった。マイクロチップだ。全世界のチップメーカーは水不足を恐れていた。スプリンゴウスキーはFacebookに、半導体業界が必要としているものがロレインには存在すると投稿した。「ここには水がある! 大量の水が!」。スプリンゴウスキーは半導体チップがロレインを救うと確信した。その後数年、この話題を何度も口にし、投稿も続けた。「それがわたしの考え方なのです」と、彼女はわたしに話した。

コロナ禍が発生し、全世界で半導体チップが不足してようやく、人々が彼女の声に耳を傾け始めた。スプリンゴウスキーの職場では、組立ラインが停止することが増えていった。「エンジンがただ放置されていました」と彼女は語る。エンジンを積むはずの車両は半導体チップの到着を待っていた。若い労働者が失業していった。「ガソリン代さえ支払えない人もいました」

自動車労働者組合が米国政府にチップの国内生産を要求していることを知ったスプリンゴウスキーは、同組合の幹部陣およびオハイオ州の州議会議員にメールを送った。「チップ製造を検討しているなら、ロレインを候補地にすべきだ」と。だが、返信はなかった。それでもスプリンゴウスキーは諦めなかった。「ここにこそ千載一遇のチャンスがある!!!」と、翌年もFacebookに投稿した。「ビッグな何かを目指している? 造船所やフォードのように、大きな何かを? ここにその答えがある!!!!」

故郷オハイオ州ロレインのメアリー・スプリンゴウスキー。

Photograph: Ruddy Roye

最終的に、スプリンゴウスキーは自ら根本に行かなければ何も始まらないと悟った。そこで、すでに自動車労働者組合に送ったメールを書き直し、半導体チップを製造している会社のすべてを調査し、そうした会社の経営幹部に連絡を取る方法を探した。そして、RocketReach.comに3.99ドル(約628円)を支払って、世界最大規模の半導体製造会社であるインテルのCEOであるパット・ゲルシンガー[編註:24年12月に退任]のメールアドレスを入手する。21年4月28日、フォード工場が部品不足に陥っていたころ、つまり再び操業が停止していた時期に、スプリンゴウスキーはメールの送信を始めた。ゲルシンガーをはじめとする、自分が見つけることのできたチップ製造会社のCEOの全員、総数で10を超える相手にメールを送り、大量の淡水、主要な港や道路や鉄道へのアクセス、新しい労働者の育成に最適な地域大学の存在など、ロレインを製造拠点にすべき理由を列挙した。

そして、スプリンゴウスキー特有の熱いアピールでメールを締めくくった。「これを実現する方法を一緒に探しましょう! ひとつの例外もなく、すべてが議論と検討の対象です!」

その翌日、スプリンゴウスキーはインテルで州政府との関係を担当している人物から返信を受け取った。そこでは、インテルはチップ製造用に一連の新工場を建てる敷地──数十年ぶりに米国内に建設する新たな敷地──に適した場所を探していると示唆されていた。だが、スプリンゴウスキーのメールを受け取るまでは、オハイオ州は検討の対象ですらなかった、と。「インテルが敷地に求める要件と、ロレインが提供できる条件について話し合いたい」とその人物は書き、翌日に会えないかと尋ねてきた。リビングルームでそれを読んだスプリンゴウスキーは思わず大声を発していた。まるで誰かが死んだかのような大声だったそうだ。
「どうした?」と、キッチンにいた夫が叫び返した。
「インテルから返信があったの!」
「まさか!」
「本当よ」

Zoom会議が設定された。スプリンゴウスキーはロレインの港湾局と財政局の職員を、のちには地域の経済開発チームも会議に参加させた。最終的には、ゲルシンガーとも直接話すことができた。

オフショアから「リショア」へ

スプリンゴウスキーは知らなかったのだが、そのころインテルCEOのゲルシンガーは国会に対して、半導体チップの国内製造の実現に多額の補助金を出すよう、かなりの圧力をかけているところだった。目指すはオフショアならぬ「リショア」、つまり、これまで数十年にわたり台湾の巨大チップメーカーのTSMCと、大きく差のついた第2位の韓国サムスンに独占されていた業界を国内に「呼び戻す」ことだ。国家の安全保障にとっても重要なことだった。コロナ禍の最中、マイクロチップのサプライチェーンは完全に崩壊していたし、地震あるいは地震を超える厄災となるに違いない中国による台湾侵攻などが起これば、再び崩壊することは目に見えていた。

もちろん、自動車、電話、冷蔵庫、兵器、そして現在の政治家にとって最も重要な人工知能(AI)など、マイクロチップはいたるところで利用されている。そして世界供給量における米国内で生産されているチップの割合は過去最低の12%を記録した。1990年代は37%だった。代わりに台頭したのはアジアで、70%を占めていた。

ゲルシンガーが議員たちに対して、TSMCとサムスンは、そして最近では中国のメーカーは、それぞれの国の政府から多額の支援を得ていると指摘し、米国がこれに対抗するには、同レベルの政府サポートが欠かせないと主張した。そして、インテルがこのリショアにおいて重要な役割を果たす覚悟があることを示す証拠として、22年1月、スプリンゴウスキーと最初のZoom会議をしてから8カ月後に、米国史において過去最大の単一投資額となる280億ドル(約4兆4,000億円)を投じて、大規模なメイド・イン・アメリカ・プロジェクトを実施し、オハイオ州において何千人もの雇用を実現するつもりだと発表した。

オハイオ州南部の田園地帯を走る超大型貨物トラック。

Photograph: Ruddy Roye

その夏、議会は「CHIPSおよび科学法」を可決し、520億ドル(約8兆1,800億円)相当の助成金や融資などをチップ製造会社に支給することに決めた。そのうちの多く、助成金の85億ドル(約1兆3,400億円)と融資の110億ドル(約1兆7,300億円)がインテルに割り振られた。この法案はトランプ政権下で生まれ、バイデンによって署名された。米国内で雇用を創出し、中国に対抗するという政策において両者が一致した非常に珍しいケースだ。

だが、そのインテルは重大な問題を抱えていた。同社はWindows PCがハイテク界の中心だったころには支配的な立場にあったが、その後一連の失策を通じて、次世代のハイテクとなるスマートフォン、そしてさらに最近ではAI用のプロセッサーの開発という点では、完全に出遅れていたのだ。そして、合衆国がインテルをチップ製造競争における国家代表と指定したいまになって、失策の影響が現れ始めた。過去数カ月を通じて株価は急落し、15,000人の労働者が解雇され、大規模なリストラが始まり、会社の分割あるいは売却の噂が立ち始めたのだ。

ゲルシンガーは、会社を建て直すには時間が必要だと主張する。「インテルは10年以上間違った決断を下してきました」と彼はわたしに語った。「わたしはこれまでずっと、出直すには5年が必要だと言ってきました。そして3年半が経ちました」。問題は、ゲルシンガーの計画が成し遂げられるのが先か、インテルの崩壊が先かであり、インテルを救世主とみなした州や自治体はどうなるのか、だ。

スプリンゴウスキーにとっては、インテルがオハイオ州にやって来るという知らせは甘くもあり、苦くもあった。彼女は、インテルをオハイオ州に導くことには成功したが、ロレインにもたらすことはできなかった。いくつかの選択肢を検討した結果、インテルは州都コロンバスの郊外にあるニューオールバニという小さな町の広大な農地を選んだのだ。

「ファブ」と呼ばれるマイクロチップ製造施設の建設は、ほかに類を見ないほど複雑な事業だ。現代におけるピラミッド建設と呼べるほど大規模なインフラと特殊な設備が必要となる。それらすべてが、ナノメートルのサイズの物品を大量生産するために必要とされるのだ。そして今後の数年で、巨大な物体の数々が、オハイオ州中部のいくつかの敷地に集まってくる。選ばれた土地にはいくつもの利点があるが、ロレインとは違って港は存在しない。最寄りの港は225kmほど離れている。州の半分を遅い陸路で横断する必要があるため、インテルは輸送の方法を考えなければならなかった。

スーパーロードの輸送風景

24年夏のある日の早朝、普段ならまだ眠っている時間のことだった。言い換えれば、気温が耐えがたい暑さになるまでまだ数時間があるころ、わたしはオハイオ州の最南端付近、ロレインから南に320kmほど離れた場所にあるポーツマスの近郊、オハイオ川の曲がり角の氾濫原にいた。ガソリンスタンドの向かいにある「メックス・イタリ」(メキシコとイタリアという最高の料理界の融合形!)というレストランの脇にある駐車場に立つと、まわりで20人以上の男性が──本当に全員が男性だった──ヘルメットと黄色い安全ベストを身につけて、コーヒーを飲んだりタバコを吸ったりしていた。そのうちのひとりはムースと呼ばれていた。

わたしたちがそこに集まったのは、30mほど先に2車線の道路が別の2車線道路と直角に交わる地点があるからだ。普段なら何の関心も呼び起こさない場所だが、その日はおよそ1時間後に巨大な、本当に巨大な……物体が、172の車輪に運ばれて、そこで方向転換することになっていた。

メックス・イタリの駐車場に集まってきた男たちは、それが可能かどうかについてしゃべっていた。ムースが手短に安全説明を行ない、全員に水を飲むのを忘れないようにと指示し、無線で会話するときには、マナーを守るようにと伝えた。

そこまで来るのに、およそ2年の計画が必要だった。今回は、インテルのためにオハイオ州を横断するおよそ25の「スーパーロード」こと超大型貨物(12万ポンド(約55トン)を超えるハイウェイ貨物)のひとつがやってくる。今日の13番貨物は、長さ85m、高さ7m、幅6mだ。450トンほどの重さを誇る巨大さにもかかわらず、この装置の名前はじつにあっけなくて、「コールドボックス」と呼ばれている。ヨーロッパの企業が製造してニューオーリンズまで船で輸送し、そこから荷船でミシシッピ川とオハイオ川を伝って、ここの近くに建設された仮設の港に運び込まれた。そしていま、それが陸路でインテルが世界最大のAIチップ工場にすることをもくろむサイトにまで、運ばれているのだ。

そのためには、7日という時間、大量のトラック、たくさんの許可、そしてケーブル会社、発電会社、運送業者などからの人員、数人の地元警察官やハイウェイパトロール隊員が必要だった。貨物が通れるようにするには、ルートに沿って、電線や信号を物理的に動かす必要もあった。また、ルート沿いで暮らす人々にとっては生活に大きな支障をきたすことになるため、最大規模のスーパーロードに関しては、新学年が始まる前に輸送を済ませておく必要もあった。

ちなみに、コールドボックスは、空気分離装置と呼ばれるものの一部を構成する。マイクロチップを製造するには、工場のフロア全体をクリーンルームにする必要がある。顕微鏡でしか見えないようなホコリでさえ、シリコンウェハーを台無しにする恐れがあるからだ。そのため、空気を構成成分に分離し、窒素を使ってほかの気体、湿気、微粒子を装置やツールから除去する必要がある(空気を構成するほかの気体も製造工程で利用される)。最終的には、インテルの新しい1,000エーカー(約4km2)の敷地内に、4つのコールドボックスが高層ビルのように積み上げられる。

ルート沿いにはスーパーロードのファンが集まっていた。みんな、オハイオ州運輸局のFacebookページを見て情報をチェックしてきた。コメント欄を見る限り、多くの人は輸送を応援しているようだ。ある女性にいたっては、クルーにブラックベリーパイをプレゼントしたほどだ。だが、渋滞に巻き込まれることに怒りを示す人も、それほどまでに巨大なものを運ぶ行為に興奮する人もいる。輸送の様子を自分の目で見ようとする人も。

エミリー・ストーンはキャンプ用の椅子を持ってきた。友人からは貨物チェイサーと呼ばれている。今回は2度目のスーパーロード見物となる。「アメリカの小さな町では……こんなことはめったに起こりません」と彼女は言う。ストーンはここで生まれ、ここで育ち、ここでの暮らしを愛している。かつて、ポーツマスには靴工場や製鉄所、レンガ工場もあった。近所の大型プラントは核兵器用にウランの濃縮を行なっていた。かつては超大国同士が競い合っていた技術だ。ストーンの父親もそこで35年間働いていたが、01年に同プラントがウランの濃縮をやめたあとに、白血病で命を落とした。その後、検査で放射性物質が見つかったため、近くの中学校は閉鎖となった。ストーンは公的責任を負おうとしないプラント運営者に対する抗議活動を続けていた。

ほとんどの産業が死滅したポーツマスは、オピオイドが流行する町の典型となった。ある時点で人口あたりのオピオイド製造所の数が全国1位となり、『Dreamland』という極めて重要な書籍の舞台にもなった。同書によると、00年代初頭には、オピオイド系鎮痛薬のオキシキチンが現地通貨として利用されていたほどだ。ある女性は、錠剤でクルマを買ったと報告している。当時、製薬技師として働いていたストーンは、オピオイドで金儲けをした人も、オピオイドで命を落とした人も知っていると語る。

そんなストーンにとって、スーパーロードの輸送風景はまたとないレジャーなのだ。しかし、貨物がオハイオ州で最も貧しい地域から最も豊かな地域へと運ばれるのを見て、一部の人々がこの輸送に対してよい印象をもっていない理由を理解した。「みんなすでにぎりぎりの生活を強いられているのに」、彼女は言った。「誰も理解できないほど大きな、巨大な貨物が、ただ通り過ぎていくだけなんです」

「これらスーパーロードがどこから来たのか、不思議に思う人はいないのだろうか?」。誰かがFacebookに書いている。

「こうしたすべてにうんざりしている」との投稿もある。「大企業とはあらゆる場面であらゆる人々を踏みにじりながら、同時に会社は人々のために働いているのだと大衆を信じさせようとするものだ」

「彼らはオハイオ州南部にいかなる利益ももたらさない」と別の人は書いた。

ストーンとわたしは、見るよりも先にその到着を聞いた。西のほうから大きな重低音が聞こえてきた。ボーイング747の胴体よりも長い巨大な白い箱が見えた。セミトレーラーと呼ばれるトラックが2台で動かしていた。1台が前で引っ張り、もう1台が後ろから押す。3台目が伴走していて、貨物が上り坂を走るときはサポートに入る。2名の男性が貨物の後ろにある狭いデッキに陣取り、急カーブでコールドボックスの方向転換を補佐するためにあるステアリング・コンソールを操作していた。

わたしはオハイオ州運輸局のスポークスマンであるマット・ブルーニングとともに州政府のクルマに飛び乗った。ブルーニングは以前ラジオニュースのレポータをしていたことがあり、最近では以前働いていた放送局のひとつで、AIが広告のナレーションをするようになったと語った。ブルーニングとムースはFacebookを介して、クルーのなかでもちょっとした有名人になっていた。「スーパーロード13番がいままさに方向転換している」とブルーニングが投稿した。わたしたちは北へ向かって貨物の少し前を走った。

ルート沿いの町々を盛り上げる

インテルが、わたしたちがここに来ることを望んだ。スーパーロードを追うというのは、インテルのアイデアだった。同社が、ルート沿いの町々を盛り上げるために、数は少ないながらもお揃いのTシャツを着て楽しそうな人々を動員して、交通渋滞でいらいらする人々の気をそらし、一帯を楽しい雰囲気で満たそうとしたのだ。インテルのテントを張り、インテルのロゴが入った鳴り物やおもちゃを子どもたちに配り、フードトラックの横にインテルのブースを設営した。人々にVRヘッドセットを被せてファブ内での仕事の様子を見せている。そこでは白いバニースーツを着たエンジニアが、高価な機材の並ぶ無菌室を歩き回っている。

車列に話を戻そう。まだポーツマスも出ていないのに、猛烈に暑くなる時間にさしかかっていた。スーパーロードは平均して時速およそ10kmで移動する。そしていま、ステアリング・コンソールのエンジンのベルトが切れた。クルーのひとりがそれを修理しているあいだ、全車列が停止した。

人々がポーチに出て、高所作業車に乗った数人の男性が大きな交差点の上に信号灯を吊るしている太い片持ちアームの固定を緩める様子を眺めている。貨物が通るときに、アームを回して信号を進路から退避させ、通り過ぎたらまたもとに戻すのだ。薬物リハビリセンターの前でも人々の一団が見物していた。これこそが、いまのポーツマスを代表する施設だ。ポーツマスは依存症に陥った人々が治療とカウンセリングを受け、職業訓練を行ない、仕事を見つける場所として知られている。『Dreamland』の著者はポーツマスに関して、この町が最悪のオピオイド危機からいかに再生してきたかをテーマに、新しい章を書くことに決めた。

ブルーニングがエアコンの効いている車内で待つことを提案した。だがそのとき、「アイスクリーム、シェイク、サンデー、サンドイッチ、フッター」と書いた看板を掲げる「モルトショップス」という名の昔ながらの複合店が近くにあることに気づいた。何人かのクルーおよびインテルスタッフとともに、わたしはそこへ行き、あれこれと注文した。

クルーは全国各地からやってきていた。ジョー・ジョーンズとその仲間はデトロイトから来ていた。以前はフォードの部品をつくる会社で働いていた彼は、コロナが始まるまでは自動車産業も順調だったと語った。だが、チップ不足が始まってからは、「あまりにもストレスが増えた」そうだ。フォード車は「チップだらけ」だと、ジョーンズは言う。どの車両にも数百あるいは数千のマイクロチップが使われている。支払いが終わっていない車両を動けなくすることも可能だそうだ。ジョーンズの話では、チップこそが「次の戦争の原因」になる。その彼はいま、いとこの公共事業会社で働き、今回はスーパーロードのじゃまにならないように、送電線を高く持ち上げる作業に携わっている。

リックとジュリアのミラー夫妻はフロリダ州北部から来ていた。リックはかつて屋根工事の監督をしていたが、コロナの時期に職を失った。ジュリアは赤褐色の卵を産む高級鶏を育てていた。そんな折、友人から特大の貨物を運ぶ大型トラックを誘導するパイロットカーをビジネスとすれば、全国を見ながらお金が稼げると聞いた。今回はすでに70代のミラー夫妻が、オレンジの旗と「特大貨物」と書かれた大きな旗を装着したトラックに乗って、スーパーロードの車列を誘導している。

スーパーロードのルート
ミシシッピ川とオハイオ川を荷船で運ばれたあと、スーパーロードがオハイオ州マンチェスターからニューオールバニまでたどった陸路。インテルの物資を荷下ろしするために、マンチェスターには仮設の港をつくる必要があった。

ダニー・ホークはケンタッキー州中部から来ていた。スーパーロードを引っ張るリード役のセミトレーラー・トラックを運転している。これまでほぼ50年にわたってトラックを運転してきた。「2年前に引退しました」と彼は笑う。「それなのに、まだやめることができなくて」。この種の仕事をする資格をもつ人が少ないため、いまだに依頼が絶えないそうだ。

そして、ムースもいる。もちろん有名人で、ソーシャルメディアでは鋭いミームを展開している。本名はキーラン・ドライリーで、ニュージャージー州から来ている。ステアリング・コンソールの修理が終わったと、無線から聞こえてきた。スーパーロードがモルトショップスのほうへゆっくりと移動し始めるのが見えた。ムースの上司がのちに教えてくれたのだが、エンジンを分解して壊れたベルトを取り替えたのではなく、単純にまったく別のエンジンを取り寄せて、それで壊れたのを置き換えたそうだ。

インテル復活への道筋

パット・ゲルシンガーはインテルを立て直すために同社に戻ってきた。

ゲルシンガーが最初にインテルに入社したのはまだ18歳のころで、同社はハイテク業界のまさに中心的存在だった。価格は高騰しないにもかかわらずマイクロチップ上のトランジスタの数は2年ごとに倍になるという、当初は現実の観察であったがのちに予言とみなされるようになった「ムーアの法則」を打ち立てたのは、彼のボス、インテル共同創業者にしてCEOだったゴードン・ムーアだ。インテルは世界初の一般市場向けのマイクロプロセッサーを発明し、シリコンバレーを果物の産地以上の存在にすることに貢献した。人々は同社のことを、ハイテク業界の「四騎士」のうちの1社とみなした。

ゲルシンガーもその一部だった。彼は100万個を超えるトランジスタを搭載した最初のプロセッサー開発におけるチーフアーキテクトだった。しかし、彼にとって最初のインテル時代が終わるころ、本人の言葉を借りて言い換えれば、最高技術責任者として09年に「追い出された」ころ、会社はすでに足元がおぼつかなかった。

インテルはPCチップ市場でこそかなりの利益を上げていたが、06年に当時のCEOだったポール・オッテリーニが、スティーブ・ジョブズとの契約を断念し、アップルの新デバイス用のチップを製造しないことに決めた。オッテリーニは、アップルの新デバイスは売上が伸びないと考えたのだ。そのデバイスこそがiPhoneである。それ以降、携帯電話業界全体が、インテルではないチップ規格を採用した。

数年後、数多くの人工知能研究者が、それまでずっと技術的な発展は望めないと考えられていたニューラルネットワークのトレーニングを始めた。その際に利用したのは、NVIDIAが手がけたチップアーキテクチャだった。その目を見張る成果が息をのむようなAI時代の到来をもたらし、NVIDIAがその支配者として君臨した(さらに悪いことに、過去20年にわたってインテルはNVIDIAとOpenAIの主要株主になるチャンスがあったにもかかわらず、そのどちらも見送ったと報道されている)。

インテルのライバルの多くがそうであるように、NVIDIAは「ファブレス」企業だ。つまり、独自工場をもたず、チップの設計はするが、製造はアジアにあるチップ製造工場(おもにTSMCとサムスン)に委託する。ほとんどの期間において、インテルは最先端チップの独自生産にこだわってきた。半導体業界に精通するG・ダン・ハッチソンによると、この選択はインテルに大きな利益をもたらす可能性もあったが、実際には10年代の初頭に、インテルは独自のファブにあまりにも複雑な製造技術を導入してしまい、生産できる数が極端に減った。

この失策でインテルは置いてけぼりにされ、10年代後半には、最先端のプロセッサーを製造する技術をもつのは世界でもTSMCただ1社になってしまったと、ハッチソンは指摘する。米国政府はこのことに強い懸念を抱き始めた。TSMCは中国に近い企業だからだ。そこにコロナ禍がやってきてチップ不足が生じたことで、ワシントンの危惧はさらに強まった。

ハッチソンの話では、21年にゲルシンガーがCEOとしてインテルに返り咲いたとき、同社取締役会のメンバーは、会社は設計だけに専念し、製造からは完全に手を引くべきだと提案したらしい。しかし、ゲルシンガーは断固として認めず、インテルは独自チップの設計と製造の両方を大規模に続けながらも、ライバルとなる「ファブレス」企業のチップの委託製造も増やさなければならないと主張した。実際、彼は2030年までに、インテルを世界第2位のファウンドリーにすることを望んでいた。また、10年ほど前にあまりに複雑で生産性の低かったがゆえに会社を苦境に陥れた製造法から数世代がたったいま、18Aと呼ばれる高度な新製造法を中心にすえて、会社を建て直そうと考えた。

ゲルシンガーの計算では、それらすべてを実現するには、連邦政府から何百億ドルもの補助金が絶対に必要になる。そこで彼は、ワシントンで高まりつつある自国経済魂に訴えかけた。CEOの座に就いてから4カ月後、「ポリティコ」に論説を投稿し、米国は「国家安全保障のために緊急に行動する必要がある」と説いた。「アメリカのチップ・リーダーシップ」について語り、のちにはインテルのことを「愛国企業」とさえ呼んだ(ただし、その愛国心には限度があることは間違いなく、ゲルシンガーがバイデン政権に向けた売り込みはとても単純で、「国内製造に補助金を出さないなら、インテルのファブをよその国に建てる」だった)。

ゲルシンガーは21年の多くの時間を欧米諸国の高官との会合に費やした。ワシントンでは、純粋に米国企業に資金を求めるロビー活動を行なった。

「神が石油をどこに埋蔵するかを決めた」。ゲルシンガーがよく口にする言葉だ。「われわれはファブをどこに建てるかを決めることができる」。ワシントンがもたもたしている一方で、インテルはアリゾナ州にある既存の敷地にふたつの新工場を立ち上げ、ニューメキシコ州にある事業を強化し、全国で新規の候補地を探し始めた。そして、オハイオ州に建設するというスプリンゴウスキーのアイデアを採用したのだ。

ロレインを建設地とはしなかったのは、土地の広さが問題になったからだ。インテル関係者の話では、同社は1,000エーカー近くのすぐにでも着工できる土地が必要だったのだが、ロレインには単純にそれがなかった。そこでスプリンゴウスキーは、州の経済開発局の民間バージョンと呼べる「ジョブズオハイオ」という組織を介して、候補地として名乗りを上げた人々とインテルを結びつけた。一方、もうひとつ別の「ワン・コロンバス」という組織が、州都コロンバスの郊外にある小さなニューオールバニに横たわる農地を提案した。偶然、敷地のすぐ近くには大型の国際ビジネスパークも存在する。この取引には、50人以上の地主からの土地買収も含まれていた。オハイオ州も、独自に多額の補助金を出した。インフラの改善、コストの相殺、所得税優遇などで、およそ20億ドル(約3,150億円)に相当する。

22年1月にオハイオ州での建設を発表した際、インテルは最終的には1,000億ドル(約15兆7,300億円)を同州に投資し、合計で8つのファブを建てると約束した。実現すれば、世界最大級のマイクロチップ製造サイトが誕生することになる。同年3月、ゲルシンガーは一般教書演説にゲストとして招かれた。バイデン政権は、最先端の半導体を製造できる唯一の米国企業であるインテルを重視していた。ハッチソンの意見では、ゲルシンガーが指揮を執ることで、インテルは実際に復活する可能性があると考えられる。バイデン大統領はオハイオ州のサイトを「フィールド・オブ・ドリームス」と呼び、議会にCHIPS法を可決するよう要求した。議会は22年8月にその要求に応じた。ジーナ・レモンド商務長官はインテルのことを「半導体企業のアメリカ・チャンピオン」と呼ぶようになった。

しかし、最終的に米国政府は安全策も講じた。米国企業だけに投資すべきというゲルシンガーの要請には応じず、他国の企業にも補助金を出したのである。24年3月、インテルには85億ドルの助成金と110億ドルの融資を約束した。これは、CHIPS法によって確保された資金からひとつの企業に割り当てられた最高額だ。だが、その次に多くの支援を、インテルのライバルが得た。TSMCは米国内でのファブの建設のために、66億ドル(約1兆円)の助成金と50億ドル(約7,800億円)の融資を得た。最初のファブは25年にアリゾナ州で稼働する予定だ。サムスンも64億ドル(約1兆円)の助成金を得た。

インテルの抱える問題の根は深い

その翌月、連邦からの補助金がインテルの口座にまだ到着していないころ、同社は投資家たちに対して、会社が問題に見舞われている事実を公表した。前年に70億ドル(約1兆1,000億円)、年明けの第1四半期に16億ドル(2,500億円)の損失を出したのだ。インテルの株価は急落した。ここ半世紀で最大の下落幅だった。インテルは配当金の支払いを中断し、従業員の15%に相当するおよそ15,000人を解雇すると発表した。

この問題の原因の一端は、ほかのほとんどのテック企業と同じで、インテルもパンデミック期に観察された「生活のオンライン化が今後も永遠に続く」というバラ色の予想を信じ、過度にそれに賭けてきたことにある。「コロナ禍の業界がどれほど甘美なハイ状態に陥っていたか、われわれの誰ひとりとしてはっきりと気づいていなかった」とゲルシンガーは言う。しかし、インテルの抱える問題の根は深い。

わたしはゲルシンガーに、社内の問題に目を向けずに、政府から補助金を引き出すために多くの時間を費やしたことを後悔しているかどうか、尋ねてみた。すると彼は、自分やほかの人々がこの機を捉えていなかったら、CHIPS法は決して実現しなかったと述べたうえで、いまも以前と同様、インテルを立て直す計画に自信をもっていると答えた。「もちろん、いくつかの方法は考え直す必要はあるでしょう」とゲルシンガーは言った。「ですが、戦略そのものを変える? 答えはノーです」。インテルは単純に、悪い1年をやり過ごす必要があると語り、こう付け加えた。「新工場はまだ稼働していません。新プロセッサーはまだ完成していません。新製品はいままさに誕生しようとしているところです」

インテルは最近、アマゾンおよびマイクロソフトを相手に、新しい製造法を用いたカスタムAIチップの供給契約を結んだと発表した。また、国防総省向けのチップを35億ドル(約5,500億円)で製造する契約を獲得したことも明らかにした。それでもなお、投資家の多くはマイクロチップの設計と製造の両方に注力するゲルシンガーの姿勢に疑問を抱き、設計と製造に分けて会社を分割すべきだと主張している。インテルの買収を望む声は、クアルコムなど、規模のはるかに小さい会社からも聞こえてくる。実際のところ、テック業界ではほぼ毎日のように暗い見出しが踊っている。24年10月『The New York Times』が、レモンド商務長官はインテルをはじめとした米国テック大手に新規顧客を獲得しようと積極的に活動しているが、成果はほとんど現れていないと報じた。

ハッチソンは、少なくともあと1年は経たないと、インテルが本当に立ち直れるかどうかは明らかにならないだろうと指摘する。彼自身は、インテルの新しい18A製造プロセスに「とても期待している」そうだ。その一方では、国家安全保障上の懸念がかつてないほどに高まっていて、「もしインテルが再生できなければ」ハッチソンは言った。わたしたちは「おしまい」だ、と。

インテルの動向とは関係なく、今後第2のCHIPS法の話が間違いなく出てくると予想される。その際、議会は当然ながら最初のCHIPS法が成功したかどうかを問うだろうと、『半導体戦争』の著者であるクリス・ミラーが指摘する。「だが、議会は国際的な環境にも目を向けることになると考えられる」とも付け加えた。中国にはすでに第5あるいは第6のCHIPS法に相当する法律があり、これまで推計1,500億ドル(約23兆6,000億円)ほどの補助金を支出してきたのである。実際には、この額よりもはるかに多いと考えられる。

したがってミラーは、たとえ第1や第2のCHIPS法でインテルらが率いる米国内の半導体製造業の健全化につながらなくても、あるいはこの政策により国内業界の競争が促進されるどころか鈍ることになったとしても、それでもやり続ける価値があると考える。それが、台湾海峡で事態の深刻な悪化が生じた場合に備える保険となる。もし、台湾海峡で有事が起これば、「世界的に製造が乱れ、世界経済が被る損失は数兆ドル規模に達するだろう」とミラーは言う。「これは過大評価ではありません。まっとうな推測値です」

オハイオ州で最も裕福な億万長者

奇妙なことに、オハイオ州ニューオールバニはとてもなじみ深く感じられるが、わたしがそこを訪れたのは間違いなく今回が初めてだ。40年前、そこはコロンバスからクルマで20分ほど離れた場所にある小さな農村だった。町長のスローン・スポルディングによると、当時は乳製品店と飼料店がひとつずつあったそうだ。そのころ、レスリー・ウェクスナーという富豪が土地を買い上げ始めた。「ウォルト・ディズニーのように」とスポルディングは言う。

ウェクスナーはオハイオ州で最も裕福な億万長者だった。ロシア移民の衣服屋の子として、デイトンで育った人物だ。1963年、ウェクスナーは叔母から資金を借りて、自分の店「ザ・リミテッド」を開いた。基本的に、いまでいうファストファッションを発明したのだ。そして82年に、ウェクスナーはヴィクトリアズ・シークレットという名の小さなランジェリー事業を買収した。

ウェクスナーは、自身の「メンタルモデル」としてラルフ・ローレンの名を上げる。こちらも移民の子として、牧歌的なワスプのファンタジーを売って名を上げた人物だ。ウェクスナーはヴィクトリア・スチュアート=ホワイトという架空の人物を核に置いて、ヴィクトリアズ・シークレットの構想を膨らませていった。初期のカタログには「No. 10 Margaret Street, London W1」というアドレスが記されているが、これは偽のアドレスだ。会社はコロンバスにあった。

「わたしは自分の世界を創造するために事業を立ち上げた」と、当時のウェクスナーは語っている。ヴィクトリアズ・シークレットが大きくなるにともない、コロンバスの市街地を刷新しようとしたが、これは市から拒否された。そこで彼はニューオールバニに目をつけ、およそ400エーカーの土地に、馬小屋、庭園、テニスコート、27ホールのゴルフコースなどを備えた約5,500m2の施設を建設した。そこを中心に、彼は独自のストーリーをもつ新たなコミュニティの構築に乗り出す。ウェクスナーの支援を受けて町の開発に取り組んだ不動産開発会社の言葉を借りれば、「19世紀から連綿と続く伝統が建物と土地のあいだに調和を生み出す」場所だそうだ。

ニューオールバニの開発において、ウェクスナーにとって最も親密なパートナーだったのが、彼の財務担当者で相談役でもあったジェフリー・エプスタインで、この人物がのちに女性や児童に性的虐待を行ない、売春を強要したことで悪名を轟かせることになる。ウェクスナーはそのような違法行為の存在を知らなかったと主張し、07年にエプスタインとの関係を断ったと述べている。

現在、ニューオールバニでは、道路から少し離れたところにあるレンガづくりのミニマンション群でおよそ11,000人が暮らしている。クルマで走っていると、自分はいま、オハイオ州よりも古くて奇妙な土地にいるような、あるいは何かの間違いから、誰もがポロシャツを着ているコロニアル・ウィリアムズバーグ野外博物館に入り込んでしまったかのような気がしてくる。

高校はモンティチェロに似ている。いたるところに馬用の白い柵があるので、どこにいても、常に自分が農場の脇にいるような気になる。納屋のように見える建物が実際はレストランだったりする。商店街は郊外へ追いやられ、その代わりにガソリンスタンドやファストフード店など、見栄えのしない店が並ぶ。16ページにわたるニューオールバニの「市街設計原則書」は、18世紀英国のジョージ王朝様式はオハイオ州に存在したことがないと認めながらも、この様式を町の建築スタイルの根幹とすべきであると示唆している。ほかのデザインは「アメリカ様式にすべきだが……20世紀の様式は除外する」とされている。おそらく、21世紀の様式も除外したのだろう。「ここのデザインは時代を超越しています」とスポルディング町長は言う。「わたしに言わせれば、とてもアメリカ的です」

町に隣接するかたちで、今回の誘致の真の原動力となった「ニューオールバニ国際ビジネスパーク」がある。アバクロンビー&フィッチやバス&ボディ・ワークスなどといったウェクスナー関連企業の本拠であり、そのほかにもディスカバー・カード、ステートファーム、アメリカン・エレクトリック・パワー、エトナ、アマゾンとグーグルとメタのデータセンターが拠点を置いている。そこに今回、インテルが加わった。

数キロ先からクレーンが見える。インテルが「メガサイト」と呼ぶそこは、ディズニーランドふたつ分の広さを誇る。インテル部隊はわたしを決して内側に入れてくれないが、ビジネスパークの外周をクルマで一周するだけで1時間かかった。工業地区には工業地区独自の景観基準や設計基準がある。未完成の建物を隠すために新しい土手をつくったり、若い木を植えたりする、などだ。

ニューオールバニにたどり着くために、スーパーロードはかなりの回り道をする必要があった。コロンバスの高架道路やそのほかの障害物を避けるためだ。今後は、インテル部隊は地元の農場や商工会と手を組んで、貨物車列が通過するときに「インテル・スーパーロード観覧パーティ」を開く予定だ。今回の輸送では、そうした祝いのほとんどがインターネット上で行なわれた。オハイオ州運輸局のマット・ブルーニングが「仕事が終わった」と投稿すると、誰かが「ムースに乾杯」と書き、それに対してムースは、「きみはやさしすぎるよ」と応じた。

そうしたインテルの投稿では、オハイオ州の88の郡を示す木製のマップが表示されることが多い。このプロジェクトが州全体に利益をもたらすと主張するためだ。同社は、ファブ内部における高給職で3,000人の雇用と、ファブ建設作業員として7,000人の雇用を約束した。ジョブズオハイオは、追加の仕事による相乗効果を含めて、少なくともその3倍の雇用が実現すると予想している。これまでのところ、インテルは建設要員として2,300人を雇用したと発表したが、ファブはまだひとつも完成あるいは稼働していないため、製造要員の雇用はまだ100人を超えていない。

わたしは、経済開発団体ワン・コロンバスの長を務めるケニー・マクドナルドに、インテルの計画によって恩恵を受けるのはコロンバス周辺の元から豊かな地域だけなのか、それとも州南部や北東部の比較的貧しい地域も利益にあずかることができるのかと尋ねてみた。すると彼は、ミッドウェスト地域、つまり米中西部全体によりよい競争をもたらすだろうと答えた。政治学者で『武器化する経済』の共著者でもあるヘンリー・ファレルは、今回のようなプロジェクトは、米国をかつてのような産業超大国にすることはないだろうと指摘する。それでも州政府や連邦政府は「雇用にはあまり影響しない」巨額投資をすることに前向きだ。なぜなら両政党ともに、脱工業化を果たしたミッドウェスト地域の支配をもくろんでいるからだ。

スプリンゴウスキーは、ロレインにふさわしいものを望んでいるだけだと言う。ロレインは07年の不況をまだ完全には脱していないと彼女は言い、対照的にコロンバスとその周辺は活況を呈していると述べる。スプリンゴウスキーにとってせめてもの救いは、インテルがオハイオ州にあるカレッジや大学に数千万ドルを寄付すると約束したことだ。ロレイン郡コミュニティ・カレッジもその恩恵を受けるだろう。彼女はいまだにチップメーカーあるいはインテルのサプライヤーをロレインに誘致するために、ロビー活動を続けている。チップの製造方法についても、インターネットで情報を集めている。最近では、レアアースの加工に興味があるそうだ。

ロレインにインテルが求める広さの土地がない理由として、スプリンゴウスキーは、1世紀前にロレインに建てられた製造所や工場がいまは放置されて廃れている事実を指摘した。それらのいくつかは、町の中心で数百エーカーもの土地を占有しているそうだ。新しい何かを建てる場所を確保するために、「それらを撤去すればいいのでは?」と彼女は問いかける。

(追記:24年10月25日付けのポッドキャストでドナルド・トランプはCHIPSおよび科学法をこき下ろし、同法は関税を利用してチップ生産を合衆国に誘導することはなく、「豊かな企業に大金を投じる」だけであるため、「最悪だ」と述べた。その翌週、下院議長のマイク・ジョンソンが、共和党は同法を「おそらく廃止する」ことになると述べたが、のちにその発言を撤回し、同法は「廃止議論の対象になっていない」とコメントした。トランプが大統領に選出されてからの数日で株価が12%上昇したインテルは、あまり心配していないようだ。同社はまだ、CHIPS法を通じて配分された資金のすべてを受け取ったわけではないが、広報担当者によると、「商務省が今年の終わりまでに支払いプロセスを終える予定だと公的に発表した」そうだ。

さらに言えば、「アメリカファースト」を標榜し、外国製品に関税をかけると公言する政権から恩恵を受ける最先端チップの製造業者は、米国メーカーだけであると考えるのは理にかなっている。「CHIPSおよび科学法というアイデアは第1次トランプ政権で生まれたものであり、それ以降ずっと両党から強い支持を得てきました」とインテルのスポークスパーソンが指摘した。「この共通の優先事項において、トランプ政権と協力することを、いまから楽しみにしています」)

(Originally published on wired.com, translated by Kei Hasegawa/LIBER, edited by Michiaki Matsushima)

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