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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
22 時の揺り籠
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22−3



 颯爽とダンジョン内に足を踏み入れたパーティを追い、それじゃ私もそろそろ行くか、と。木陰から踏み出して。ふらっと目的の建物の門、蔦の這い上がる白い鳥居(?)へと足を進めていったのだ。

 前の世界のお国柄にて、鳥居かな?と思った門は、あんな感じの佇まいであり西洋風のデザインだ。ちょっとイカして言うのなら、白き門、ってヤツだろか。本日はおもいきり晴天なので、それを交えた風景が転生ものの神空間にあって然るべき幻想さである。

 古いけど新しい。新しいようで古きもの。ルーデル第三研究所やポーダの斜塔の先進さとは違うベクトルに向いている、いかにも“不変”と語っていそうな古と新の融合である。

 おそらくこの神殿は、ダンジョン百科の絵の横に認められていた光の(ルクシーア)神殿の記述より、よほど白亜で幻想的な佇まいなのではないか———。そう思わせる気配というのが門の奥より滲み出ている。


——なんて綺麗な…。


 うっとりと溜め息が出そうな心地で以て、ふと伸ばした指先が白亜の支柱に触れる前。


——あ……触っちゃまずいかも。


 と、伸びた指先を引っ込める。

 そういう制度はこちらの世界には無いのだが、見た目が世界遺産級…迂闊に触れては悪いだろう、と。

 ここが空間の境界線、か。そんな事を考えながら白き門より一歩踏み出し、クン、と広がる己の視野に違和感を覚えるが。


——お、おぉ〜〜!さすが神殿。ちょっとした錯覚が見える仕掛けか?


 そんな単純な考察一つで、済ませる私の意識の低さ。

 ダンジョンの入り口は門と似たような白亜の造りで、両側の柱に彫り込まれた草花模様が、これまた格上の佇まいを見せている。薄暗い内部の空間からは、キラキラとした粒子の波が足元に打ち付ける。奥からサラリと流れ出てきた光の波を足で打ち消し、周りに生じた空気の渦に翻弄されて流される、光の靄(もや)のような物質を、ふんわり上から踏みつけて楽しむ時間を持ってみて。薄闇色に隠された神殿の奥、初めの通路を覗き込む。

 奥に向かうほど色を濃くする闇空間に意を決し、踏み出した廊下には、編み上げられた光の線が。見上げれば、天窓らしき場所より注ぐ緻密な模様が落ちていて。


——うわぁ…すごい……光のレース…。


 と。思わず口を開けてしまったのはご愛嬌という事に。

 しかも足元の辺りには入り口で見た光の波がうっすらと漂っていて、所々を暈しているので、只のダンジョンの床面が印象主義の絵画のようだ。

 それでも気を取り直したら奥へと進んでいくのだけれど、まるで名画を踏む感覚に妙な罪悪を覚えたり…。

 初めの通路はほどなく終わり、本格的な神殿域へと足を踏み入れてみたのなら、ぱあっと広がる異空間に、本日二度目の惚け顔。

 そこは天井の高さが知れぬ、闇を浮かべた魔空間。どう考えても外から見えた構造物の高さ以上。床と同じ色をした白亜の巨大石柱が、高さの知れぬ漆黒に遥か上空でのまれて消える。夜空、とも思える闇には、大小、角度もランダムに金の文字盤が無数に刺さり、オーケストラの音合わせを彷彿とさせるA(ラ)の音が、華々しく、控えめに、私の耳に降りてくる。

 カチカチと鳴りそうな秒針らしき針も見え、恐ろしい勢いで分針を進める盤もあり、時針が逆巻く時計盤も散見できるのだ。

 文字盤の装飾か、歯車を描いたものや、惑星の系列めいた秩序ある模様も見える。

 幅はゆうに300メートル、奥行きは1キロありそうな広大な異空間。手前から奥に向かって一定の間隔を置き白亜の支柱が立っているのだが、螺旋を描くようにして柱を飾る数字の蔦は尚一層圧巻だ。

 あ、こちらは大陸数字、お、こちらはエルフ文字。へぇ、古代イルド文字。そして珍しい、セーヌ文字。精霊文字の支柱の奥に這っているのは消失文字だ。現在、主に使われている大陸数字以外の数は、どう読むのかさえ怪しいような数字と思えぬ紋様である。

 勇者様らが通って行ったすぐ後とあってだろうか。それとも湧きが遅いのか、出会う事の無いモンスター。控えめな音の降る神秘的な大空間を、しずしずと奥へ進んで行って、続く広間へ踏み入れば。


 シャラララ、ララ、ラン。


 そんな鐘の音。

 ウインドチャイムを鳴らしたような駆け上がる金属音と。

 ふわん、ふわん、と明滅に合わせ、辺りに圧を発生させる、鼓動のような動きを見せる巨大な砂時計。


——時球時計(スフィア・グラス)……!!


 と浮かんだ言葉に、鼓動の余波が打ち付けて。

 時計の周りをくり抜くように、半球状に掘られているらしい、石壁に刺さる加球のための白い階段が、暗闇で淡く瞬く壁面(グラス)の放つ光を受けて、螺旋模様に成りきらぬ弧を描く姿を見遣り。


 大きい砂時計。

 ほんとだ、時球が残り少ない。

 あの足場を登って行って…上から時球を足す、のかぁ…。

 あ、下で消失が起きた。

 最後は薄〜くなって、シャボン玉が弾けるように、パッて消えるのか……。


 とか。

 まじまじと観察を。

 この空間も天井知らずの深い闇の帳が見えるが、時折、そこから光が降って時球時計(スフィア・グラス)にぶつかって、弾けた光が数字に変わり、羅列の波を辺りに散らす。

 光の雫の高音が、キン、と静寂に響いたら。

 弾け飛んだ数字の羅列が、ウインドチャイムの音(ね)を響かせる。

 壁面に触れた光の雫は時計(グラス)全体に波及して…鼓動のような明滅と、優しい空気の圧を発する。


——そして、ほら、また一つ。


 揺蕩う闇の空から落ちる、時を含んだ光の雫…。

 一拍後には爽やかな音を響かせながら、数字の羅列となって私の髪を撫でていき。そんな衝撃と変化を見せる巨大時計の存在感は、あぁ、私の存在なんて、それっぽっちのものなのかもな…と。全く卑屈を含まない、客観的な想いを起こす。

 そこへ、ふと。


「おい、クライスならあっちの方に時球探しに行ったけど?」


 と、後方より時球を抱いたソロル少年がやってきて。


「お〜、大量ですね。収納に入れてきたらいいですのに。抱えてくるの大変だったんじゃないですか?」


 と、しばし会談。


「そうなんだけど…道具袋にしまえなかったんだよね、これ。ここから持ち出せない制約があるのかも知れないね」

「へぇ…そうなんですか。お疲れさまです、ですね」


 うん、まぁね、と少年は言い、一度足場を登って行って、時球時計(スフィア・グラス)に時球を足すと、それで?な感じで向き直る。


「行かないの?クライスのとこ」


 うーん、と私は気持ちで唸り。


「なんか、魅入られちゃったんですよねぇ」


 この空間がものすごく、素敵な要素で出来てるもんで…( ̄∇ ̄*)ゞと。


「だからもう少しこの場所に居ようかな〜と」


 そんな間延びした返事をぽつり。

 ソロルくんは「ふーん」と言って、お前も物好きだな、と。特徴的な耳を掻き掻き、仕事へと戻っていった。

 こんな問答をその後、二度ほど。

 巨大な砂時計型の時球時計(スフィア・グラス)の表面に、不意に、パチパチと破裂する光が走り…。


 どうして、そんな事をしてみよう、など。思ってしまったのだろう。

 線香花火の火花のように、もしかしたら全く熱くないかもしれない、などと。


 触れてみたい———。


 と瞬間的に思ってしまった私の足は、誰も止める人の居ない事をいいことに…。

 ふらふらと、魅入られたまま、時球時計(スフィア・グラス)の正面に立ち……。


 パチッ

 パチパチッ


 と、今も表面で散乱している、黄昏色の火花へと。

 そっと手を持ち上げて、触れてみようとしたのである。

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