第11話 ちゃんと勉強するからお腹を撫でててください
数日後の朝食時、ゆで卵を剥きながら朋美が話しかけてきた。
「ねえ、おにーちゃん。えっちゃんがまたおにいちゃんに勉強教えて欲しいって」
「え、まあ、いいけど。どうせ暇だし。お前もいるんだよな」
「今日の放課後に来るって。でも私、塾があるから、ちょっと遅れるね」
吸った息が喉に詰まる。顔を横に逸らしてしまう。壁の大きな姿見に俺のキョドった様子と緩んだ顔が映り込んでいる。
向かいで卵の殻を剥いている妹には、その顔は見られないですんだ。
・ ・ ・ ・ ・
「おじゃまします、すぐるさん」
「いらっしゃい、えりちゃん。言っとくけど、うちでは眼鏡は外しちゃだめだよ」
妹と同じ夏セーラーの彼女はフフフと笑いながら、玄関でローファーを脱いだ。
飲み物を置いて、向かい合わせにダイニングテーブルの席に着く。隣り合わせだといろいろ危険な気がするのだ。
そして二人とも参考書を開いて勉強を始める。
「源氏物語って、ロマンチックですよね」
「まあ、そうかもね、俺、理系だから良く分からないけど」
向かいに座るえりちゃんは、古文の参考書を置いた机の上に、長い黒髪を垂らして指先でもてあそんでいる。白くしなやかな少女の指先に、黒い髪が巻きついてはシュルリと解ける。
「ほら、主人公のプレイボーイなのに一途な感じがいいと思うんですよ。思いません?」
「いや、別に俺そういう趣味ないし」
「本当ですか? 若紫とか、すぐるさん的にはドキドキしません?」
妹の友達の中学生の女の子は、眼鏡の奥から上目遣いに俺の顔を見てくる。
ちなみにこの源氏物語の若紫というのは、好きな女に似ていた幼女をGETして自分好みに育ててたら、なんか興奮してきてついやっちゃうという、割とヤバ目の話である。千年前の小説だからね、ポリコレとかなかったし。
思うんだけど、一途という言葉の概念が彼女と俺とでは違うのかもしれない。
「あ、いや、よく分かんないかなそういうの」
「そうなんですね、私ちょっとお手洗い借りてきます」
そう言って、えりちゃんは黒髪を翻してダイニングから出て行った。
手持無沙汰になってとりあえずスマホを見るけど、妹からの帰るという連絡はない。
俺は適当にX(旧twitter)を巡回して、今日の炎上ネタを見て回る。
「お兄ちゃん! えへっ」
「え?」
スマホから顔を上げる。トイレから戻ってきたえりちゃんは、長い髪をおさげというか、妹と同じ低い位置のツインテールにしていた。
「……えりちゃん、なに、その髪型……」
「ともちゃんと一緒にしてみました。似合います? おにーちゃん、えへっ」
制服も同じだし、一瞬、妹とダブって見えて、頭がくらくらする。
「そっちに座っていいですか?」
「え、いいけど……、あ、眼鏡は取っちゃだめだから」
「大丈夫です!」
彼女はツインテの頭を傾げて自信ありげにうなずくと、俺の膝の上に乗ってきた。
ふんわりとシャンプーの匂いが漂ってくる。
「いやちょっと! なんで!?」
「いいって言ったじゃないですか。重いですか?」
「え、あー、いや、なんというか」
「じゃあもっと脚を開いて、深く腰掛けてください」
ということで俺の股の間に、なぜか妹の友達がちょこんと腰掛ける。そして、机の上に参考書を広げだした。
「えりちゃん、狭くない?」
「大丈夫です。落ち着くっていうか」
俺の方は全然落ち着かない。目の前にはえりちゃんの白いうなじが見える。妹より背が高いので目の前だ。それにシャンプーの匂いが妹と同じ気がする。
「えりちゃん、シャンプー変えた?」
「はい、ともちゃんに聞いて同じのにしました。お兄ちゃんがこれ好きみたいだから」
「待って! そもそも俺えりちゃんのお兄ちゃんじゃないから、そう呼ばないで!」
背の高さは違うけど、妹と同じ黒髪で同じ低いツインテール。シャンプーの匂いも同じ。そんな少女に股の間に座られて、俺の現実認識が侵食されてくる。
慌てて妹との違いを探そうとしてみる。
よく見ると白いブラウスの背中が透けていて、うっすらとブラの線が見えていた。妹はスポブラだけど、えりちゃんは七割ブラでホックも二段ある。ちなみに前にシャワーを浴びている間にこっそり確認した時はやっぱりDカップだった。
よし、妹との違いを確認した! 安心してふうっと息を吐く。
「ん、くすぐったい」
「あ、ごめん」
吐いた息が首筋に当たってしまったようだ。
「いいの。もっとして欲しいな、おにーちゃん」
「えーと、いまのやつ?」
もう一度、目の前の白い首筋にふーっと息を吹きつける。うなじの後れ毛が俺の息で踊る。
「ん、いい」
俺の股の間でセーラー服の少女が軽く身悶えする。妹の友達だと思うとかなりヤバい。妹だと思えば、むしろじゃれてるみたいなものかもしれないけど。
『よし、これは妹だ!』
そう思うことにして邪念を払う。そういえば昔は朋美もこういう感じだったかもしれない。なつかしくなってきたかも。
昔を思い出して、おさげの片方を摘んで、先端で後ろからうなじをくすぐってみる。
「ん、あっ、くすぐったいっ」
「あのさ、えりちゃん、そろそろ退いてくれない?」
「んー、もうちょっと。じゃあ、ちゃんと勉強するからお腹を撫でててください」
「なにそれ」
まあいいか。妹だと思えばそのぐらいたやすいことだ。
ちなみに、夏のセーラー服というのはブラウスの丈が短くてスカートとの間に隙間がある。妹が伸びをするとお腹がちらっと見えてしまうのはそういう理由だったりするわけで、この服のデザインを考えたやつ、かなりセンスあると思う。
ということで、俺は股の間にちょこんと座る夏セーラーの女子中学生の脇腹から手を回して、ブラウスの下に手を入れてお腹の柔らかな素肌を撫で始めた。
えりちゃんがさっきの参考書を持って、源氏物語の朗読を始める。
「……いづれの御時にか、にょうご・こうい、あまたさむらいひたまひける中に、いとやんごとなききはにはあらぬが、すぐれて時めきたもうありけり……」
頭の良さを感じさせるハキハキとして明瞭な彼女の声なんだけど、少しだけ舌っ足らずな発音がいつもと同じで愛らしい。彼女の声の振動が背中から俺の身体へと伝わってくる。
朗読中、彼女が息を吸うたびに、触れているお腹が微かに膨らむのが判る。
指先に感じる、つるんとした感触。素肌が手のひらに吸い付いてくる。
薄く伸びる子供っぽい柔らかな皮膚はしっとりとして、その下に筋肉も脂肪も感じない。ぽよんと柔らかな少女のお腹に手を当てて、内臓をほぐすように指先を動かしてみる。
「ん、それ、ちょっといいです。もうちょっと下」
「邪魔しちゃった? これって性的じゃない? 大丈夫?」
「大丈夫ですっ、お腹についてのルールはなかっ、ん……」
彼女の息遣いが荒くなってきた。いやでもこれは、性的なことではなくて、単にお腹を撫でてるだけなのだ。そうだよね!
「あの、耳も、舐めてください……」
確かに、耳に関する決まりもなかったよな。耳が性的だった世の中みんな困るだろう。俺の目の前で、えりちゃんのうなじの肌はピンク色に染まってきている。
そして彼女の眼鏡を掛けたかわいらしい耳たぶもまた、真っ赤に充血していた。
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