「まずはお母さんのことを解決しよう」

留学中も、母から保険金が入ったと知ってから執拗に連絡が来ることを彼に話すと、彼はこう言った。

「もうしっかり一人で生活をしているから、私にも生活があるからときちんと会って話すべき。今は留学から帰ってきたばかりで、色々思うところもあるだろうけど、まずはお母さんのことを解決したほうが、ほっとするんじゃないか」

彼とよく行く和食の個室をおさえてあげるからとも。こうやって気遣いをされて、優しくされると「愛されている」と感じてしまう。けれど、彼は私の元にはいてくれない人。どこかでけじめをつけなくてはいけないが、彼の意見もその通りだと思った。私たち二人のことはちゃんと時間をかけて話そう。一言で別れると言って離れられる関係ではなかった。先に母とけじめをつけようと思った。

彼が予約してくれたお店に招待すると伝えると、遠方にもかかわらず、母は電車で喜んでやってきた。私が離婚した時にも、泥棒に遭った時にも一切気遣ってくれることはなかったのにと思うと、どれだけ母にとって私ではなく、お金が大事なのかがわかった。そしてなにのために電車に乗ってここに来たのかも。

 

はしゃぐ母の姿

和食店個室に通されると、母はキョロキョロしながら嬉しそうだった。食事をしながら、たわいもない話をご機嫌で話す。話の大半は、姪とどうした、どこへ行ったなど。私は聞く一方だ。父や兄妹の近況を言うわけでもなければ、私の留学がどうだったかを聞くこともない。ただ「綺麗!美味しい、どれも美味しい」と喜んでいた。

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本来なら母と娘で微笑ましく思える光景だろう。けれど私にはプレッシャーだった。こんなに喜ばせておいて、この後「今後二度とお金は渡さない」と言わなければならない。怒鳴られるのか?殴られるのか?私は母を眺めるだけで箸が進まなかった。心なしか、たばこの火を押し当てられケロイド状に残っている手の甲がうずく気がした。そんな私を気にすることなく、母は「食べないの?昔から好き嫌いが多いのよ』と言って、私の食事にも箸を伸ばした。

食後のコーヒーを運んでいただき、緊張しながら母の前に封筒を置いた。母はおしぼりで手を拭いてすぐに中を確認した。10万円入れていた。これまで、初めてもらったバイト代からもお金は取られた。一人暮らしをしてからの初任給からもお金を取られた。手取り15万円ほどの中から2、3万円渡すのも必死だった。「返すから」と言ってお金を渡しても返されたことは一度もない。親だから、これまで育ててもらったからと渡すのが当然のように。