直前のグアム旅行で耳が慣れていたこともあるし、洋楽を聞いていたのも功を奏し、スムースに聞き取れた。慌てて「イエス、プリーズ」と答えると、「甘い飲みものがいいならこれがいいよ」と教えてくれた。シナモンロール代を半分出そうと思ったが、奢りよと言って、店員からシナモンロールとプラスティックのナイフとフォークを受け取って一緒に席につくと、美しい赤い長い爪が印象的で、さっと半分に切ってくれた。
聞き取りは全然問題ないのに、話したい言葉が出てこない。恥ずかしくって、私の英語レベルで話していいのかまごまごしていたけど、当時の黒い長いストレート髪を「きれいね」って言ってくれた。テーブルに置いた私の本を見せてと言ったので渡すと、旅行?一人で?等色々話しかけてくれた。少しずつ、下手ながらにも会話してみるとニコニコしながら、オーバーリアクションで答えてくれた。一人で来たことに、「勇気あるわね」と言われて、なぜか涙が溢れてしまった。褒めてもらえてうれしかったのか?彼の反対を押し切りきた場所で、緊張していたのが解けたからかわからなかったけど、なんだか心を開いてしまった。
iPhoneのGoogle翻訳を使いながら
彼女は電話の画面に「大丈夫」とローマ字で書かれた画面を見せてくれた。私がiPhoneを初めてみた瞬間だった。こんな便利なものがあるのだと、これは何?と聞くと、彼女はこう答えた。
「iPhone知らないの?これ電話なのよ。ブラックベリーと二分化しているわ。あなたの電話見せて」
ガラケーを見せると彼女は驚いていた。それから長い爪で器用にiPhoneを操作し言葉に詰まれば調べたりしながら会話をした。私も電子辞書を持っていたので調べながらだったが、検索するのは明らかに彼女の方が早かった。彼女が私の年齢や結婚しているのかなど聞いたから、自然と今の関係を話した。
彼女はゆっくりと、私にもわかるように話してくれた。
「恋愛ってそういうもの。好きになるって理屈じゃない。妻の立場からしたら恨まれるけど、止められないのよね。妻も、取られたくないなら、旦那を引き付ける努力し続けなきゃいけないし。ほら、綺麗にしてないとよそ見するのが男だから。旦那も、身なりに構わずお腹が出て、記念日を忘れて……妻を喜ばせ続けないと妻からの扱い悪くなるわよ。なぜかしらね、結婚するまではみんなヒリヒリするような恋愛をして、この人と決めて、愛を誓いあって結婚したはずなのに。自分の物になると安心しちゃうのかしら。
子供ができたり、日々の生活でお互い見たくないものが見えたり、油断しちゃって恋愛時代のドキドキも無くなると、よそ見しちゃうのよね。そうなるともう行くとこまで行くしかない。あなたと彼が本当に愛を貫き通して結婚しても、彼とは今以上に努力しないと、あなたの他に目を向けるわよ。不倫って結局そうなの。人の物を奪ったら、奪われるの。そういう浮気や不倫男を選んだの」
私は納得した。どれだけ恋愛経験が少ないといえども、純粋に「私を愛してる」と結婚を夢見ていたのは、恥ずかしいほど未熟で、浅はかな考えだったなと思った。