サンフランシスコに旅立つ

ステイ先はサンノゼの未亡人女性宅2週間とサンフランシスコのIT企業関連の人が多い地区の語学学校で1週間。空港まで送ってくれた彼と私は、永遠の別れでもないのになぜか涙目だった。彼は今から飛行機に乗ると言うのに、ディオールの箱を渡してくれた。箱は持って行けないと言うと、その場で開けてと言った。ストールが入っていた。夜は日本と違い寒暖差があるからと。こういう優しさに、私はいつも、何度も何度も揺らいで彼に心を持って行かれてしまう。添えられていた手紙は機内で読んでと言われて、いつもより強くハグをし、中にゆっくり進んで見えなくなるまで手を振った。搭乗までの待ち時間に手紙を開いた。

「君がいかに大切か。もうすでに家族だと思っている。寂しい、帰りを待っている」ということが丁寧に書かれていた。嬉しくもあった半面、胸が締め付けられる思いになるのは、やはり未来については具体的には何も書かれていなかったから。

サンフランシスコに着いた。これまでの海外とは全く違う感覚だった。あちこちデジカメ片手にキョロキョロしながら歩いていた。当時、確かアメリカでiPhoneが出たばかり。私はまだ二つ折りの液晶がカラーでもないガラケーしか持っておらず、付箋だらけの本を片手に歩いていた。スターバックスが東京に1号店ができたばかりくらいで長蛇の列。私はまだ行ったことがなかったが、サンフランシスコには幾つもあった。

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スタバで出会った人の言葉に涙が…

歩き疲れた私は、サンフランシスコで初めてスタバに入った。つたない英語で購入しようと思ったが、見たことのないメニュー、オーダーの仕方も分からないままあまりにも大きなシナモンロールやドーナツ、ドリンクサイズ、よくわからないサンドウィッチの種類に何を買えばいいか悩んだ。後ろに悪いなと思って、ソーリーと言って並び直そうかと思うと、見上げるくらいとても背の高い派手なメイクとミニスカート、12センチくらいあるピンヒールの女性が親切に声を掛けてくれた。けれど、その声は太く男性と感じるものだった。びっくりしている私に笑顔でこう話しかけてきた。

「シナモンロールを半分個しない?ダイエットしているから」