教育虐待といえば、教育を理由に無理難題を押しつける心理的虐待を指す。2016年には、中学受験を控えた小学6年の息子を父親が刺殺した事件も起きた。
過度に勉強させることだけではなく、勉強をしたくても学ばせないこと、親の望むような学びしかさせないことも十分教育虐待といえるだろう。

そういう意味では、母親から暴力や暴言といった虐待を受けた若林奈緒音さん(40代、仮名)は幼少期からひどい教育虐待にも遭ってきた。「学びたい」という希望を封じ込められてきたのだ。

様々な虐待は成人になっても大きく影響する。
奈緒音さんが自分の虐待の体験を赤裸々に綴る連載「母の呪縛」、18回前編では、泥棒に遭ったことで保険金がおり、それによってそれまで疎遠になっていた母が再度金の無心をするようになったこと、そして当時結婚を考えていた40歳年上の既婚男性は仕事もなにもやめて自分の生活にすべて合わせることを望んでいることがわかったことをお伝えした。

後編では二人から「学ばなくていい」と言われながらも留学を決断し、実行にうつしたこと、そこで最初に大きな出会いがあったことをお伝えしていく。

 

「留学なんかに金を使うなら親に渡せ」

グアム旅行のお土産を妹に届け、保険が出たから留学に行く事を伝えた。妹は大賛成してくれて、悪気なく母に話してしまった。保険金が下りたのかどうか知りたくてうずうずしていた母はそれを聞きつけるや否や、お金を少し助けてほしいと連絡が来た。やはりだ。私は当然断ったが、最初はお願いベース、次に怒り罵詈雑言のメール。

“留学なんかに金を使うなら親に渡すものだ”
“これまで育ててやったのは誰だと思っているんだ”

そして最終的に泣き落としの連絡が続く。この繰り返しが苦痛になり、避けたくなるから結局いくらか渡せば黙ってくれるだろうと支払おうとも思う繰り返し。彼が私にしていることを、私が母にしようとしていることに虚しくなった。お金でつながっているだけじゃないか。いつまで母に支配されるのか。急いで連絡がつかない場所に行かなくてはと思った。

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私が留学したいと思ったのは、ただふたりから逃れたかったらからではない。
高校のとき、母は看護師になれと言った。それが嫌なら手に職をつけろと、兄が通っていた商業高校に推薦で入った。でも本当は英語科で英語を思いきり学びたかった。
当時の洋楽も大好きだったからだ。
サイモン&ガーファンクル
カーペンターズ
MR.BIG
ドラマの主題歌にもなっていた曲を繰り返し繰り返し聞いては口ずさんでいた。英語と国語の成績だけがよかったのも、洋楽が好きだったことは理由のひとつだろう。

しかし、成績優秀な兄でも、希望しても大学には進学させてもらえなかった。
私が大学受験をしたいなんて言えるはずもない。もっと勉強したいなんて言えるはずもない。だからこそ、いまこうしてブランド品からなにから盗まれたとき、自分の中に盗まれない何かを身につけたいと思ったのだ。知識は決して盗まれることがない。英語を学んで話せるようになりたい。それも、自分のお金で行けば文句を言われることもない。
彼に泣いてお願いし、留学を認めさせるには「今しかない」という思いもあったのだ。