「知識をつける必要はない」

この頃にはすでに十分すぎるほど彼に共依存状態になっていた。

彼と少し離れて考えなければと決意した。ひとりでホームステイさせてもらう先を探し、まず3週間行くと伝えると彼は大反対した。「学びたい、勉強したい」「新しいことに挑戦したい」「知識で役に立ちたい」という私に、声を荒げて「危ない、そんなことをする必要もなく英語を学ぶのなら日本で十分」等沢山の理由を並べて、半分怒っているようだった。そして、彼が発した言葉に大きく傷ついた。

「知識をつける必要はない、僕のいう事を聞いていればいい」

まただ…彼に支えられ、助けられている。その引き換えに彼のいう事に全て従えと言われたことに、「囲う」とはこういう事なんだなとハッとした。私はまた誰かの支配下の元にいる所有物になっていた。愛情だと思っていたし対等に大切に扱われていると思っていたが、いつからかただの愛人で、心身ともに彼の意見に「支配」されていた。

どんどん「彼がいないと生活できない人」にさせられていることに気づいた Photo by iStock
 

怒られるより、殴られるより従って所有物になる方がいいと思ってしまうのだ。今のままではいけないと思い、彼の反対や怒りを買っているにもかかわらず何度も泣きながらお願いをした。20代半ばに差し掛かり、周りが結婚していく話が出て来た。同じように結婚ができない人といることがどういうことなのか?今も奥様と別れる気持ちや考えはあるのか?「いつか」は本当に来るの?の問いには、最後まで明確な答えはもらえなかった。最終的には彼が根負けして了承してくれた。泣く子にキャンディを渡しておけばしばらくは静かになるだろうと思ったのかもしれない。

◇幼少期から「学びたい」の希望を封じ込められてきた奈緒音さん。自分を支えてくれると思っていた40歳年上の彼も、ある意味では母と同じでもあった。彼らから逃れて海外に旅立つことを決意した奈緒音さん。母は、彼はどうするのか。

詳細は後編「学ばなくていい」虐待母と40歳年上彼から言われた私の心を決めた海外での出会いにてお伝えしていく。