県母の虐待に苦しんでいたのが若林奈緒音さん(40代・仮名)は幼少期から母親の暴言・暴力といった心理的・肉体激虐待にさらされてきた。今は「自分のように苦しむ人を増やしたくない」と自身の体験に向き合い、連載「母の呪縛」を綴っている。

「虐待」は、する側のケアも、される側のケアも重要になる。また、虐待を受けた方々の心のケアが大切なことを、奈緒音さんの体験は教えてくれる。奈緒音さんが何より求めたのは「誰かに愛されること」「信頼できる人と家族を作ること」だった。20歳の時の結婚も、「求めてくれるから、きっと幸せになれるはず」と思って決めた。

連載17回は、奈緒音さんが40歳以上年上の紳士と深い関係になっていた経緯を伝えている。前編では、妻子のある会社経営の男性だが、妻とはうまくいっていない、いずれ一緒になろうと言ってくれていたことをお伝えした。そんな矢先、奈緒音さんの家に泥棒が入る。震えながら、普段はしてはいけない「彼が家に帰ったあとに電話をかけること」を思わすしてしまったのだが……。

何度も電話を鳴らしたけれど

明らかに泥棒に入られた。荒らされた部屋を前に、私は震えながら彼に電話をかけていた。
出ない。何度も何度も鳴らしたが出ない。彼は家に帰ったら携帯電話の電源をオフにする。ずっとそう言われていたからわかってはいたし、迷惑をかけないというお互いの配慮やルールの元、これまでは彼が家に帰った後にかけることがなかった。けれど、怖くて怖くてたまらなくて電話してしまった。電源は入っていて呼び出しはするが出ない。仕方がなく、110番に泣きながら連絡した。

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警察はすぐに来てくれたと思うが、何時間も後のように感じた。警察の方が来て、指紋や調書を取る間に、彼から折り返しの連絡が来た。第一声が「どうして電話してきた?」と、ルール違反の電話をしたことを窘めるような言い方だった。泣きながら状況を伝えたが、もう家に帰っているから、今から駆けつけてあげられないと言い、警察の方と代わって話してくれた。警察の方は、署に来て被害届を出した後、今夜は頼れる人や泊まるところはあるか? と聞いた。あるわけがなかった。彼が警察の方と電話で話し、私には頼る親も近くにいないことなど説明して警察で保護してほしいと言ってくれたようだったが、それはできないので、どこかホテルで泊まることは可能か?と言われた。

あちこち犯人の足跡だらけで、テレビで見るように黄色いテープで立ち入り禁止が玄関にされていた。私は、職場の店長に連絡をし、事情が事情なだけに3日ほど休みが欲しいと伝えた。店長は快く受け入れて、気遣ってくれた。そして近隣の県に住んでいる妹に連絡をし、身を寄せることにした。バック類は全て盗まれていたため、荒らされたタンスに残っているものから数日分の着替えを紙袋に入れた。洗面台の方へ行くと、化粧品や香水の新品の物やほとんど使っていないもの、比較的新しい靴も盗まれていたことに気付いた。