大切にしてくれる気持ちが伝わってきたけれど
彼は本当に多くのことを体験させてくれた。まるでプリティ・ウーマンのようだと思うこともあった。しかし、それ以前に私のことを大切にしてくれる気持ちが会うたびに伝わってきた。贅沢をさせてくれるからではなく、達筆なお手紙や、何気なく話したことすら覚えていてくれることが心から嬉しかった。仕事帰りや、週末もほとんどの時間を一緒に過ごしてくれた。
それでも夜は一緒にいられない。旅行や出張以外は、必ず自宅に帰る。娘夫婦と孫と豪邸で同居していた。週末の映画デートのあとは、決まってデパ地下で娘や孫のために好物をたくさん買って帰る。それが彼の優しさだと理解はしていたものの、寂しさも感じた。彼はこれから帰って奥様たち家族で食事をするのだ。彼の「帰る場所」は私の元ではない。
彼が「正直な人」で私を信頼してくれているからこそ、家族の細々したことまで話してくれているのだと言えばそうだが、少しデリカシーがないようにも感じた。堂々と家族の話をされ、君は僕の家庭を理解し付き合っているのだから受け入れないといけないと言われているような気がした。その度にやはり不倫は良くない。私だけが我慢したりや寂しい思いをするのは愛じゃない。やめよう、やっぱりやめた方がいいと何度も思った。
けれど、私のそういう思いが彼にも伝わっているのか、その度に「今すぐ結婚はできないけど、待っててね。嫁以上に大事にするよ」と言ってくれた。今すぐはできないけど、結婚を考えてくれているという意味だろう。その言葉に決断が揺らいで、自分に大丈夫と言い聞かせてしまっていた。