出生率0.99…関東では全体の8割以上!『ブラックホール型自治体』が集まる東京の未来は?
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東京で出会い、郊外に引っ越していく…これが“ブラックホール”の正体
人口減少対策を提言するため、’23年に発足した民間有識者グループ「人口戦略会議」の分析によると、2100年には日本の人口は6300万人になるという。東京都には他地域からの人口流入はあるものの、出生率が非常に低い“ブラックホール型自治体”が25あり、新宿区、渋谷区、品川区は消滅可能性都市となっている。このまま進めば、東京は消滅してしまうのか。 【画像】「歌舞伎町はアメリカンドリームが実現できる街」夜だけ営業するケーキ店に連日行列ができる訳 「そんなことにはなりません。15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計した、合計特殊出生率が東京は0.99とされていますが、これは数字のマジック。仮に既婚者が地方と同じ数の子どもを産んでも、未婚女性が多いために出生率が低くなってしまうんです」 こう言うのは、日本大学経済学部の中川雅之教授。 ということは、東京で暮らしていると結婚はしないのか。だから、“ブラックホール”と呼ばれてしまうのかと思うが、そうではない。 政府統計の総合窓口「e-Stat」で公開されている、’22年の「都道府県別にみた年次別婚姻件数・婚姻率(人口千対)」を見てみると、第1位は東京都、2位が大阪府、3位は愛知県、4位は神奈川県と大都市をもつ都府県が続く。 「都市には多様な人が集まり、face to faceのコミュニケーションが可能です。これは効率的にパートナーを探すことができる条件にも該当し、大都市は効率的な結婚市場だといわれています」(中川雅之教授・以下同) ではなぜ出生率が低いのか。都市には多くの企業が集まり、若い人は仕事を求めてやってくる。キャリアを断ち切られるのがイヤで、子どもをもたないカップルが多いのだろうか。 「そういう要素がまったくないとは言いませんが、総務省の国勢調査によると、30歳を過ぎたころから、東京周辺の3県の婚姻率が全国平均より高くなります。つまり、東京で出会ったカップルは、結婚すると近県に移っていっているのです」 若い男女を集めては、巡り合わせ、他県へ送り出している。それが東京の“ブラックホール”の正体のようだ。 「都市は魅力のある場所で、若い人を引き付けていることで生産性を上げている。それによって未婚率が上がるのは仕方がないことだと思います」 ◆人口減少は世界的。もう止められない 仕方がないことなのか。このまま人口減少が進めば2100年には6300万人になるともいわれている。フランスやスウェーデンでは出生率が上がったと聞くが……。 「フランスは’06年から’14年にかけて出生率が2以上で推移しました。けれど、’15年以降は低下し、’23年には1.68になりました。スウェーデンも一時出生率が上がったものの、再び下がり始めている。 先進国はどこも下がり始めていて、2100年ごろになっても出生率が上がるのは、アフリカのサハラ以南ぐらいだといわれています。 昔はある程度の年齢になったら結婚して、子どもを産むのがふつうだと考えられていましたが、多様な生き方が認められてきた現代、人口減少は止められないと思います」 だからといって、何もしないでいいわけではなく、育児でキャリアアップを諦めなくていい制度は必要だし、安心して子育てできるような支援システムを確立していかなければならないと、中川教授は言う。 東京都はこれまで、子育て世帯や妊娠中の人がいる世帯にさまざまなサービスが受けられる「子育て応援とうきょうパスポート」を発行するなど、支援策を講じているが、 「東京だけでやるのではなく、生活圏が重なる一都三県で支援策を考えていかなければ意味はないと思います」 何より中川教授が力をいれてほしいと言うのは、空き家などを利用した、手ごろな価格の住宅供給。 「住宅価格が高騰し続けると、これまで流入することができた若年層が入ってこられなくなる。その結果、東京の生産性は落ちるし、当然婚姻率も出生率も下がっていくでしょう」 このままでは人を集める“ブラックホール”にさえ、ならなくなってしまうという。 ◆人口を増やすことより、人口が半分になったときのことを考えるほうが現実的 「人口減少は止められません。さまざまな対策を考えることは大事ですが、同時に2100年に6300万人になるというなら、そうなったときのことを考えて、都市のあり方を考えていったほうが現実的だと思います」 人口が今の半分になったら、経済的にも困窮するのではないだろうか。 「人口が半分になれば、GDPも今の半分になるかもしれません。重要なのは、GDPの規模よりも『一人当たりのGDP』を維持することです。一人一人がそれなりに豊かな生活を送ることができる。最低限、それを目指さなければいけないと思います」 ’00年までは世界の中でベスト3に入っていた日本の一人当たりGDPは、今や韓国に抜かれ22位。一人当たりのGDPを維持することは重要課題だ。 中川教授は、これからは都市のコンパクト化を進めるべきだと言う。 「人口密度が低くなると、行政コストが高くなって財政破綻してしまう。人口を増やすことはできませんが、集めることはできます。地方でも人口集積することが必要になってくると思います」 ▼中川雅之 日本大学経済学部教授。政府や地方公共団体が、私たちが生きていく上でどんな役割を果たしていくのか? よりよい社会を実現するために、政府や地方公共団体が打ち出す政策にどう向き合えばいいのか? などを研究。モデル都市の特徴についての調査、何が問題なのかに関する理論的な分析、地域活性化のアイデア出し、その実現可能性の調査などを実施している。 取材・文:中川いづみ
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