「ふたりで温泉旅行に行かないか」
知り合ってから数カ月後、「二人で温泉旅行に行かないか」と誘われた。それまでは歳の差もあるし、体の関係を求められることもなかった。奥様とうまくいっていないと言っても、彼は結婚しているのは事実で、私は不倫関係を望んではいなかった。彼は、不倫や浮気という言葉は避け、好意を持って愛情を感じていると言ってくれた。私も、この時には彼を好きだと感じていたし、そばにいたいと思っていた。彼とは、いつかきちんと結ばれると信じて、もう一歩近づきたいと思った。
それから彼は引きこもりの私を、これまで経験したことのないような世界に連れ出してくれた。彼といると初めてのことばかりで、ふわふわと背伸びをしているようだった。知らないことにワクワク驚いたり喜んだりする私を見て、彼も嬉しいと言ってくれた。彼は食事以外に、歌舞伎や相撲、映画、ミュージカルのような、これまでは全く興味もなく、触れてこなかった場所に連れ出して、見聞を広げてくれた。
旅行や、お買い物にも出かけた。それまで自分が好んで選んでいた洋服ではなく、いつもスーツ姿の彼の隣に立っても恥ずかしくない、大人で上品な女性に変わっていく……本当に、『プリティ・ウーマン』の世界だった。一気に大人の階段を上がっていくようで、彼といると知識やマナーが増え、学ぶことが多く、彼に褒められる自分に自信を持てるようになっていく。自分で自分を好きになっていった。