共通項が…
奥様とその家族を支えたにもかかわらず、顔を合わせれば喧嘩が絶えず、どれだけ尽くしても、感謝がない。薬やホルモンバランスの影響があったとしても、そのうちに離婚することを考えているとも言った。どれだけのことをしてやっても、伝わらない人間もいる。自分の子供の母親だからというだけで、病気をしていなかったらとっくに離婚していたと言った。当時の私は、彼が話したことをそのまま素直に信じた。彼のこれまでの経歴を聞くと、尊敬の念すら抱いた。
私自身も高卒だったし、どんなに頑張っても母には認めてもらえない。わかってもらえず、受け入れてもらえないもどかしさと寂しさが、年齢や立場も違うけどお互いに分かり合えたようだった。こんな風に話しているうちに、あっという間に3時間近く経っていた。帰り際、彼に菓子折りを渡して御礼をお伝えすると、彼は驚いていた。
彼は「僕は何でも持っているけれど、こういう小さな気遣いが嬉しいよ」と言った。そして「まずは友人として、またお茶や食事に誘っていいか」と聞いた。私はもちろんだと言ってその日は別れた。
「お母さんが叩いたのはあなたのせいじゃない」
その後も食事に行くたびに、たわいもない話や旅行好きの彼が見てきた景色の話、これまでの人生、お互いの痛みや傷ついたことについて話した。
私がこれまでの母とのことを話すと、「お母さんが叩いたのはあなたの責任ではないよ」と言ってもらえた。寂しかったこと、愛されたかったことをわかってもらえていると感じた。彼も小さい頃は何となく肩身が狭く、わがままを言ったり甘えることもできずに育ったという。癒される場所をずっと探していたと話した。そして「なおちゃんといることが一番楽しい」と言った。
今、どれだけお金があっても立場があっても孤独を感じている彼が、そう言ってくれたことで私自身も自分の存在意義を見出せたのだ。ようやく自分の居場所ができたように感じた。彼を支えてあげたい、そばにいて癒してあげたいと思った。お互いに持っている痛みや寂しさに触れることで、惹かれていっていることがはっきりわかった。