後ろには女性の声が
一度は人生のパートナーと決めた人で、なにしろ父親である。言わないわけにもいかないだろうと意を決して電話した。電話に出た彼の話し方はよそよそしく、その周囲はとても賑やかで女性の声も聞こえた。もう伝える必要はないと悟った。無事に引っ越しが終わったことと御礼をご両親に伝えてと言って電話を切った。
22歳でシングルマザーになるのか?
母親に愛されずに育った自分も、母のように叩いてしまうのではないか?
我が子を真っすぐに愛せないのではないか?
虐待の連鎖に怯えていた。
出来ちゃった結婚はよくないと言われ続けていたから、婚前交渉せずに、ただ真面目に生きてきた。離婚を決めた今妊娠がわかった事実をどう受け止めたらいいのか。明日からさらに忙しく仕事が始まる。親には絶対に頼れない。ぐるぐる考えが巡る中、とにかく次の休みに産婦人科に行かなければと思った。
まだスマホがない時代、検索してすぐに見つける術はなかった。そして、まだ若かったので産婦人科に一切縁がなかった。当時の産婦人科のイメージは、結婚した夫婦が二人でワクワクしながら行く場所だと思っていたから、行く事すら気が重たかった。行かなきゃと思いつつも後回しにしてしまう。
少しふっくらした気がするお腹を、泣きながら2度叩いた。「今生まれて来ても幸せにしてあげられない。私の元に生まれて来たら可哀想……」と。これではダメだと何度も産婦人科の近くまでいっては、入れずに後にした。