「どんなふうに落とし前つけるのかしら?」
しかし、母はまったく違った。初めて足を踏み入れる義両親の家を凄くきょろきょろして見まわした。2階まで上がってきて「部屋見るわ」という。引っ越しの荷物の量を見るのではない。じろじろ値踏みをしていたのだ。
私の気持ちなんて全く考えていないのだろう。そしてみんなに聞こえるような声でこう言った。「どれとどれがあなたのものなの?」
結婚するときに家具も処分していたのでそのことを伝えると、こう続けたのだ。
「このあと一人暮らしするのはだれが準備するわけ? どんなふうに落とし前付けるのかしら?」
これは、義両親に言っている。娘に傷をつけたんだから、落とし前を払えと……。
義母が「ちゃんとします」と言って謝ると、「そりゃそうでしょうが!」とムッとして吐き出すように言った。
「あんたが悪い」と言い続けていた母が
これまで、私が病気になっても、性暴力に遭っても「あんたが悪い!」と言い切った母。離婚すると報告した時には「あんたの見る目がなかったのよ」と言い捨てた母。それでも、義両親からお金が取れると思って「落とし前をつけろ」といっているのだと明確に分かった。顔から火が出る思いがした。恥ずかしいし、悔しい。義両親の方がよっぽど、私の心を気遣ってくれる。
義両親や夫がただ謝り続けるのを見て、父は言った。
「もおええ、わかった、いつ引っ越すんや、その日に迎えに来るから」
それから一発殴らせろ、と夫に言った。「最後までちゃんとします」夫は言った。
両親が家にいたのは1時間ほどだったろうか。私には恥ずかしくてもっと長い時間に思えた。
義母が、両親が帰った後に彼に言った。
「なおちゃんが新しく生活するためのものを全部揃えてあげないといけないよ」
義母の気持ちは嬉しかった。母に言われたからではない、私を本当に心配してくれて言っていると感じた。でも断った。新生活になってからも何か買ってもらったものを使っていたら、思い出さざるを得なくなる。助けられたくなかった。
◇こうして離婚を親にも伝えた若林さん。ひとりで暮らすことへの違和感はなかったが、まだ驚きのことが発覚する……詳しくは後編「母の呪縛に怯え18歳で自立、20歳で結婚、2年で離婚…私の中に芽生えていたもの」にてお伝えする。