決定的な出来事

そんなさなか、決定的に「夫との性行為」が怖くなった出来事があった。
「お母さんたちが気になる」と私はずっと夫に言っていた。普通の一戸建てで壁を隔ててすぐのところにご両親がいらっしゃるのだ。気にするなというほうが無理がある。でも声を出さないようにすると、「よくないの?」と言われ、不機嫌になる。でも私自身、リラックスできていない中で性行為をしても、いいか悪いかを考えることすらできない。それでも彼を喜ばせるために声を出さなきゃと恐怖すら覚えていた。

そこである日、「声を聞かれるのが嫌なの」と勇気をもって彼に伝えた。同居をやめようとか、ならちょっと泊まりに行こうとか、対策を考えてほしかったのだ。
しかしその話をしたその夜、彼に性行為の中で口をふさがれた。

私の中に恐怖が蘇った。

そもそも、彼と結婚をしたきっかけは、私が犬を散歩させていたとき、車に引きずり込まれて怖い思いをしたことだった。そんな私を守りたいと言ってくれた彼の優しさに惹かれ、彼となら幸せになれると思って結婚したのだ。

あのときのことが蘇った Photo by iStock
 

性行為のさなかに口をふさがれたことで、様々な恐怖が蘇った。かれは「守りたい」と言ってくれたけれど、守るとはどういうことなのだろう。「言いなりにしたい」ということなのではないのか。ショックで、自然と彼を避けてしまうようになっていた。

このままではよくない。私はその思いを彼に打ち明けようと思ったが、その頃から彼の帰りが遅くなり、なぜか夜勤の泊りの仕事が増えていった。それがどういう事かを知るのに、時間はかからなかった。彼の車の中に女性へのプレゼントと思しきものや、女性がここで過ごしていたであろう証拠をいくつも見つけてしまったのだ。それから、彼に触れられること自体が気持ち悪いと感じてしまうようになった。

結婚する前、独りぼっちの私を心配し駆けつけてくれた彼。「守る、大切にする」と言っていたけれど、彼の「守り方」は、「女は意見を持たなくていい。言うとおりにすればいい」というものでもあった。私がこうしたいということを言うのは好まず、彼が選んだものに黙ってついてきてほしかったのだ。

事実を明らかにすると、義両親を悲しませることになる。悩めば悩むほど心を閉ざして、彼との会話は減っていった。限界かなと思い、なんとか責めないように彼に話をした。そのときの彼は、逆ギレとはこういうことなんだな、と思わせるものだった。

彼に救われたこともある。優しくしてくれた義両親への感謝もある。
そこで、お互いの両親には理由を言わず離婚しようと決めた。

【次回は2月10日公開予定です】

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#1-1顔が歪むほど殴られた…40代女性が抱え続ける「母のコントロールの悪夢」の告白
#1-2骨折した足にテーピングして…娘をバレーボール選手にしたかった母「驚愕の行動
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#2-210歳の私が「祖母の標的」だった母をかばったら…止まらぬ母の暴力
#3-1些細なことで始まった小学校でのいじめ…母に「甘えるな」と言われ絶望した日のこと
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