2020年度の司法統計によると、裁判所への離婚申立の理由は男女とも「性格の不一致」が第1位だ(男性9,240 件、女性16,304件)。
2位以下になると男女で理由は異なる。女性のデータを見ると、2位「生活費を渡さない」(13,235件)、3位「精神的に虐待する」(10,948件)、4位「暴力を振るう」(10,459件)、5位「家庭を捨てて顧みない」(4.126件)6位「性的不調和」(3.462件)、7位「家族親戚と折り合いが悪い」(3.354件)と続く。

生活費や虐待、暴力は問題外だが、「性格の不一致」「家族と折り合いが悪い」というのが、必ずしもどちらかが極悪人とは限らないだろう。
いい人ではあるんだけど、一緒に暮らすのは苦しい――でも苦しいと思うことが悪いのではないか――そんな悩みを抱える人もいるはずだ。

20歳のときに結婚をした若林奈緒音さんは、まさに「苦しいことが悪いのではないか」という悩みを抱えたという。奈緒音さんは幼少期から母の虐待に苦しめられてきた。自分と同じように苦しむ人を出したくないとその体験を連載「母の呪縛」にて率直に綴っている。瓶入りの袋で顔を殴られ、顔が歪むこともあった奈緒音さんが、綿密に計画を立てて一人暮らしを始めたのは18歳のとき。高校卒業直前のことだった。これまで自宅は平穏な場所ではなかった奈緒音さんにとって、初めて誰にも干渉されない心から安心できる場所をつかみ取ったのだ。

それでも母の呪縛から完全に逃れることはできず、性暴力被害や病気などを経て、寄り添ってくれた彼と結婚することを20歳で決めた。「結婚したい」と願うよりも、「結婚しよう」と言われて、「そんなに言ってくれる彼と結婚しないと悪い」と思っての結婚だった。
そして、社宅に暮らす彼の両親が、老後のためにと購入した一軒家に新婚夫婦として暮らすことになる。しかし急遽両親が早期リタイアを決め、新婚数週間でその戸建てでの同居がスタートしたのだった。

前編「「母の呪縛から逃れたい」虐待を経て20歳で結婚を決めた私が見た「暗雲」」ではそこに至る前に彼との感覚の違いを実感するようになっていった経緯と、急遽同居することになるまでをお伝えした。いざ同居が始まった時、それまで「誰かと暮らす」ことが決して平穏ではなかった奈緒音さんはどうなったのか。

 

「一世帯住宅」での同居が始まる

アパレルの会社を辞め、ご両親と同居するまでのふたりだけの数週間は、とても新鮮だった。ドキドキしたり、毎日恥じらったり、食事を作って彼を待ってみたりしながら、結婚情報誌を買い、彼との距離が近くなるような気がしていた。高校生から学校以外は働きづめだったので、平日昼間に一人でゆっくり過ごす時間も初めての経験だった。彼は、両家からちょうど中間くらいにある、私たちが初デートした場所で、家族だけでこじんまりと式を挙げようと言った。婚約指輪も結婚指輪も、私が雑誌で見ていいなと口にしたものを覚えてこっそり購入し、渡してくれた。ただただ幸せで、このまま全てうまくいくと思っていた。

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そんな矢先に彼のご両親の退職が早まり、すぐに同居が始まることになったのである。とても素敵で大きな家ではあったけれど、二世帯住宅のつくりではなかったので、玄関や風呂トイレ、キッチン、リビングも共有。それがどれだけ大変なことなのかも理解しないまま、同居生活が始まった。お義父さんは、突然娘ができたことに戸惑っていたに違いない。お互いにお風呂やトイレに気を遣いながらの生活。お義母さんはとても優しく気遣ってくれたが、この細かすぎる気遣いに私が戸惑った。