引っ越しを済ませた数日後に
大きな衝撃を受けることになったのは、引っ越しを済ませた数日後だった。彼のご両親が購入した新築の4LDKの一軒家で、私たちの部屋だと当てられた2部屋に二人の荷物を納め、幸せな生活が始まると思っていた矢先、ご両親が急遽春に定年退職し、私たちと同居すると決めたと言ってきたのだ。お義母さんは、あの優しい笑顔で「娘ができてうれしいわ」と言った。犬を連れて引っ越した私に、「健康のために散歩はお義父さんがするから、なおちゃんはまだ若いんだし、子供ができるまでは家のことはしなくて良いから、お仕事行ったらいいよ」と言ってくれた。
本当に心からそう思い、優しい気持ちで声をかけてくれたのはわかった。でもまさかこんなに早く同居するという考えはなかったから、すごく戸惑ったのだ。当然ご両親のお家だから、断ることなどできるはずもない。ご両親がどうするかは自由で、文句があるなら私たちが出ていくしかない。けれど、「同居は嫌なので、それなら私たちは他に住みます」なんて言ったら角が立つ。そんなことを私から言えるはずもなく、ふたりきりの暮らしは数週間で終わることとなった。彼にもその思いは口にできなかった。
私は結婚式の準備と並行してすぐに大手百貨店内のアパレル会社に仕事を探した。その職探しで忙しくして、自分の不安を打ち消すかのように。
◇虐待を受け続け、「家族と暮らすこと」は決して「安心」ではなかった若林奈緒音さん。ようやくひとりで暮らしたあと、彼のことならきっと信用できると思った矢先、義両親とも同居することに。「いい人たち」といっても、誰かと暮らすことはストレスにもなりうる。同居が決まって一体どうなったのか。後編「母の虐待から逃れ、20歳で結婚…突然の義両親との同居で始まった「別の苦悩」」にて詳しくお伝えする。