仕事も伸び悩んでいた

アパレルの仕事は好きだったけれど、尊敬する先輩と職場が離れたことは私のモチベーションを低下させていた。また、病気と痴漢に遭ってからはさらに自分でも成長を感じられなくなっていた。そこで、新卒で入った今の会社に勤務地の転属願いを出すよりも、違うブランドに就職し直し、彼と暮らす家の近くでの勤務にしようかと相談した。彼は、「そうしなよ」と言ってくれた。結婚したらしばらくお家でゆっくりしたらいいよとも言ってくれた。生まれてからこんな風に大切に思われることがなかった。素直にうれしいと思う気持ちより、少し戸惑いながら、「感謝をしなきゃ、彼の言う通りにしたらうまくいく、幸せになれる」と信じたら大丈夫と自分に言い聞かせた。

 

彼は1月の成人式のあとに両家の顔合わせを済ませ、5月には式を挙げようと言った。慌ただしく引っ越しや退職を決めていく中で、私の意向や気持ちも耳を傾けてくれていると思っていた。18歳の時に一人で生きていくと決めて借りた家から持って行くものはそんなに多くなく、不要な家電を人に譲ったり売却したりすると、父が借りてくれた軽トラックに全て乗せられるほどしかなかった。父の運転で新居となるところまで連れて行ってくれた。車内での父は何も話さず黙っていたが、全ての荷下ろしをし、帰り際に「こんなはよ行かんでも」と言った。それは、無理をしていないか、大丈夫かというこちらを思いやる声だった。しかし私は揺らいではいけないと思った。彼となら大丈夫、大丈夫と……。

引っ越しの荷物は最小限。父が少し心配してくれた Photo by iStock