「綺麗ね、赤がよく似合ってるね」

仕事をしながら慌ただしく成人式の準備をし、1月を迎えた。彼はご両親と車で来るので、式典が終わる頃に待ち合わせをし、朝は予約していた貸衣装屋さんに行き、準備をした。母親に連れられて、着付けの最中から写真を撮る人たちを横目で見ながら、私と母は普通の親子ではないのだということを再確認させられているようにも思った。振袖なんて一日のことに、こんなにお金かけてもったいなかったかなとも感じた。これなら彼と美味しいものや、結婚指輪に使うべきだったかなと考えてしまった。

人で溢れる成人式会場で待ち合わせをしていた。電波の悪い状況にガラケーで彼と父と連絡を取りながら、先に彼とご両親に会うことができた。スーツ姿でデジカメを持って駆け付けてくれた彼の笑顔は、さっきまで「もったいないな」と思った気持ちをかき消してくれた。彼が喜んでくれるなら、一生に一度だから振袖を着て良かったなと思えた。ご両親も「綺麗ね、赤がよく似合ってるね」と言ってくれた。彼と、ご両親が代わる代わる私の横に立ち、デジカメで写真を撮っていると、父と母が来た。父もきちんとスーツで来てくれて、私を見て頬が緩んだが、その横で母が不機嫌なのはすぐにわかった。父とご両親が軽く会釈しながら挨拶をした。

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母の不機嫌と彼の両親の戸惑い

彼がすぐに察して、今日はありがとうございますとうちの親に挨拶してくれた。ところが母は「うちの娘なのに、私たちよりも先に写真を撮っていたことが気に食わない」とつぶやいた。父がなだめたが、それはご両親にも当然聞こえてしまっている。私は青ざめた。それでも彼のお母さんが笑顔でこう言ってくれた。
「本日はおめでとうございます。奈緒ちゃん本当にきれいで、お母さんもきれいだからお母さん譲りでしょうね。うちは息子しかいないので、成人式に見にもいけなかったもんで、こんな人生の大切な日にご一緒させてもらってうれしいです」

その言葉に母は少し優位に立てた気がしたのか、「いいんですよ。うちの子はいつも説明も配慮も足りないんです。そちらにご迷惑かけていませんか?」と返事をした。お義母さんの優しい対応のおかげでその場はなごみ、食事のレストランへ移動することとなった。

レストランへ行くまでの車中、私は彼と彼の両親と車に乗り、平謝りするしかなかった。お義母さんはニコニコ「そんな気にせんと! お母さんも寂しくなるからやね」と言ってくれたが、お義父さんの顔が険しかった。「やっぱり、先にご実家に伺って挨拶するべきや。順序ってもんがあるから、お母さんが怒るんは当然や。年上のお前がそれはちゃんとせんとあかん」と何も知らないお義父さんが彼を叱った。私側の都合のせいなのに彼が叱られるのは嫌で、「違うんです」と謝るしかなかった。

レストランのテーブルについてすぐ、彼が「今日はありがとうございます。」と挨拶をし、食事の最後に「お嬢さんを下さい」と言ってくれた。父は「うん。頼みます」と小さく一言だけ。母は終始むすっとしながら「お願いします」とひとこと言葉を出した。

彼の両親は優しく対応してくれたが、母の態度は常にムッとして怒っているものだった。私は申し訳ないという思いでいっぱいだった。そしてこの関係性が、その後の結婚生活で、引っかかる大きな要因となっていった。

車の中での彼の両親との関係性が、その後の生活に影響する Photo by iStock

【次回は12月10日公開予定です】

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#1-1顔が歪むほど殴られた…40代女性が抱え続ける「母のコントロールの悪夢」の告白
#1-2骨折した足にテーピングして…娘をバレーボール選手にしたかった母「驚愕の行動
#2-1母はなぜ私を殴り続けたのか―40代女性が考える「高校に行かず嫁に出た母の孤独
#2-210歳の私が「祖母の標的」だった母をかばったら…止まらぬ母の暴力
#3-1些細なことで始まった小学校でのいじめ…母に「甘えるな」と言われ絶望した日のこと
#3-2斜視の手術で目に包帯…母に殴られ続けていた私が唯一感じた「母の優しさ」
#4-1料理が気に入らないと箸もつけない父への不満が…私を殴り続けた母「父との関係」
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