厚生労働省の発表した「令和2年度児童相談所での児童虐待相談対応件数」によると、2020年に児童虐待の相談件数は20万件を超えている。2021年のユーキャン流行語大賞で「親ガチャ」という言葉がトップテンに入ったが、虐待は深刻な問題だ。

親ガチャからのがれるには自立をするしかない。
幼少期ずっと母からの暴言・暴力にあっていた若林奈緒音さん(40代・仮名)は、綿密な計画の元、高校3年生の卒業を待たずに一人暮らしをはじめ、自立をした。
自分のような経験は繰り返してほしくないと、連載「母の呪縛」で実体験を綴っている。13回の前編「性暴力も「あんたが悪い」…母の虐待に苦しんだ私が20歳で結婚を決めた理由」では、自立をしたのち、性暴力や事故に遭っても「あんたが悪い」と言われ続けてきた若林さんが、逃げるようにすがるように20歳のときに恋人との結婚を決めるまでをお伝えした。その後編では、「ご実家に挨拶に行きたい」と言ってくれた彼の家族とともに迎えた成人式のときに話をお伝えする。

 

成人式を迎える前に「挨拶に行きたい」

結婚することになった彼は、私が成人式を迎える前に、親に挨拶に行くと言ってくれた。彼のご両親にはデートの際に1度面識があり、ご挨拶をした。彼は男きょうだいだけだったので、お母さまが「娘ができるのは嬉しいわ」と言ってくれた。その優しさがその後も私の胸を痛めた。どうしてそんなふうに思ってくれるの? と、不思議でもあり、嬉しくもあり戸惑った。彼とそっくりなお父さんが、「やはりきちんとしないと」と、ご両親が私の実家に挨拶に来てくれるという。それは、あの家に呼ばなくてはいけないということ。私としては絶対に嫌だった。あの場に二度と帰らないと決めて家を出たから、近づくことを考えただけで、とてつもない不安に襲われた。

彼の実家でも温かく迎えてくれた。しかし両親に挨拶したいと言われて、どうしたらいいのか…Photo by iStock

なにより、彼のご両親が来る前に、私から結婚することを両親に伝えなくてはいけない。母は、「自分の意思と関係なく親の決めたお見合い結婚をさせられた」と言い、私に対しても特に男女交際について厳しかった。学生時代に男の子と一緒に帰っているところを見つかったときには、ジャムの入った瓶で顔の骨が折れて歪むほど殴られた。実際、高校生の時に、あのお宅の長男がいいんじゃないかという話もあったが、高校卒業前に家を出て一人暮らしを始めると決めた頃にはその話はなくなっていた。「結婚もせずに実家を出るような娘は恥ずかしい」と言わんばかりに立ち消えになった。それでもことあるごとに「早く結婚して子供を産め」と言ってきた母は、私が20歳で結婚すると聞いたら、どんな反応をするのだろうか。

「結婚しよう」と言われて嬉しいはずなのに、実家のことを考えるだけでも不安が募った。まずご両親を呼べるような実家の状況なのかを確認しなくてはならない。こういう時は父に連絡するしかなかった。父からの最初の反応は、「早ないか?」だった。母と違い「今は見合い結婚もしなくて良いし、焦らんでもそんな時代やないぞ」と言ってくれたが、そんな事よりも家に人を呼べるような状況なのか?と聞くと、父は初めて「しんどい」と漏らした。父曰く、母に何度も苦言を呈したが、今は叔母や弟の家に入り浸り、出かけてばかりで食事も作らず、父と妹は出来合いの物を買ってきて食べているという。

私が小さい頃、家事など全くしなかった父。母は、「台所は女の域」と言って父を入れなかったが、今は父が溜まった食器を一気に洗っており、ゴミ出しもしているという。トラックのシフトや長距離も増やしてどれだけ稼いでお金を家に入れても、足りない足りないと、母の姉の会社を辞めたことを詰められるともぼやいた。そんな状況のところに、彼のご両親を連れて行けるわけがない。