通って来てくれる恋人。しかし…

そんな私に、恋人の存在は救いだった。彼は私を好きでいてくれた。最初から真剣に結婚を意識してつき合いたい、と言ってくれた。

暴力について事細かには話さなかったが、子供の頃からのことも含めて、母とうまくいってないことも話した。病気の時も、痴漢にあったときもすぐに連絡をくれて、こちらの状況に合わせてそばにいてくれた。私の家には車で1時間半くらいかかる。それでも痴漢騒ぎのあとは、心配してわざわざ通ってきた。18時に仕事が終わってから1時間半くらいかかる道のりを来て、家に泊って行った。朝早く家を出て仕事に行き、また夜になると家に来た。

 

その頃まだ私は婚前交渉に抵抗があった。それを知っている彼は、泊っても私に何もしなかった。
こんなに頑張っても病気をするし、こんなに頑張っても痴漢に遭うし、もう嫌だな……と彼に愚痴ることもあった。婚前交渉に抵抗があったので 性交渉をしないくせに愚痴を言う。彼に悪いな、と思うようにもなっていた。

では私は彼が来て嬉しかったかというと、実は苦痛でもあった。ようやく一人暮らしをするようになれたのに、他人と暮らすことが辛かった。疲れて帰っているのに、彼がきたらご飯作らないと、何か食べないと、と気を遣う。彼が朝6時に家を出るから、申し訳ないから私も起きた。私のためを思って来てくれるんだから、彼は私を守ろうとしてくれるんだから、そう思えば思うほど、私の中でなにかが重たくなってもいた。

彼のことは信頼していたし、好きだったけれど、ずっと一緒に暮らすことにリラックスができない現実もあった Photo by iStock

「もう来なくてもいいよ、大丈夫。ありがとう」彼がうちに通うようになって10日くらいに、私は彼に言った。

しかし、彼は別の風にとらえていたようで、こう言ったのだ。
「じゃあ一緒に暮らす?」