「ちょっとお金都合してくれない?」

初めての夏のボーナスで、同期の子よりほんの少しだけ多めにもらえていることが分かったときは、その努力が報われた気がした。そのボーナスで、私は初めてハイブランドのバックを購入した。先輩といきなり同じものを持つのは生意気だし、おこがましいと思ったので、違うブランドの物にした。先輩にも相談し、私のために選んでくれ、とても似合っているよと言われたときは、達成感でいっぱいで、大満足だった。中学生の時、雑誌を切り抜いてファッションに憧れていた私が、ワンランク上のものを身に着けるようになったことで、当時の私は鎧をまとったようで、無敵になれた気もした。

先輩に選んでもらって、ワンランク上のバッグを持つ。それが自分に自信をつける手助けにもなった Photo by iStock
 

そんな気持ちで頑張っている私を地に落とすようなことがあった。ボーナスの時期だからか、ストックから店舗に出ると、母が店まで会いに来ていたのだ。「いつも娘がお世話になっています。娘はご迷惑をおかけしていませんか?あの子忙しいのか親の連絡に全然でなくて。足引っ張っていませんか?」先輩と話していた。私を見つけた母は近づいてきて、「もう全然連絡でえへんから、心配したやんか」と頭をはたいた。バレーボールのときに、みんなの前で平手打ちされたときの衝撃がよみがえった。本当に恥ずかしく、情けなくなった。先輩は察してくれたのか、休憩でもないのに15分くらい出てきてもいいよと言ってくれたが、私は大丈夫ですと言って店舗スペースから連れ出し、陰で話した。

「ちょっとお金都合してくれない? ○○ちゃんと旅行行くねんけど、いっつも出してもらって悪いからさ。就職したあんたが出してくれたって言いたいやん。そしたらお母さん鼻高いし」

結局母は、いとこと旅行に行くのにお小遣いをせびりに来たのだ。お父さんからは、私の部屋に隠していた荷物がバレてから、これまでのようにはお金の管理をさせてもらえなくなったようで、使えるお金が限られているからきたのだ。これまでのこともあり、頭にきた私は当然、「無理」と言って突っぱねたし、仕事中に迷惑だし、人前で頭を叩かないでと強めに言った。

「もういいわ! あんたみたいに頼りにならん娘、知らんわ!」

母は、小学生の時にバレーボールコートの外から怒鳴っていた時のように、大きな声でヒステリックに怒鳴って帰って行った。きっと店舗にも聞こえていただろう。恥ずかしくて顔が真っ赤になり、汗が出るのが分かった。下を向いて「すみませんでした」とだけ言って掃除に戻った。

小学生の時の苦しい思い出が一気に蘇った…Photo by iStock

【次回は10月10日公開予定です】

若林奈緒音さん「母の呪縛」今までの連載はこちら

#1-1顔が歪むほど殴られた…40代女性が抱え続ける「母のコントロールの悪夢」の告白
#1-2骨折した足にテーピングして…娘をバレーボール選手にしたかった母「驚愕の行動
#2-1母はなぜ私を殴り続けたのか―40代女性が考える「高校に行かず嫁に出た母の孤独
#2-210歳の私が「祖母の標的」だった母をかばったら…止まらぬ母の暴力
#3-1些細なことで始まった小学校でのいじめ…母に「甘えるな」と言われ絶望した日のこと
#3-2斜視の手術で目に包帯…母に殴られ続けていた私が唯一感じた「母の優しさ」
#4-1料理が気に入らないと箸もつけない父への不満が…私を殴り続けた母「父との関係」
#4-2私のことは殴っても父に従順だった母が、「家事をやらない人」に急変した理由
#5-1家事をしなくなった母が祖母と叔母と演じた「修羅場」、巻き込まれる子どもたち
#5-2いじめをかばってくれた友人との突然の別れ…そのときの母の驚愕の言動
#6-1殴る蹴るに、タバコまで…母が私だけに暴力を振るうようになった経緯と「母の夢」
#6-2母が薦めた看護学校は回避しても…高校の推薦入試合格の日に感じた「絶望」
#7-1高校合格の日に母からボコボコに…入学前からの悪夢と兄との関係の大きな「変化」
#7-2瓶詰め入りの買い物袋で顔を…高1の私の顔が歪むほど母に殴られた日の話
#8-1高校トップの成績・進学希望の兄に「学歴はいらん…」妹の私が見た「父の呪縛」#8-2学歴はいらない」男らしさを強要する父、進学を諦めた兄…子どもの人生とは
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#11-1 親ガチャから逃れるために高3で一人暮らし…それでも続く「母の呪縛」
#11-2「お金都合してくれへん?」高卒で自立した私に忍びよる母の「せびり」