憧れの先輩の存在
家から離れても、私に憂鬱な気分を持ち込む母。暗い顔して出勤すると、憧れている先輩が気付いて声を掛けてくれた。家のいざこざについては恥ずかしくて何も言えなかった。ただ、元気ないね、仕事にまだ慣れていないよねと優しく教えてくださった。先輩は30歳半ばで、中学時代に切り抜きをしていた雑誌から出てくるような、オシャレで優しくて美人、仕事も恋愛も充実していて、独身生活を謳歌していた。売上も常にトップで顧客をたくさん抱えていた。多くの顧客様から、その先輩に選んでほしい、先輩からじゃないと購入しないと言われるほどの信頼を得ていた。
先輩は、当時大流行のハイブランド、ルイヴィトン・モノグラムが好きで、小物からバックまで揃えて愛用していた。勤めていたアパレルブランドがモノトーンのものが多かったので、モノグラムがとても際立ち映えた。その先輩があまりにもカッコよかったので、私もいつか同じものを持ちたいと思うようになった。これが、初めて身近にいる大人の女性に尊敬と憧れをもった体験だった。先輩のようになりたい。一人暮らしをすると決めたときのように、目標があるとただ無我夢中に頑張れると思った。
拘束時間が長く、副業禁止の会社だった。しかし今の給料では、節約するだけではやりくりができない。入ってくる給料が増えないと、生活を回すので精いっぱいで、先輩を真似していい商品を買いたくても買うことができなかった。ただ、店舗の売り上げ予算、個人予算を達成すれば、それぞれインセンティブがもらえる。その為に何ができるかを考えた。先輩の接客をたくさん見て勉強し、御礼状を送ること、顧客管理を徹底した。そして少しずつ売上を伸ばしていった。
結果、手取りも平均で15~16万円になった。時には20万円を超えたこともある。ただし、一番下っ端の新入社員なので、接客よりストック整理や掃除に多くの時間を奪われる。それならと1時間早く出社し、掃除や雑用を営業時間前後に済ませる様にしたりした。