大規模地震を想定した陸上自衛隊の防災訓練で反対派の妨害行為によって輸送ヘリコプターが着陸を断念していたことが判明した。災害派遣で出動した自衛隊のヘリが、被災地周辺の公園などに着陸することは珍しくない。今回の着陸断念の事例は、大規模地震などの災害対応に不安と課題を残す形となった。
離着陸訓練を想定していたのは、沖縄県名護市の名護城公園。関係者によると、着陸時刻が近づくと、訓練に抗議する3人が現れ、芝生の広がる広場の真ん中にレジャーシートを敷き、ピクニックを始めた。着陸予定時刻を過ぎて集まった市民も含めると、最終的に8人になったという。
その一人である軍事環境研究者の宮城秋乃さん(46)=同県東村=は「戦闘服で(自衛隊員が)行進すると発表され、戦闘の風景に慣れさせようとする効果を狙った防災訓練だと思った」とし、「自衛隊の災害派遣に反対ではないが、警戒心はあった」と語る。
被災地での救助、救援活動は一刻を争う。緊急車両が速やかに救援に向かえるように、平成26年の災害対策基本法改正では、大規模災害時に公道をふさぐ放置車両の強制撤去が可能になった。
だが、日本大の福田充教授(危機管理学)は「自衛隊の災害派遣時に、その活動を妨害する人を排除する根拠は災害対策基本法にも自衛隊法にもない」と指摘。「政治的な意図とは分けて理解してもらい、議論することが重要だ」と訴える。
妨害者の強制排除といった私権制限を伴う措置については慎重な議論が必要だが、実際の災害派遣で妨害があってからでは遅い。人命に関わる問題だけに対応を早急に検討すべきだ。(那覇支局長 大竹直樹)
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大規模災害に備えた緊急事態条項 国家の存立が脅かされるような非常事態が生じた際、政府に対し法律と同じ効果を持つ政令を制定できる権限を認める規定。南海トラフ地震などの大規模災害の懸念が高まり、自民党は党憲法改正案4項目の一つに緊急事態条項の新設を位置付けている。ただ、野党は災害対策基本法などの現行法で対応できると主張。国民の私権制限につながると懸念する声もある。