いじめっ子たちが店にやってきて…

4月に入社すると、結果的に実家から最も近い店舗に配属された。私の新居のある駅がそこだったのだ。

実家の近くの店舗だったことで、嫌なこともあった。高校時代のいじめっ子たちが店に来たのだ。内定が校内に張り出されていたからだ。最初は「いらっしゃいませ」と言うのも嫌だった。冷やかしやからかわれると思っていた。けれど普通に話しかけて来て「就職できていいなあ、私は就職できなかったから今○○でバイトしてる」「私は専門行っている」「短大行ってる」「私、事務員やねんけどめっちゃ給料安い」「毎日、簿記の授業みたい」「楽しそうやな」「もうちょっと安かったら買えるのに」「一人暮らしもしていて、いいな」と素直な言葉をかけられたのだ。同級生たちはそのうち来なくなった。

高校3年生の夏以降はバイトにばかり行っていたので、いじめなんて気にしている場合ではなかった。高校という狭い世界では威張っていられた子達も、社会に出てそうはいかなくなったことが、卒業してからわかったようだ。自分の中で、彼女たちへのわだかまりが解けたような気がした。

 

母が店にやってきた

彼女たちより厄介だったのは、母が店にやってきたことだ。就職して1ヵ月経ったころだった。
最初は娘が働いている姿を一目見ようと言う感じだったかもしれない。お客さんのふりをして妹と店に入って来たのだ。妹は私にちょっと手を振ってみせた。あれだけ、看護師以外は認めない、アパレルなんて仕事ではないと言って口もきいてくれなかったにもかかわらず、手のひらを返したように「これとこれ欲しい」と母は言ってきた。お客様として買ってくれるわけではなく、社販で安く買えるんでしょ?と。買ってプレゼントしてくれと言う。家族のために購入する場合も、売れ筋商品でなければ社販で購入できるが、当然給料から天引きされる。

努力して内定を取り、一生懸命働いてお金を稼ぐ。そのお金を吸い取ろうとしていた Photo by iStock

母にいくらになると伝えても、代金を払ってくれるわけではなかった。母や妹の分は仕方ないかと何回か購入した。しかし母は父方の親戚にも服を買って配れと言い出した。私と同じ年の父方の従妹は浪人生だった。だから就職できている私のことを自慢したいというのだ。「見返せるチャンスだから」と言われた時は耳を疑った。見栄を張るためだけに、私が必死で働いているお金を使えと言うのか……。

さらに、私がいなくなった今、きっと私の部屋だった場所は母の物置になっているだろうと簡単に想像できた。これ以上着ない服を家に増やす必要はない。
もう買えないと言った時、母はこう言った。

「もういいわ! ここまで育てたのが無駄やったわ! やっぱり役立たず!」

その言葉にもう傷つくことはなかった。むしろ「もういいわ!」と言って私のところに来なくなるなら、それが嬉しいと思った。
1人暮らしをして、母から逃れることができるかもしれないと思っていた私は、それが大きな勘違いだったことを知った。店にきたのは、その入り口にすぎなかった。

◇娘に就職した店の洋服をねだっていた母。断って「もういいわ!」と投げ捨ててから解放されるのか…後編「「お金都合してくれへん?」高校卒業後、自立した私に忍びよる母の「せびり」」で詳しくお伝えする。