先生が褒めたことに怒る母

卒業が近くなると、保護者向けに卒業説明会があった。説明会のあと、先生から母にこういうことを言ったと報告を受けた。先生は学年一の秀才と言われた兄の担任でもあった。
「こういう生徒は初めてです。お兄さんもとても優秀で、大学行かずに就職したことも驚きだったくらいですが、奈緒音さんの行動力は素晴らしいですね」
先生は私が必死でアルバイトをし、内定も早々に決め、1人暮らしを決めたことを褒めてくれたのだ。先生がこうやって見てくれたことが嬉しかった。

 

しかし母の受け取り方は全く違ったらしい。このときは引っ越しの直前で、私はまだ実家で暮らしていた。私がアルバイトで夜いないことが多かったため、久々に母と食卓を共にしたのは説明会から数日後のこと。父と母、私と妹で夕食を食べるときに母は突然怒鳴り始めたのだ。

「知ってる? 先生からこんなこと言われたんよ。どんだけ恥ずかしかったか!」

え、なんで恥ずかしいのか。どうやら「私たち親がちゃんとしてないみたいやんか」というのだ。親が何もしてくれないから私がひとりで頑張らざるを得なかったと先生から言われたと受け取ったらしい。父親は「何でアカンの? 行動を起こしただけやんか」と驚いていた。

3月には卒業式があった。正直言ってその思い出は何もない。人によっては親が卒業式を見に来たり、部活で後輩からお花をもらったりしていたが、私は一切関係がなかった。親は卒業式に来なかったし、「卒業おめでとう」の一言もなかった。

ただ学校に行かなければならない日、若林さんにとって卒業式はそれだけだった Photo by iStock