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お祭りよりも。

ユラ様

 

 

 ティンバーの一番街は浮かれに浮かれている。それもそのはず、街は、ガルバディアからの独立一周年記念祭を明日に控えているのだ。ガルバディアの勢力が強大だった頃もひたむきに独立に向けて活動していたレジスタンスの象徴、フクロウの銅像が駅前に作られたのは独立して間もない頃だという。

 

「かーっ、なんだこれ」

 

 買い込んだ食料片手に、ゼルはその銅像を仰ぎ見た。フクロウにはこれでもかと色とりどりのオーナメントが巻き付けられている。

 

「いいだろー、オレ達がやったんだっ」

 

 得意げな声が聞こえた方へ目をやると、子供達が満面の笑みを浮かべている。身振り手振りでオーナメントを取り付けた過程を説明して、飛び跳ねてはしゃぐ姿につい頬がゆるむ。

 

「はは、まあいいんじゃねーの。いつもの真面目な銅像より、今の雰囲気が"アイツら"っぽいしな」

 

 かつて共闘したレジスタンスメンバーを思い出し、頷いた。ちょっと間抜けな感じ、よく似合っている。

 

「あ! ゼル、今バカにしただろーっ、おいみんな、やっちまえ!」

 

 リーダーらしき少年の声にならって子供達がゼルめがけて駆け出した。

 

「おいやめろ! バカになんかしてねぇって……」

 

 今まさにゼルの身体に飛びかかろうとした子供達がぱたりと足を止める。何だ、と子供達を見やると、皆一様にゼルの後方をぽかんとした表情で見つめている。ハッと振り返ると、そこには長身の男が佇んでいた。

 

「なんだ、もう終わったのか、見回り」

 

「何にも起きねえからな。見回りっつーかただの散歩だ」

 

 退屈そうに呟く男に、平和なことは良いことじゃねーかと言おうとしたのも束の間、辺りに可愛らしい歓声が響く。

 

「……サ、サイファーさんっ、お疲れ様ですっ」

「これ、うちのお母さんから会ったら渡せって言われててっ……!」

「かっこいー……」

 

 わちゃわちゃと騒ぎ立てる子供達に、ゼルは呆れる。

 

「なんだてめーら、俺への態度と全然ちげーじゃん」

 

「当たり前じゃん! ゼルはゼルだもん」

 

 意味の分からない反論をされながら、横に並んだサイファーを観察する。サイファーは微かに面倒そうにしながらも如才無く子供達に対応している。愛想が良いとまでは言えないが、いつもより幾分柔らかな雰囲気で、差し出されたものを受け取りつつ短く礼を言うその様子につい驚いてしまった。そう、ゼルは今、ティンバーでサイファーと任務に就いているのだ。

 独立して間もないティンバーはとても平和とは言い難く、浮き足だった街を占領してやろうと各地の過激派組織が集ってしまっていた。そこでガーデンにティンバー自体の警護という長期依頼がきたのだが、素人集団に毛が生えたレベルの組織は歴戦練磨のSeeDに敵うはずもなく、はじめの数日で殲滅された。今は明日の記念祭に向けて、まだSeeDの保護下にあるのだと犯罪組織への抑止のためだけに目立つサイファーとゼルが残っている、そんな間延びした任務だ。

 特にサイファーは、魔女を擁して飛ぶ鳥を落とす勢いだったデリング元大統領に電波放送の大画面で刃を向けた者として、一部の人間に異常な程心酔されていた。サイファーはその後魔女の手に堕ちてガルバディアの一指導者になってしまったのだが、ガーデンの相手やらに忙しくティンバーへの干渉が薄れたのも相まって殺しても殺し足りないデリングへの殺意がそのままサイファーに対する崇拝の念となっているようだった。

 

「もう帰るか?」

 

 短く問いかけると、あぁ、と更に短い返答。帰路につきながら、隣のサイファーを盗み見てゼルは内心可笑しくなった。あの、問題児だのトラブルメイカーだの乱暴者だのと内外違わず言われ続けていたこの男は、ここティンバーでの任務ではかなり優等生だった。SeeDになっての初任務が、言うなればこんなに退屈なものだというのに文句ひとつ言わずトラブルも起こさず大人しくゼルの隣を歩いている。

 

「何見てる」

 

 思わずびくりと身体が跳ねた。

 

「あ、いや別に! もう任務も終わるなぁと思ってさ」

 

 見ていたことへの理由にはならないが、サイファーはそれに言及はしなかった。

(つい口に出たけど、もう本当に終わるんだよなぁ)

 ゼルは胸に宿るもの寂しさに、眉を寄せた。そう、ゼルは今のこの毎日が心地よいと感じているのだ。朝早くに目覚めてティンバー警護隊と合同で街を見回り、記念祭の準備を手伝いつつ街のジムで汗を流し夕方には帰路に就く。そして小さなアパートメントで、サイファーと夕食を摂りながら1日の出来事を報告して眠る。ゼルにとっても暴れ足りない日常ではあるのだが、現に今日の夕食、サイファーに話したいことがありすぎてつい早足になってしまう。

 

「……嬉しそうだな」

 

 ぼそりと呟かれた言葉に、ゼルは焦った。こんなことを、楽しみにしているのが恥ずかしい。

 

「ま、まぁな」

 

 誤魔化そうにも上手く出来ないので、素直に肯定する。楽しみなものはしょうがない。からかわれるか、とも思ったが、サイファーはいつもより眉間の皺を深めるだけで何も言わなかった。

 バーの裏道を通って、少し寂れたアパートメントの階段を登る。外観は一昔前の古い建物だが、部屋の中は綺麗にリノベーションされて小洒落た内装になっている。既に愛着さえ持ってしまっている部屋だ。買ってきた肉をサイファーに焼いてもらい、ゼルはテイクアウトしてきたスープを温める。昨日買ったパンを無造作に皿に出して、ついでに買ってきたサラダも一応皿に移し手早くテーブルに並べた。

 

「あ、そうだ!」

 

 肉を焼くサイファーに、ワインボトルを大袈裟に掲げる。

 

「今日は、これも買ったんだ」

 

 へへ、と自慢気に笑って、ゼルはワイングラスを食器棚から2つ取り出す。今晩で、この部屋で摂る食事が最後になると思うと、何かしたくなったのだ。サイファーが焼いた肉をテーブルに持って来る頃には、手は込んでいないものの立派なディナーが完成した。

 さあ、食べよう話そうと胸を躍らせるゼルをよそに、サイファーの表情が幾分暗いことに気づいた。あれ、と思いつつゼルはいつも通り話し出す。

 

「明日、セルフィもアーヴァインも来るってよ! あ、雷神と風神もな! 騒がしくなるぜ」

 

 反応の悪いサイファーを気にしつつも会話を続ける。

 

「リノアも来たいって言ったけど、エスタの許可が降りなかったって。ひでーよ、明日くらい許してほしいよな」

 

 しかし、やはりどうもサイファーのノリが悪い。いや、いつもだってにこにこして耳を傾けるタイプでは無いのだが。どこか心ここにあらずというか、そっけない。

 

「サイファー、どうしたんだよ。今日何か変だ」

 

 そう言っても、どこか恨めしそうに睨みつけられ、くいと勢いよくワインを飲み干す。いつもの数倍の速さで料理とワインを胃に流し込んで、サイファーは早々と席を立ってしまった。

 

「は? おいサイファー!」

 

 ゼルの呼びかけにも応えず、自分の皿だけさっさと片付けてシャワールームに消えていった。

 置いてけぼりにされたゼルは唖然とした。こんなこと、今まで無かった。はじめのうちは夕食を店に食べに行っていたのだが、サイファーもゼルも誰や彼やに話しかけられなかなか落ち着いて食事が摂れず、終いにはサイファーの昔馴染みの男達にゼルがちょっかいをかけられたのをきっかけに、サイファーから外食をやめようと切り出されたのに。

 一人取り残され、ゼルは半分自棄になって肉に喰らいついた。半分以上残っていたワインボトルも飲み干し、アルコールが足にまできているのを自覚しながら、立ち上がった。食器を洗っている最中、シャワーから出たサイファーが後ろを通るのが分かったものの、何も言えず、というか顔も見れずにやり過ごした。その後シャワーを浴びながら考えるのはサイファーのことばかりで、ゼルは参ってしまった。

(なんなんだ、サイファーのやつ。今朝は普通だったよなぁ、いや、フクロウのところで会った時も普通だった、よな)

 帰り道を思い返して、ゼルはひとつの理由に辿り着いた。帰り道、サイファーと飯を食べることが楽しみだったのに気付かれた。まさか、それで? そんなに、嫌だったのか? ゼルは愕然とする。なんとなく、サイファーも自分との生活を気に入っているものと思っていた。思いの外自分の気持ちが落ちているのに焦りながら、アルコールの力もあってか、ベッドに潜り込むと髪も乾かさずゼルは意識を手放した。







 

 身体に違和感を覚え、重い瞼を持ち上げても、ゼルははじめ状況がよく理解できなかった。真っ暗闇の中、何かが自分の上で蠢いている。力が入らない瞼を手で擦ろうと腕を上げようとした瞬間、その手を抑えつけられ、首筋に湿った生温い何かが這う。混乱する頭をなんとか覚醒させつつ、暗闇に慣れた瞳が捉えたのは、ゼルの身体に覆い被さるサイファーだった。

 

「ちょ、……サイファー何やって……っ!」

 

 自分の首筋を這っているのがサイファーの舌だと気づいた瞬間、ゼルの血が湧き上がった。困惑と羞恥で顔が歪む。

 

「サイファー! やめろ!」

 

 酔っ払ってんのか、と怒鳴りつけるがサイファーはその凶行を止めない。力を込めてどうにかサイファーをひっくり返そうと試みるも、体格差にどうにも敵わない。ぐっと力を入れたところで、鎖骨あたりに歯を立てられる不意打ちに、声が漏れる。

 

「うぅ、……サイファー、……なんで?」

 

 夕飯時のこともあり、ゼルの声は小さく震えた。

 

「このくらいいいだろ。どうせこの生活ももう終わる……」

 

 感情が分からない、無機質なサイファーの声が響く。サイファーが何を考えているのか分からない。更に続くサイファーの言葉に、ゼルは固まった。

 

「……喜んでんじゃねぇよ」

 

 ゼルはかぶりを振った。違う。こういうことじゃない、ただサイファーと話すのが楽しかっただけ、と反論しようとするが声が出ない。代わりに胸に、急激に湧き上がる甘い熱を感じて戸惑った。

 そつなく任務を遂行するサイファーの仕事ぶりが、格好いいと思った。昔の知り合いに目もくれず自分との食事の時間をとってくれたことが嬉しかった。俺の話を少し楽しそうに聞いてくれるのに浮かれていた。

 ゼルは長く息を吐いた。……全然違くない。こういうことだ。こんな状況で自分の気持ちを自覚するのは流石にどうかと思う。でもしょうがない、気づいてしまったのだ。心臓がうるさい。サイファーに触れられた箇所が燃え上がるように熱を持つのを感じる。抵抗も忘れたゼルに、サイファーも動きを止めた。抑えられていない方の手で、素早くベッドの脇に取り付けられたナイトランプを灯すと、オレンジの淡い光に、サイファーの顔が浮かんだ。そのままサイファーの首に手を回し、しがみつくように抱きしめると、サイファーは小さく笑った。

 

「……酔っ払ってんのはテメェじゃねぇか」





 

 

 

 

 

「あぁ、サイファー、……きもちいぃ」

 

 もうどれくらい、全身を弄ばれたか。ゼルは飛びそうになる意識をどうにか必死に繋ぎ止めていた。サイファーの指から舌から言葉から、全身くまなく攻め立てられる。ぐじゅぐじゅになったゼルの下半身はすでに力が全く入らずにされるがままになっていた。ひくひくと引きつる蕾から、サイファーの長く太い指で体内を無尽に暴かれても、ゼルの身体は喜びと快感で震えるだけだ。サイファーの唾液でてらりと光るゼルの胸の突起は、もはや痛々しいほどまでに赤く腫れている。

 

「だ、だめだサイファー、俺もう……もたない、はや、く」

 

 唾液の垂れた唇を、一生懸命にサイファーの唇に擦り付けながらゼルは必死に懇願した。サイファーは怒りに燃えるように険しい表情になってその口内を貪る。

 

「まだ、無理だ……っ、こんな狭いのに急かすんじゃねぇ、バカが」

 

 体内の指を広げられ、その刺激だけでゼルはあられもない声をあげた。

 

「んあぁ、……っいい、もう、もう痛くてもいぃから……サイファー、はやくっ……!」

 

 涙目でサイファーに縋り付くと、サイファーは喉を唸らせて一思いに指を抜き取った。

 

「ぁああっ」

 

 ゼルのペニスはすでに芯が抜けていながら、その先端から白濁した液をだらだらと垂らしている。サイファーは身体を起こしてその液を舌で丁寧に絡めとり、自らの手のひらに落とした。猛り狂った己の肉棒にまんべんなく塗り込み、痙攣するように跳ねるゼルの身体に改めて覆い被さった。

 

「さ、さいふぁ、……はやくぅ」

 

 最早熱に浮かされたように、急かす言葉を繰り返すゼルの唇に噛みついた。反射的に応えてくるゼルの舌に心が翻弄される。

 

「テメェ、マジで覚えとけ。俺を煽んな」

 

 人がせっかく、と言い募ろうとしたサイファーの言葉は、尚も甘く急かすゼルの言葉にかき消された。最早サイファーは何も言えず、突き動かされるようにゼルの窄まりに自身の熱をあてがうと、一気に貫いた。

 

「……っはぁぁあっ」

 

 歓喜するようにゼルの身体が跳ねたと思えばきゅうきゅうとサイファーを思い切り締め付ける。サイファーはただ獣のように、腰を打ちつけた。飛沫が上がるほど激しい抽出にも、ゼルは痛がる様子もなく甘い叫びを発するのみだった。

 

「あ、あっ、サイファー……!」

 

 ゼルはかきむしるようにサイファーの背中に爪をたて、身体中を駆け回る快感に全身を震わせる。サイファーの動きに合わせ、掠れた嬌声が止まらない。合間にサイファーの名を何度も呼ぶと、それに呼応するようにサイファーもゼルの名を繰り返す。

 

「……くっ、ゼル、ゼルッ……」

 

 いつもはテメェやらチキンやら、ちゃんと名を呼ばれることさえないからか、サイファーの低い声で名を呼ばれるだけでゼルの心は粟立った。

 ナイトランプに照らされた艶やかな表情に、手のひらに吸い付くような肌の感触に、沸き立つ汗の香りに。五感全てで本能を刺激される。互いに我を忘れた行為は、二人の身体がぶつかる音と卑猥すぎる飛沫音だけが続く。がくがくと崩れ落ちそうなゼルの身体を押さえつけ、ゼルの中がひときわ収縮した瞬間、サイファーは迸る欲望をゼルの奥深くに撃ち放った。

 

 ごろりとゼルの横に転がり、濡れそぼったゼルの髪を指で梳きながら、力無く開いたままのゼルの唇を思う様堪能していると満足したはずの身体は馬鹿みたいにまたその欲望をもたげてくる。流石に自らを律しようと身体を離して仰向けに倒れると、今度はゼルが覆い被さってきた。

 

「おい、ゼル待て」

「嫌だ、まだ、する」

 

 そういうゼルの身体は未だピクピクと引き攣れ、どう見ても限界が見えた。

 

「……ゼル」

 

いつものゼルからは想像も出来ないほど情欲に濡れた表情で、サイファーの唇を夢中で吸い上げながら、ゼルがサイファーの身体に跨った頃には、サイファーの理性のかけらは粉々に砕け散った。











 

「テメェ、昨日の夜のこと覚えてるよなぁ?」

 

 サイファーは洗面所の入り口にもたれかかって、ゼルに問いかけた。ゼルからの返事はない。ばしゃばしゃと水音を立てて忙しなく顔を洗っているが、サイファーから覗ける耳が赤く染まっているところからして聞こえているらしい。この反応は覚えているな、とゼルに気付かれないように胸を撫で下ろす。

 

「俺が最後何度も止めたってのにサカりやがって。もっともっとってよ、終いには上に乗っかって、発情期でもあんのかテメェ」

 

 言いながら、ゼルの痴態を思い出し下半身が疼く。ゼルはというとタオルで顔を緩慢に拭きながら、耳だけに留まらず肩やうなじも朱に染めている。堪らなくなって更に責め立てようと口を開こうとした刹那、濡れたタオルを顔面に叩きつけられた。

 

「……あぁ? 何すんだ……っ」

 

 目の前のゼルは、目元を真っ赤に染めて、眉根をぎゅっと詰めている。あぁ、昔この顔よく見た、泣き出す直前の顔だ。と、サイファーは呑気にも思った。

 

「悪かったな、その気も無ぇのに相手させて!!」

 

 吐き捨てて、サイファーに体当たりをしつつ強引に洗面所から出ようと試みる。が、サイファーの長い腕が先に抱きとめた。

 

「なんだよ! 離せよ、あっち行け!」

 

 子供が癇癪を起こしたように叫び、ゼルがサイファーの腕の中でもがく。サイファーは冷や汗が全身から吹き出すのを感じた。完全に間違った。

 

「……待て、違う」

 

「何が……! 安心しろ、もう二度とあんなことしねぇから。嫌々させて悪かったな!」

 

 俊敏な動きでサイファーの腕を絡め取り、ステップを踏んで華麗に腕の中から逃れてみせた。寝室に駆けるその小柄な背中をサイファーは覆い被すように抱き締める。

 

「違う……マジで昨日のテメェは最高だった」

 

「は、嫌だったんだろ」

 

「嫌なワケねぇだろ。……俺の妄想が見せた夢かと信じられなかった」

 

 身体をひねりゼルが見上げると、苦しそうなサイファーの瞳と視線がかち合う。

 

「妄想って……」

 

「ああ、こんな都合のいい妄想は無えな」

 

 力強く抱きしめる腕の力とは反対に、弱々しく響く声色にゼルは困惑した。

 

「サイファー?」

 

「……テメェが酔っ払ってて記憶が無いとか言い出さねぇか、恐かった」

 

 サイファーに似合わない弱音に、ゼルは目を見張った。

 

「マジで昨日のテメェは何だ、……エロすぎだろ、妄想かとも思うだろ」

 

 独り言のように呟くサイファーの言葉に、ゼルは顔が熱くなる。

 

「い、嫌じゃなかった?」

 

「嫌じゃねぇ、さっきのは忘れろ、間違ったマジで。本心じゃねぇ」

 

「でも昨日の飯ん時、なんか、変じゃなかったか?」

 

 ゼルはサイファーを見上げて問い詰めた。サイファーは、観念したように口を開く。

 

「テメェが任務が終わるって喜ぶからだろうが!」

 

 怒鳴りつけるサイファーに、ゼルは不意に理不尽に怒り出す、昔の幼いサイファーを思い出した。こういうことよくあったなぁ。

 

「はぁ? 喜んでねぇけど」

 

「ここに戻る時に話したろ」

 

 ゼルは首を傾げる。

 

「え、昨日の帰りは、晩飯が楽しみで、ってそういう話だっただろ?」

 

 戸惑うゼルに、サイファーは唖然とした。

 

「テメェの頭ん中でどういう話の流れがあったんだ」

 

 額を手のひらで覆い、サイファーが大きく息を吐いた。

 

「俺は、この任務楽しかった」

 

 改めて伝えてくるゼルがどうしようもなく可愛い。サイファーは力無く頷いた。

 

「あぁ、俺もだ。問題起こしてガーデンに引き戻されねぇように必死だった」

 

 サイファーの優等生ぶりを思い返す。え、そういう理由? とゼルが嬉しそうに鼻をかく。

 

「ホントに、楽しかったな。……今日の記念祭、終わるまで頑張ろうな」

 

 ゼルが遠慮がちにぐっと拳を突き出した。サイファーは思わずその手首を手繰り寄せ、その拳にキスを落とす。

 

「は!? いや、違うだろ! 今のは拳を合わせ……っ」

 

 昨日がやはり幻だったのかと思うほど、ただの拳へのキスにあわあわと戸惑うゼルが堪らない。もう、どうしてやろうか。サイファーは目の前で真っ赤に染まるゼルを、愛おしそうに抱きしめるのだった。


 

 ちなみに、記念祭はというと。順調に和やかに進む中、我慢出来なかったリノアがエスタからお忍びで駆けつけた。そしてそれを追いかけて伝説のSeeDもついてきた。そうなれば平穏とはほど遠く、既知の仲の住民達は歓喜に狂った。大熱狂、大混乱の中サイファーは伝説のSeeDに責任をもって収拾をつけろと言い放ち、ゼルと共にその姿を消した。遊びに来ていたセルフィらに何かを察されて、記念祭は幕を閉じたのだった。



 

 サイファーが、あの部屋を自腹で借りたとゼルに白状して大爆笑されたのは、今ではガーデンでもティンバーでも、有名な噂話となっている。

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