企業炎上はなぜ起きてしまうのか? 倒産に至るケースも…

「正しい情報を出していけば収束していくものかなと思っていた」

ネット炎上の対象になった末、倒産に追い込まれた企業の経営者は、目に涙をにじませながらそう語った。

企業がターゲットになるネット炎上が、いま新たな段階に入っている。不祥事がきっかけでないのに誹謗中傷を受け、燃え広がる。偽情報や誤情報が動画によって瞬く間に拡散する…。

さらに、イメージダウンや株価の操作をねらって作為的に炎上を仕掛ける動きも指摘されている。予想がつかない、SNS時代の“ネット炎上”。私たちはどう向き合えばいいのか。

“不買運動”呼びかけが…

「反日企業潰れろ」「日本企業が乗っ取られた」「インドに帰れ」……。

去年12月、新潟県の大手菓子メーカーに関するこのような投稿が相次いで拡散されました。

きっかけは、インド出身のCEOへのインタビュー記事が、ネットに掲載されたことでした。

フランスの通信社の取材に、CEOが答えたもので、日本の労働力不足の解決策として海外から人材を受け入れることが重要だと述べていましたが、一部のユーザーが記事の見出しに反応し、批判が拡散。

直後には株価が一時下落したほか、「不買運動」を呼びかけるユーザーもあらわれる事態になりました。

NHKがXの投稿を分析したところ、去年12月15日から1週間で、社名を含む投稿がリポストを含め45万件超に。1月も22日時点で投稿は22万件を超えています。

投稿の拡散に関わっていたアカウントを分析すると、移民に反対するユーザーや保守系のインフルエンサー、「まとめサイト」が上位を占め、それらのアカウントからの投稿も多くリポストされ、炎上が広がっていることがわかりました。

YouTubeでは計1千万超再生も

Xに端を発した「炎上」を加速させているのが、収益を目的にしたとみられる動画やショート動画です。

NHKが分析したところ、YouTubeでは炎上がはじまってから、社名をタイトルに含む動画が少なくとも130本公開されていて、再生回数はあわせて1170万回を超えていました。

TikTokでは同様の動画が少なくとも40本公開され、300万回以上再生されていました。

動画を発信しているのは、日頃からネット上の話題やニュースをまとめているユーザーが多く、チャンネルの運営が収益目的であることを明かしているものもありました。

不買で山積み?店舗側は否定

こうした動画や投稿のなかには誹謗中傷や、誤った情報、根拠のない情報も少なくありません。

たとえば、「不買運動の結果、製品が山積みになっている」「不買運動の影響で安売りされている」などという情報。

陳列の様子の写真や動画が複数出回り、拡散されているものもありました。

NHKが、これらの投稿のうち、撮影場所が確認できたものについて取材をしたところ、いずれも店舗側は否定しました。

「従業員に人気がある商品を値下げ。不買運動が影響との事実はない」(愛知県に本社のあるスーパーチェーン)
「不買運動の影響はなく、通常どおりの販売状況」(兵庫県内のスーパー)
「不買運動が影響したという事実はない」(福島県に本社のあるスーパーチェーン)

また、「原材料すべてが中国産」とする誤った情報や、「不買運動で経営破綻の危機」などという根拠のない情報もみられました。

関連する投稿を調査する取材班

この菓子メーカーをめぐっては1月、乳幼児向けのせんべいから、台湾で基準値を超えるカドミウムが検出されました。

日本国内の基準値は下回っていて、会社側も国内での商品の回収などは検討していないとしていますが、これについても「品質も終わるwww」などとあおる投稿が広がっています。

一連の炎上について、会社側はNHKの取材に対し、「現在渦中にあるため、回答は控えさせていただきたい」としています。

ネットの炎上から倒産に…

ネット炎上の対象になった末に、倒産に追い込まれた企業も出ています。

「将来必ず来ると言われているたんぱく質の危機に向けて、もう1つ選択肢を増やすことをしたかった。その需要をコオロギで一部引き受けられればという思いがありました」

そう話すのは、徳島県で2019年に設立された徳島大学発のベンチャー企業を経営していた渡邉崇人さんです。

会社は、将来の食糧問題の解決に貢献しようと、たんぱく質を摂取できる新たな選択肢として、食用のコオロギの粉末を使ったクッキーなどの食品を製造、販売。

大手雑貨チェーンや、コンビニエンスストアの一部の地域で取り扱われるなど注目を集めました。

しかし2年前、突如としてSNSで炎上。

会社や従業員への誹謗中傷が相次いだほか、経営が追い込まれる状況に陥りました。

渡邉さんの会社のコオロギ粉末を使用したかぼちゃコロッケ

炎上のきっかけとみられるのは、別の企業の食用コオロギの粉末を使ったパンの製造・販売会社に関する動画の投稿でした。

一部のユーザーから、「コオロギなんか食べたらだめ」「マジでやめてください」といった反応が広がりました。

さらに、渡邉さんの会社に関する3か月前のニュースも拡散されました。

コオロギ粉末を使ったコロッケが徳島県内の高校の給食で希望者に提供されたというものですが、批判する投稿が急増。「強引に食べさせられた」などという誤った内容の投稿も相次ぎました。

NHKが調べたところ、「コオロギ」に関する投稿は2023年1月から3月の3か月間で、リポストを含み300万件以上に。「コオロギ」「給食」に関する投稿は18万件にのぼりました。

さらに、「コオロギに発がん性がある」「コオロギには毒性があるため妊婦には食べさせてはいけない」など根拠のない投稿や、「目的は人口削減」といった偽情報の投稿も相次ぎました。

こうした投稿は少なくとも59件あり、あわせて4000万回以上、閲覧されています。

炎上、その先に

コオロギ粉末

炎上の影響で、会社の問い合わせフォームの投稿には、罵詈雑言が並びました。さらに取引先の企業にも苦情の電話が相次ぎました。

事実関係などを説明する特設のページを開設、取引先にも安全性への説明に奔走しましたが、炎上が収まることはありませんでした。

経営への影響も深刻でした。もともと赤字が続いていましたが、製品の販売を全国展開することで黒字化を目指していました。

この会社の工場

ところが、炎上後は販売先の確保が厳しくなり、資金調達が頓挫。

経営は急速に悪化し、工場の閉鎖などで多いときはおよそ50人いた従業員が5名に。

そして去年11月、破産手続きの申し立てに至りました。

渡邉社長
「炎上のベースが事実にもとづかないものだったので、事業に影響は出ないと思っていました。しかし、実際は炎上しているという事実をもって事業が立ちゆかなくなってしまった」

「理不尽だと思いますが、起こってしまったものは起こってしまったのでどうにかするしかなかったんです。ありもしないことで攻撃しなくてもいいんじゃないかとは思います」

「こちらがいくら事実に基づいた情報を出したところで、うそだと言われてしまえば反論のしようがない。これからスタートアップをやる人たちに、われわれのように炎上した影響で会社を閉じることになったことが波及しなければいいなと思います」

炎上はなぜ起きる メカニズムは

ネットの炎上対策などを手がけるIT企業「シエンプレ」によると、法人などが対象の炎上事案は、2024年に421件起きています。

ここ数年は400~500件前後で推移しており、平均すると1日に1件以上起きている計算になります。

SNSの炎上に詳しい国際大学の山口准教授によると、企業の行動などに対しSNS上で批判的な投稿が出てから徐々に拡散され、フォロワー数の多い人が拡散するようになると、炎上は中規模になります。

その後、炎上を積極的に取り扱うインフルエンサーやネットメディアが取り上げると情報が一気に拡散し、大規模な炎上に。

このあとマスメディアが取り上げる場合もあり、SNSがその内容を取り上げ、さらにまたマスメディアが取り上げるといった共振現象も発生するとしています。

とくに最近では、動画も炎上に大きな役割を果たすことが多くなり、閲覧数を稼ぐため積極的に話題の炎上事例を取り上げて、過激に投稿することでお金を得るという動きが活発化していると指摘します。

フォロワー数が多いインフルエンサーは、投稿内容によっては数千万回以上閲覧されることもあり、こうした状況のなかで誤った情報や真偽不明の情報が発信されると、大きな影響があります。

投資ファンドが「炎上」で利益?

さらに、炎上の“火種”が、作為的に生み出されたとみられるケースもあります。

明治大学の齋藤孝道教授が、おととしから去年にかけて不買運動が起きた企業のSNS炎上6件を分析したところ、このうち4件は、炎上後に株価が下がっていることがわかりました。

さらに分析を進めると、不審な動きが見つかりました。まず、4件のうち3件は、週末に不買運動などを呼びかける投稿が最も多くなっていました。

週末は企業が広報の対策をとりづらいうえ、平日に働いている人たちが活発に利用しているため炎上がおこりやすいと言われていて、何者かが意図的に週末をねらった可能性があると指摘します。

さらに、「ボット」と呼ばれる自動的に投稿するプログラムも活用されていました。

4件ともに、投稿の3割ほどが「ボット」によるものであることがわかり、これは不自然な多さだと指摘します。

齋藤教授
「炎上が起こる前の段階で、ボットを投入して投稿を繰り返すようなケースが見られました。それによって、一般の方やインフルエンサーの目に触れ、炎上が広がっていくような状況です」

こうした炎上の背景には、いったい誰がいるのか。

齋藤教授は、海外の投資ファンドなどが仕掛けている可能性があると指摘しています。炎上を広げて株価を下落させ、その後、株を買うことで稼ごうというものです。

悪質なファンドの中には、虚偽の情報を流すことで炎上させるケースがあり、海外では実際に検挙されたこともあります。

アメリカでは去年7月、著名な投資家が、およそ20社の銘柄についてSNSで虚偽の情報を流して株価を下落などさせ、30億円ほどの利益を得たとして起訴されています。

齋藤教授
「断定はできないですが、グレーな行為をするようなファンドがあれば、炎上を起こして利益を得るというのは、基本的なテクニックとして使うだろうと推測します」

「理論上は可能なので、このまま放置してしまうと、自由経済社会の健全性が損なわれてしまう可能性がある、危険な状況です」

別の“コオロギ炎上”でも…

情報セキュリティ大学院大学の一葉修平さんの調査では、徳島県の会社とは別のコオロギ粉末を使用した企業の炎上に関係した投稿を分析したところ、37%余りが「ボット」によるものとみられました。

また、NHKが一葉さんの監修のもと調査を行ったところ、新潟県の大手菓子メーカーの不買運動を呼びかけていた一部の投稿でも、「ボット」とみられるアカウントがリポストしていたケースが複数見つかりました。

企業はどう対応すべき?

こうした炎上に、企業はどのように対応すべきか。

SNSのコンサルティングなどを行う「ガイアックス」の吉田朋子さんに話を聞きました。

吉田さんはまず、最近のSNSは「ガスが高まっている状態」で、非常に発火しやすく、全く思いもよらないことで炎上が起きてしまう傾向があると指摘します。

そのうえで、炎上を全く起こさないことは難しいので、炎上したあとに適切に対応することが大切だと話します。

吉田さん
「いかに早く、いかに真摯に対応するかが大切です。確認に時間が必要なものでも、『今、対処しています』という情報だけでもすぐに出したほうがよい」

「その上で、SNSで炎上したことについては、それがどのような考えのもとに行われたのか、会社の理念をしっかりと打ち出し、炎上を起こしている一部の人ではなく、多くの人に共感を持ってもらおうとすることが結果的に鎮火を早めることにつながります」

炎上にかかわらないために

国際大学の山口准教授は、企業は誤った情報に対して、迅速に事実を公表することが重要だとした上で、明らかな中傷がある場合は法的対応を取る可能性を示唆することも考えられるとしています。

一方、ユーザーはどのように向き合えばいいのか。

山口准教授は、インターネット上の炎上は、大規模なものでもユーザー全体からすると投稿している人の割合は少なく、否定的な内容の投稿が大量に発信されていることが影響していると指摘します。

加えてユーザーの見たい情報を優先的に表示する機能があり、あらゆる情報に接していると思ってもごく一部の偏った情報に接している可能性があるとしています。

山口准教授
「ほとんどの方は自分が正しくてあっちが間違っているという気持ちでやっていることが非常に多いんですね。要するに正義感から攻撃している」

「一方で誤った情報を拡散することは、例えば偽計業務妨害罪などの罪に問われる可能性もあり、発信した側にリスクも伴います。自分が例えばリポストしたくなった、シェアしたくなった、あるいは誰かに直接話したくなったときだけでも、チェックするというくせを付けてほしいと思います」

その上で、対処法として、以下の3点を挙げます。

1 リポストやシェアをしたくなった投稿の内容を検証すること
2 誤った情報を見かけた場合は、投稿に対し、利用者たちが、誤りを指摘した記述を追加できる「コミュニティーノート」という仕組みなどを利用すること
3 SNSなどの通報窓口を利用すること

山口准教授
「私の実証研究では情報を見聞きした人のうち、その情報を誤っているというふうに適切に判断できている人というのがたったの14.5%しかいなかったということもわかっています。また自分はだまされないぞというふうに思っている人ほど実はだまされやすく、誤った情報を拡散しやすいという傾向も見えています」

「炎上すると多くの人たちが、企業や人に対してすごく批判的でみんな攻撃しているように見えるんですけど、実は非常に切り取られた一部の現実にすぎないので、少し冷静に眺めるということが大切です」

【配信はこちら】サタデーウオッチ9

企業炎上はなぜ起きるのか?プレゼンで解説
1月25日放送「デジボリ」(配信期限:2月1日(土) 午後10時まで)

(徳島局 藤原哲哉、国際部 芋野達郎、新潟局 奥村敬子、機動展開プロジェクト 籏智広太 斉藤直哉)

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