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茘枝(ライチー)の季節がやってきた

2007年06月12日

中国茶評論家・工藤佳治

――久しぶりの茘枝紅茶は、ジューシーな味わい

 「茘枝」が好きだ。とりわけ今の季節の「茘枝」はたまらない。だれでもこの味を覚えたらもう病みつきになるだろう。

 初めてこの味に出会ったのは、初夏のクアラルンプールだった。逃げ場のない陽射しが降り注ぐ街角。「チララ(と私には聞こえたが)」と声をかけながら、汚れたTシャツ姿の少年たちが、手にいっぱい、たわわに実をつけた茘枝の枝の束をいくつも持ち、売り歩いていた。

 喉の渇きを始終感じていた。何気なく買って、実を口に放り込んだ。驚いた。「これが本当の茘枝。なんておいしさ」。それ以来、この果実の心地よい甘さの虜になった。

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 その後、中国の大陸や台湾に行くようになって、茘枝を生で食べる幸福を何度も重ねた。

 そこでいろいろなことがわかってきた。

 茘枝は、変質が早い。完熟のものをその日のうちに食べることが理想的だ。

 台湾では、品種改良で茘枝の種を小さくすることができたという。「種が大きいので、果肉が少ない。もっと果肉があれば」という要望に応えて、品種改良に取り組んだのだという。この改良品種はいまや東南アジアに「種の小さい茘枝」ブームを起こし、席捲し始めている。

 だが、こだわり派もいる。実は私もその一人。「種が大きい方が、ずっとおいしい」と思うのだ。茘枝原理主義とでも言おうか。

 唐の時代、楊貴妃は茘枝を遠く都まで取り寄せ、食したという。健康のためであったか、美容のためであったか・・・。

 「楊貴妃はどこから茘枝を取り寄せていたのか」と質問したが、正確にはわからない、ということだった。

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 「では、中国一のおいしい茘枝の産地は?」。この質問に対しては、「福建省●州」という人が多かった。どうやら評価はおおむね一致しているらしい。上海あたりの茘枝好きは、これをわざわざ取り寄せて食べるという。

 この●州に「茘枝狩り」に行こう、と言ったのが7、8年前。「茘枝狩り」を中国の人に説明するのが、大変だった。「果物」を取る目的のためにわざわざ田舎に出かけるなど、考えられないらしい。せいぜい、地方に行って道端で売っている果物を買う程度である。

 必死に説明してやっと理解してもらい、大慌てでツアーを組んで行った。というのも、茘枝の収穫時期は短い。すぐ終わってしまうので、うまいタイミングで行かないと、空振りになってしまう。

 「どうして日本からわざわざ茘枝を食べるためにこんなところまで?」

 不思議がられながらも、ほとんど収穫が終わる中、我々のために実を沢山つけた1本だけを残しておいてくれた。

 完熟のものを木から摘みながら、その場で食べる。なんという幸福。

 「この機会を逃してはなるものか」とばかり、沢山食べた。あまりに皮を剥くので、指の爪から血がにじんできたが、それでも食べた。数十人で食べても、まだ1本の木はたわわに実っている。帰路に食べようと、前の晩泊まったホテルから持ってきたビニールのランドリーバッグいっぱいに、詰め込んだ。そのせいで、厦門(アモイ)から上海の飛行機の中は、茘枝の香りでいっぱいだった。

 ところが、上海で食べようとしたとき、下痢をした。あの上海に残したおびただしい茘枝は、今でもおしい思いでいっぱいだ。

 そして学んだことは「茘枝の食べすぎは、下痢をする」。

 この茘枝の香りと甘さを吸着したお茶が「茘枝紅茶」。広東省の銘茶「英徳紅茶」に、茘枝の香りや甘さが吸着されている。広東省も茘枝の産地。完熟の余った茘枝を、廃棄せずに使う方法として開発されたと聞く。食後に飲む紅茶としては、おいしいものであったが、もうずいぶん口にしていなかった。理由は飲むと相性が悪いのか、気持ちが悪くなるから。たぶん、人工的な甘味料や香料が使われていたせいだと思われる。

 つい先日、昔のように作るから、ということで作ってもらったものが届いた。

 ジューシーさを持った甘さが紅茶とミックスして、心地よい。甘すぎるくらいの甘さ。しかし、飲んだ後でも心地良さは続いた。夏の香港のあの暑さを思い出した。

 次回は、「『白い』がはやりか。うぶ毛と甘さの相関関係」(予定)です。

 ●=さんずいに章

中国茶メモ

茘枝紅茶(ライチーこうちゃ・広東省)

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 広東省の銘茶・英徳紅茶に、広東省の名産でもある茘枝の香りや甘さを吸着させて作る。茘枝の持っている、ジューシーな甘さが紅茶とマッチして、おいしい。

 何度も香りづけをしているわけではないので、何煎も香り、甘さが持続するわけにはいかない。ポットで入れ、それをたくさん飲むようにするとよい。

 水色もきれいで澄んだ紅色になる。

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