もしドル~もしも”アイ”が死んだ13年後、”I(アイ)”を名乗る少女が【アイドル】を歌ったら~   作:土ノ子

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 界王拳3べぇだぁ!(気合ブーストで3時間執筆)


Dear my lovers.Happy birthday to you!

「あ、みんな。これも見てよ。結構参考になるかも」

「なになに……おい、ネットのドルオタ掲示板じゃねえか」

 

 そう言ってルビーがスマートフォンを差し出した先にあったのは、アイドルファンが集まる掲示板のスレッドだ。『アイドル』の投稿から僅か3日でI(アイ)専用のスレッドが立てられ、いくつも消費されている。現行スレッドもすでに300を超えるレスが付いていた。住人たちが書き込む速度は驚くほど速い。

 

「アイ生存確認って……バカかよ」

 

 掲示板で取り沙汰されているSNSのタグの一つを社長が鼻で笑う。その声には苦々しさが混じっていた。

 当たり前だ。転生者(オレ)が言うのもなんだけど、死んだはずの人間は生き返らない。アイの死を他人にあれこれ言われたくなかった。

 

「でもさ、みんな結構本気で考察してるよ? 的外れなものもあるけど」

I(アイ)が『アイの隠し子だ』なんて書いてる奴までいるわよ。呆れたわね」

「隠し子か……ある意味間違ってないな」

 

 俺は画面をスクロールしながら見つけた話題に苦笑しつつコメントした。

 掲示板にはさまざまな推測が飛び交っていた。

 アイの隠し子説。苺プロの宣伝説。果ては生存説まで。

 

「あ、これ」

 

 ミヤコさんが指差したのは、金髪の双子に関する書き込みだった。まあそうだろう。どう考えても俺とルビーを絡める奴は現れると思っていた。

 

「みんな気付いてるのね。アクアとルビーのことを」

「歌詞にも書いてるしな」

「気付いてるだろうが、誰も本当のことには辿り着けないだろうよ」

 

 同じようにレスを追っていた社長が溜め息をついた。

 

I(アイ)じゃなくてアクアとルビーこそがアイの子供だなんてな」

 

 ルビーが苦笑する。俺もそれはそうだと肩をすくめた。

 考察の中には真実が斜め上なだけで、それなりにいい線いっているものもある。

 

「でも、この人たちの推理力すごくない? ママの体調不良期間とか、すごく細かいとこまで覚えてる……」

「アイドルヲタクの執念は侮れない」

 

 一アイドルヲタクとして俺は実感を込めて呟く。

 アイドル界隈は魔境だ。そこに住む奴らも魔物だ。色々な意味で。

 

「でもその方が逆に都合がいい。あまりにも荒唐無稽な真実は誰も信じない」

 

 皆が頷いた。

 

「『サインはB』の再評価が始まってるのも嬉しいわね。リマスター版……本当に出そうかしら」

 

 ミヤコさんが話題を変える。どこか嬉しそうなのは、予期せぬ商機を掴んだからだろうか。

 

「とにかく苺プロとB小町にとってはプラスよ。この風を最大限捕まえて上に上がらなきゃ」

「ただの偶然じゃないだろ」

 

 社長が眉をひそめる。

 

「このタイミングで現れたI(アイ)……何か目的があるはずだ」

「でもさ」

 

 ルビーが画面を見つめたまま言う。

 

「この人たち、ママのこと本当に好きなんだね。13年経っても……変わらないんだ」

『……………………』

 

 ルビーが無邪気に漏らした言葉がもたらした沈黙は、どこか温かかった。

 

「そりゃそうだろ」

 

 答える社長の声が柔らかくて、少し自慢げだった。

 

「アイは特別だったからな」

「特別。一番星の生まれ変わり……か」

 

 俺は呟きながら掲示板の書き込みを追う。

 アイの死の真相を知る者として、ここにある推測のほとんどが的外れだ。だけどその熱量は確かに本物だった。

 アイ生存説を唱えている連中だって、多分()()()()()()ことを知った上で、()()()()()()()()()と願っている。

 

「ねえ、この人たちが言ってるB小町とのコラボって……」

 

 ルビーが恐る恐る切り出すが、すぐにミヤコさんがきっぱりと首を振った。

 

「ダメよ。今は様子見。I(アイ)の正体が分からない以上、軽々しく動けないわ」

「で、でもこれすごく面白いアイデアじゃない? 絶対みんな興味を持つよ。それにI(アイ)の正体も探れるかもしれないし……」

 

 ルビーが食い下がるが、社長もミヤコさんの意見に同意した。

 

「ミヤコの言う通りだな。I(アイ)が現れてまだ3日だ。話題性抜群なのは確かだが、一過性のバズで終わる可能性も十分ある。ビジネスに繋げる分には今は様子見でいいだろ」

 

 さらに一言付け加える。

 

「それに案外、向こうからコラボを言い出してくるかもしれんし……っと、なんだ。また動きがあったみたいだな」

 

 社長のポケットからポップ音が鳴る。すぐに取り出したスマホの画面を見て、驚きに目を見開いて告げる。

 

「――I(アイ)が新着動画をアップした。タイトル、は……っ!?」

 

 愕然。社長の顔を表現するならその言葉こそ相応しかった。

 

「ありえねぇ……本気でナニモンなんだ、I(アイ)は?」

 

 新しく投稿された動画のタイトルは――『Dear my lovers.Happy birthday to you!』

 そのタイトルを見た全員が、俺を含めて顔色を変えた。また思った、ありえないと。

 

「……再生するぞ、いいな?」

 

 皆が頷いたのを確認して社長が手元のスマホで動画を再生する。

 画面にアイそっくりな少女が映る――I(アイ)だ。

 

『ハッピィバースデイトゥユー』

 

 目元を手で隠し、悪戯っぽく笑っている少女が甘く、舌ったらずで非ネイティブな拙い発音で歌を歌っている。

 

『ハッピィバースデイトゥユー』

 

 誰もが知っている定番の歌。誕生日には必ず歌われるお祝いの歌。

 

『ハッピィバースデイ、ディア――■■■、■■■』

 

 最後に名前を呼ぶお決まりの部分は、不自然に音が消されていて誰に向けてのものかは分からない。

 だけど唇の動きでなんとなく読める。

 『アクア』、『ルビー』。

 俺たちの名を、アイが呼んでいた。

 

「「ぁ……」」

 

 知らず、涙が頬を伝っていた。隣を見れば、ルビーも同じだった。

 

『生まれてきてくれてありがとう――――愛してる』

 

 まるで十数年間伝えられなかった想いをぶつけるように――I(アイ)/アイは、とびきりの笑顔を浮かべていた。

 その言葉を最後に動画は終わった。ほんの数十秒の短い動画。だけどあまりに意味深すぎるメッセージ。

 

「こいつは、どういうことなんだ……?」

 

 社長が呆然と呟く。

 『アイドル』の衝撃に誰もが頭から吹き飛んでしまったが、()()()()()()()()()()()()()()()。そう、世間には一切公表していない、俺たち双子が生まれた日だった。




 ランキングに載りたい(切実)
 続きを読みたいと思って頂けたら何卒高評価よろしくお願いしますm(__)m

 PS
 調べた限りアクアとルビーの誕生日については原作にも出ていないので完全に捏造です。と言うか本作は捏造設定だらけになります。
 ちなみにこの話の時間軸は2024年2月ごろ。
 みんなで高千穂にいってアネモネさんの傑作MV「POPIN2」が動画再生数2000万回以上を叩き出してる頃ですね。ちなみに「アイドル」は公開1ヵ月で1億回再生という(リアル準拠)
 ルビーちゃんがゴローせんせの死体を見つけて闇落ちした時期でもよし。

 そこに『アイドル』をぶち込まれたお陰でアクアとルビーの情緒は色々とグチャグチャです。
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