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元兵庫県議への批判はどのように拡散していたのか?

鳥海不二夫東京大学大学院工学系研究科教授
(提供:イメージマート)

元兵庫県議で県議会調査特別委員会(百条委員会)委員だった竹内英明氏が亡くなったそうです.ご冥福をお祈りいたします.

亡くなった原因として,

SNS上などでの誹謗(ひぼう)中傷が精神的な負担になっていた

と言われています.そこで,亡くなったことがニュースになった2025年1月19日以前のX上のデータを分析して,竹内氏に関するどのような投稿が拡散したのかを明らかにしてみました.

ちなみに,「兵庫県警に事情聴取を受けて逮捕されることを恐れていたことが原因」という言説もありましたが兵庫県警から否定されています

データ収集

2024年1月1日から2025年1月18日までの「竹内英明,竹内県議,竹内元県議,竹内+兵庫」が含まれるオリジナル投稿をX上から取得し,その後各投稿のリポストを収集しました.得られたオリジナル投稿は11,272件,そのリポストは180,883件でした.ポストまたはリポストしたアカウントは51,590件ありました.

どのようなポストがあったのか?

竹内元県議についてどのような言説があったのか,リポストしたアカウントに基づくクラスタ分析を行いました.その結果,大きく二つのクラスタが見つかりました.

投稿のクラスタ分析(I筆者作成)
投稿のクラスタ分析(I筆者作成)

上の方に見える塊は主に竹内氏を批判する内容が含まれるクラスタであり,下の方に見える塊は竹内氏を擁護するクラスタです.便宜上,上を批判クラスタ,下を擁護クラスタとします.その中身は,

・批判クラスタ:2404投稿,114,699回リポスト,参加アカウント30,823

・擁護クラスタ:894投稿,53,783回リポスト,参加アカウント19,480
でした.

ここで,オリジナルツイート,リポスト,リポストアカウントにおいて,批判クラスタと擁護クラスタがどの程度の割合だったのかを見てみましょう.

各データにおけるクラスタの割合(著者作成)
各データにおけるクラスタの割合(著者作成)

こちらの図が,それぞれクラスタがどのくらい含まれていたのかを示しています.オリジナルツイートでは,どちらのクラスタにも属さないものが多かったことが分かります.これは,そもそも1度もリポストされていないポストは分析対象にしていないためです.そのため,その他の中には批判や擁護のどちらも含まれている可能性があることにご注意ください.

一方,リポストやリポストしたアカウントについて見ると,おおよそ批判クラスタが60%程度を占めていました.擁護系は30%程度です.こう見ると,批判の拡散は擁護の2倍程度あり,批判を拡散したアカウントは擁護したアカウントの1.5倍程度だったという事が分かりました.実際には批判だけでなく擁護もそれなりに多かったといえそうです.

なお,批判クラスタでは,

都合が悪くなって逃げだしたのは卑怯

言葉の暴力に家族がおびえているのは自業自得

等のポストが拡散していました.

批判と擁護の時系列分析

それぞれのクラスタのポストがいつどのくらい拡散されたのでしょうか?一日ごとのポスト拡散数を見てみましょう.

各クラスタの拡散状況(著者作成)
各クラスタの拡散状況(著者作成)

ここで,2024年11月18日にピークがあることが分かります.これは,竹内氏が県議を辞した日になります.この日は批判,擁護ともに多くの情報が拡散していますが,批判が多かったとはいえ,それだけではなかったことが分かります.

一方で,その後の拡散状況を見ると,基本的に批判クラスタの情報が多く拡散しており,擁護クラスタの情報はあまり拡散していなかったことが分かります.批判系のポストは竹内氏が県議をやめても継続していたのに対して,擁護系のポストは県議を辞めたタイミングでしか注目されていなかったということでしょうか.実際には批判している人たちだけではなかったにもかかわらず,12月以降は擁護の声がほとんどポストされなくなってしまったことで批判ポストだけが存在する状況が続いていたようです.

インフルエンサーの影響

竹内氏への批判はどのようなアカウントからどの程度投稿されて拡散されたのでしょうか?拡散数が上位のアカウントについて分析をしてみました.

まず,拡散した2404投稿がいくつのアカウントから発信されたかを調べました.その結果,1197アカウントからの発信であることが分かりました.1回以上拡散したポストに限っても70%が拡散数5回以下と影響は小さい物でした.

一方多い物では5000回以上の拡散が行われており,複数のポストが拡散したアカウントでは,合計11,000回の拡散が行われたケースもありました.これは,全拡散の9.2%に相当する量です.そのほか,全拡散のうち50%は13個のアカウントによって投稿されたオリジナルツイートが拡散したものであることが確認されました.なお,上位13アカウントの中には,ニュース系アカウントの他,NHK党の立花氏などが含まれていました.

情報を拡散していたのはどういうアカウントか

批判クラスタ,擁護クラスタはそれぞれどのようなアカウントによって拡散されていたのでしょうか?政治と絡む話ということで,国政政党の支持者との関係を見てみましょう.ここでは,国政政党の公式アカウントをフォローしているアカウントは当該政党の支持者と見なし,どこもフォローしていないアカウントを無党派として分析をしてみました.なお,政党の公式アカウントをフォローしているからと言って本当に支持しているのかどうか,あるいはフォローしていないからといって支持していないのかどうかは分かりませんが,代替指標としては十分利用できるものと考えています.

その結果がこちら.

各クラスタのポストを拡散したアカウントがフォローした政党公式アカウント(著者作成)
各クラスタのポストを拡散したアカウントがフォローした政党公式アカウント(著者作成)

この結果から,批判クラスタの中で特に多くのアカウントにフォローされているのが保守党公式アカウントであったことが分かりました.批判ポストの20%近くを保守党の公式アカウントをフォローしているアカウントが拡散していたことが分かります.NHK党の立花氏が竹内氏への批判を行っていたためNHK党が多いかと思いましたが,そうでもなかったようです.これは,おそらく元々の支持者の数の違いかと思われます.保守党の公式アカウントのフォロワーはNHK党のフォローの10倍ほどいますので,その違いが結果に表れているようです.

2025/01/25追記:

一部に誤解を招いたようで申し訳ないのですが,批判クラスタ保守党の公式アカウントをフォローしているアカウントが20%いましたが,それは保守党の公式アカウントフォロワーの2%程度にすぎません.他の政党より割合は高いのは間違いない(NHK党と同程度)ですが,保守党フォロワー全体が批判を行っていたわけではないことにご注意ください.

次に,兵庫県知事選で斎藤氏を支持していた,あるいは不支持だったアカウントと批判及び擁護しているアカウントとの関係を見てみましょう.兵庫県知事選での斎藤氏への支持不支持のデータはこちらの記事で使ったものを用います.

斎藤氏への支持と竹内氏への態度の関係(著者作成)
斎藤氏への支持と竹内氏への態度の関係(著者作成)

この結果から,斉藤氏を支持していたアカウントは竹内氏を批判し,斉藤氏を支持していなかったアカウントは竹内氏を擁護していることが分かります.ただし,斉藤氏への支持不支持に関わらず竹内氏に関して言及している割合は25%程度でした.つまり,兵庫県知事選において斎藤氏に関して情報を拡散していたアカウントのうちの一部のアカウントが竹内氏に対する批判を行っており,斉藤氏支持アカウントの多くは竹内氏への批判情報を拡散していなかったといえるでしょう.

おわりに

竹内元県議は,SNS上で誹謗中傷を受けて苦しんでいたとのことです.実際にどのような誹謗中傷を受けたのかまでは報道されないため分かりませんが,情報空間上で一定の影響力を持つX上ではどのように情報が拡散されていたのかを分析してみました.

その結果,竹内氏に対して批判的なポストが多数拡散していたことが分かりました.擁護的なポストも拡散していましたが,そのほとんどが竹内氏が辞職した11月18日に集中しており,長期的には批判だけが拡散している日が多かったという状況でした.データ的には少なくない数の人が竹内氏を擁護するポストを拡散していたのですがほとんど可視化されなかったのではないでしょうか.わずかな人からの批判も心に大きなダメージを負うものですが,数万アカウントに批判を拡散され,擁護するものが見つけられなかったときの心境は察するに余りあります.

一方で,兵庫県知事選において斉藤氏を支持していた人たちが竹内氏を批判していたのは事実ですが,斉藤氏支持アカウントの中で批判的な情報を拡散していたのは25%程度だったことが分かりました.斎藤氏支持者すべてが竹内氏を批判していたわけではないという点は押さえておくべきでしょう.

SNS上での発言は,たとえ言論の自由の範囲内でも慎重さが求められます.今回は情報発信した本人も偽誤情報だったことを認めていますが,当該偽誤情報を信じて批判を拡散してしまった人は梯子を外されたようなものでしょう.いったいどういう根拠に基づいて自信満々に偽誤情報を発信してしまったのか,気になるところですが,いずれにせよ現代情報空間では,ネット上に存在する「メディアが伝えない真実」の中にどの程度偽誤情報が紛れ込んでいるのか,自分自身で見極めることが求められています.

本来,偽誤情報対策や誹謗中傷対策はプラットフォームに一定の責務を果たしてもらいたいところですが,メタ社やX社はそれとは逆の方向に進もうとしています.今後のネット空間ではさらに偽誤情報や誹謗中傷の危険が増加し,それらにユーザ自身が個人で高いコストをかけて対策をしていかなければいけなくなるかもしれません.

なお,本分析ではあくまでもX上の特定のキーワードを含むポストのみを分析し,批判および擁護という形で抽出されたクラスタを分析しているため,これがすべてではないことに注意が必要です.特に,YouTubeなど他のソーシャルメディア上の誹謗中傷については分析対象となっていません.また,誹謗中傷がネット上でだけ行われていたとは限りません.その点はご注意いただければと思います.

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ありがとうございます。
東京大学大学院工学系研究科教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了(博士(工学)),2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授,2021年より現職.計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事.計算社会科学会副会長,情報法制研究所理事,人工知能学会前編集委員長.人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本社会情報学会,AAAI各会員.「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」

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