父にすべてを話したが…

父が部屋へ上がってきた。まず、部屋に積み上げられた段ボールを見て、父は驚いていた。これまでもこういうことがあったのか、これはいつからあるのかと聞いてきたので、幼少期から父が不在時に母にされてきたことを初めて話した。積み上げられた段ボールはすべて母の物で、父に隠れて、母が姪に物をもらって私の部屋に隠しているのだということも。

「これまで転んだとかいう怪我は違うかったんか? お母さんに叩かれていたのか? 動物やないから、子供に手を上げるのはあかん。何で今まで言わんかった。男は外で仕事して、家族に苦労させん稼ぎさえあればいいと思ってた。そうしてきた」

父は長く長距離トラックの運転手をしており、家を不在にしていることが多かった Photo by iStock

父は言った。ようやくわかってもらえる。そう思った瞬間に、衝撃の言葉が出てきた。

今日のは嘘をついたおまえが悪い。年頃なのも分かる。それでも、この家にいる限りは親の言う通りせなあかん。それが嫌なら家を出て、一人前になるしかない。自分のことを、自分で全部面倒見れるようになって初めて、自由にしたらいい。とりあえず顔冷やしとけ。あかんかったらお父さんが病院連れて行くから」

父は実際母が私に手を下している様子を見るのは初めてだった。しかし、ジャムの瓶が入っている買い物袋を思い切り娘の顔に振り下ろしている様子を見ても、「嘘をついたお前が悪い」と言い切るのか。確かに部活で遅くなると言って、部活をさぼって男の子と二人でいたのは事実だ。しかしそうしたら頬骨が歪むくらい殴られなければならないのか。父はそれが当然と言っているのか。信じられない思いだった。

父に対しても心底がっかりした。「今まで知らなかった」では済まない。今の家の状況を見ればわかるはずだ。でも父が改善するために何かしようとしているわけではないことは絶望とともに感じた。父は「もう寝ろ、一週間部活には行くな」と言い部屋を出た。下からは、父と母の言い合う声が聞こえた。母が隠れて従妹から貰い物をしたいたことが父にバレたからだ。母だって、隠し事をしている。

 

顔全体が歪んでいた

翌日、左の頬骨が飛び出すように腫れ、ジンジン痛むのに、学校には行かされた。同級生の彼はとても心配してくれたけど、あんな姿を見られてとても恥ずかしかった。変わらず大切にしようとしてくれたことに、今も感謝している。

家に帰ると、ひっくり返した家の片付けや家事を黙々とこなしした。母はまた口を聞いてくれず、食事代として数千円テーブルに置いて、ご機嫌で出掛けてった。母が家にいない方が、気持ちは楽だった。私は高校卒業と同時にこの家を出ると決めて、とにかく貯金することにした。そのために食事を抜くのは苦にならなかった。腫れが引いても口を開くたびに顎ががくんとなる違和感は残った。

それから20年以上経った頃、整形外科に顔を見てもらった。顎が亜脱臼のようになっていた。顔が大きく歪んでいて、鼓膜がペコペコになっている、とも言われた。それを修正するには手術が必要だ。顎と頬のうち、まずは顎から手術することになった。

右が手術前の状態。殴られて、頬は骨折、顎が横にずれたたまま、歪んでくっついてしまっていた。骨を削り、本来の位置に戻したという。しかし頬はまだ治療ができていない 写真提供/若林奈緒

顎を直すことで、歯のかみ合わせなどもよくなるという。しかし改めて思った。
顔の歪みは手術で治せても、心の痛みを消すことはできない。

肉体的痛みは、心の痛みを倍増させた Photo by iStock

【次回は6月10日公開予定です】

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