体育祭の悲劇
中学生最後の体育祭。放送委員としてアナウンスをすることになった。いつもの誰も見えない空間とは違い、式の進行や実況、結果発表をアナウンスするのはとても緊張した。それでもやりがいがあったし、何より楽しかった。午前中最後の目玉競技は、3年生の綱引き予選。普段、体育を見学していたA君だったが、皆が「綱の最後に立つ重しになったら勝てる、最後やからやってやろうぜ」と盛り上げて、「よっしゃー」と綱を体に巻いて立った。A君がいたおかげで、ビクともせず圧勝した。
しかし、歓喜に沸く声が、すぐさま悲鳴に変わった。振り返ると先生たちが駆け寄っていた。綱を体に巻いたまま仰向けに倒れて、口からたくさんの泡を出していたのだ。「選手の皆さんは退場してください」のアナウンスの声に、生徒はその場を離れた。私は放送席に戻り、A君は先生たちによって担架で運ばれていった。
ざわざわする中、先生の指示により、「皆さん、静かに自分の席で待機してください。これからお昼休憩となります。指示に従い順番に教室に戻ってください。次のアナウンスがあるまで教室で待機してください」とアナウンスすると、A君を迎えに来た救急車の音が近づいてくるのが聞こえた。
私はアナウンス室で待機していた。1時間のお昼休みのはずが、30分以上遅れて目を真っ赤にした担任の先生が原稿を持ってきた。「事故があり、本年度の体育祭は中止。各自教室で待機し、担任の先生の指示を待つこと。ご冥福をお祈りし黙とうを捧げましょう……」という内容。A君が亡くなったのだ。
A君は元々小児心臓病だった。普段体育に参加しなかったこと、ぽっちゃりしていたのは薬の影響だったこと、私はもちろん、クラスの誰も知らなかった。A君は、辛いことを抱えている素振りもなく、勤勉で、いつも明るく振る舞い、人によって態度を変えず、励ましてくれていた。さっきまで「絶対勝とうな」と話していた子が、もう話せないし、明日から後ろの席にいない。すぐには受け入れることも理解もできなかった。先生はA君が亡くなったことを知らせる原稿をアナウンスするよう言ったが、私は固まったまま声も涙も出なかった。きっと仕事なら、こんなつらい仕事でも平穏を保って伝えなければならないだろう。
この日、声を使う仕事がしたいと言う夢は消えた。