離婚した弟の家に入り浸り

高校性になる頃、母の弟が離婚し、まだ小学生の子供二人を男手一つで育てることになった。母は、自分の子供のようにかわいがってきた弟が可哀想だと、これまでほとんど運転などしていなかったのに、軽自動車を買い、わざわざおかずを作っては、自分で運転して弟の家に持って行った。そのうち弟宅に入りびたり、母や妻のように家事をこなした。母は、自分の家族よりも弟や姉たちと過ごす方が楽しかったのだろう。あれだけこだわっていたはずの家や私達への関心は失われていた。「どうせ、あなたは言うこと聞かない。部活も進学も。なんでそんな子のためにお母さんがやらなきゃいけないの?」と言われたこともあった。

 

父も我慢の限界だった。
「お前の家族と、家はここやろう。家の事をまともにして遊びに行くなら何にも言わない。最低限自分のすること先にしてからやろ」

父は至極まっとうなことを言っているのに、母はそれを理解せず、姉妹が会って何が悪いの? と聞き入れない。何度となく大喧嘩をしていた。母は「今のあなたがあるのは、うちの姉のおかげでしょ」と、勤めている会社の代表でもある姉を引き合いに、言い返せないようにした。

父がトラックの運転手をしていた時は、父の機嫌を損ねたら生きていけなかった。しかし今その父が働いているのは、母の同族会社。立場が逆転したと勘違いしていたのだろうか。両親の喧嘩はヒートアップしていき、私たちは耳をふさぎたくなった。父は声は荒げても決して手は出していない。そしてある日、父は母に会社を辞めると伝えた。「給料が少なくなろうが、体がきつくなろうが、保険だ年金なんか知らん。自分の家族は自分で稼いで養うから、会社を辞めてまたトラックに乗る」と母に言った。この時の母の怒り方は、尋常ではなかった。姉たちに嫌な思いをさせるとはどういうつもりだと怒っていた。

両親の話は平行線だった。奈緒音さんは父がまっとうなことを言い続けているのにと感じていた Photo by iStock

翌日、父は会社に辞意を伝えたそうだが、母の姉からその話を聞きつけて、父が働いている会社とは関係のない年の近い伯母が突然家にやってきた。私は台所で、母が弟家族のためにおかずを作るのに使った山積みの食器を洗っている最中だった。台所だけではない。家の中はかなり荒れていた。それを見た伯母は、現状を察したようだった。「なぜここまで、こんな状態になるまでお母さんに言わなかったの?」と私に聞いてきたが、母がそうさせているのに、私から母になにを言えばいいというのか。

伯母がこう言ったのをよく覚えている。
「健康な体があって、家族が元気に一緒暮らす家があんのに、自分の怠けを棚に上げて、身の程知らずの贅沢して、台無しにしてるんや。子供にしつけや手伝いの域ちゃうわ。あんたがしなあかんことを子供にさせて。子供はあんたの奴隷やないねん、可哀想やないの!」

母が泣きながら伯母を追い返した。その後、父が会社にとどまるようにと複数の伯母たちも交えた家族会議が何度か行われたが、父は会社を辞めた。

母は姪の母である一番年上の伯母に、「家の事をしてから来なさい」と言われて、数日は行くのを我慢していた。しかしその間も我が家の事はしなかった。父に対する不満を言いながらあれしなさい、コレしておきなさいと私たち子どもに指示し、すぐに弟宅に行く生活に戻った。同時に私達への当たりはますます強くなっていった。

今思えば、母は常に「被害者」だった。なにかのせいで、誰かのせいで、私が可哀想。そんななか、従順な妻を必死で演じていた。そのほころびが、私への暴力として表れていた。しかし父との関係が変わったとき、もはや、母はまた別の形で、私を悩ませるようになっていた。

【次回は3月10日公開予定です】

若林奈緒音さん「母の呪縛」今までの連載はこちら

#1-1顔が歪むほど殴られた…40代女性が抱え続ける「母のコントロールの悪夢」の告白
#1-2骨折した足にテーピングして…娘をバレーボール選手にしたかった母「驚愕の行動
#2-1母はなぜ私を殴り続けたのか―40代女性が考える「高校に行かず嫁に出た母の孤独
#2-210歳の私が「祖母の標的」だった母をかばったら…止まらぬ母の暴力
#3-1些細なことで始まった小学校でのいじめ…母に「甘えるな」と言われ絶望した日のこと
#3-2斜視の手術で目に包帯…母に殴られ続けていた私が唯一感じた「母の優しさ」
#4-1料理が気に入らないと箸もつけない父への不満が…私を殴り続けた母「父との関係」
#4-2私のことは殴っても父に従順だった母が、「家事をやらない人」に急変した理由
#5-1家事をしなくなった母が祖母と叔母と演じた「修羅場」、巻き込まれる子どもたち
#5-2いじめをかばってくれた友人との突然の別れ…そのときの母の驚愕の言動
#6-1殴る蹴るに、タバコまで…母が私だけに暴力を振るうようになった経緯と「母の夢」
#6-2母が薦めた看護学校は回避しても…高校の推薦入試合格の日に感じた「絶望」
#7-1高校合格の日に母からボコボコに…入学前からの悪夢と兄との関係の大きな「変化」
#7-2瓶詰め入りの買い物袋で顔を…高1の私の顔が歪むほど母に殴られた日の話
#8-1高校トップの成績・進学希望の兄に「学歴はいらん…」妹の私が見た「父の呪縛」#8-2学歴はいらない」男らしさを強要する父、進学を諦めた兄…子どもの人生とは
#9-1大学進学を阻んだ「父の呪縛」…兄が「親ガチャ」から脱出できた理由
#9-2犬の散歩中に車に引きずり込まれ…性暴力に遭った私に母が口にした驚きの言葉
#10-1目標金額200万円…母の暴力と過干渉に苦しむ女子高生が計画した「自立の道」
#10-2親ガチャの悪夢から抜ける…母に虐待された女子高生が「自立計画」を実行に移すまで
#11-1 親ガチャから逃れるために高3で一人暮らし…それでも続く「母の呪縛」
#11-2「お金都合してくれへん?」高卒で自立した私に忍びよる母の「せびり」