中学に上がった時の斜視の手術

中学には、他の学校からの生徒が半数以上になりクラスも増える。小学校のいじめっ子たちと同じクラスになる可能性は低くなると希望もあった。それでも、小学校の頃どうだったかをわざわざからかいに来るいじめっ子がいたために、すぐに小学校に戻ったようになり、一時期は絶望した。それでも全く気にしないで仲良くしてくれる友人も数人いたことが、本当に有り難かった。
 
中学一年生の最初の健康診断で、左目の視力低下と斜視を指摘され、一度目の斜視の手術を受けることになった。お医者様が、斜視は遺伝性または先天性だと言ったにもかかわらず「だからあなたは目つきが悪い、うちの家系で目が悪い人はいないんです、暗いところであんな雑誌を読むなと言っているのに」と私が悪いかのように母は言った。手術はいたって簡単だが、検査も兼ねて五日ほど入院することになった。
 
その前後の病院通いと、入院中が私にとって一番の母との思い出になった

 

美味しいね、とビスケットを食べる喜び

病院は家から電車で3駅離れていた。普段は乗らない電車だ。心配症な母は、どれくらいかかるか分からないと早く家を出て、午後の診察時間よりも2時間以上も早く駅に着いた。病院は最寄り駅から歩いて10分だと駅員さんに教わった。病院で2時間も時間をつぶすのは得策じゃない。風邪など病院で移されても困る。母はそう語った。

幸い、自宅の最寄り駅とは違い、病院がある大きな駅にはステーションデパートが直結していた。時間があるので中を目的もなく、母とぶらぶらした。それだけで、普段見ないものが見ることができて楽しかった。まだまだ時間があったので、休憩しようかと母が立ち止まったのは、ケンタッキー・フライド・チキンの前だった。母は外食やファストフードが悪いものと思っていたので、めったに食べなかった。ケンタッキーはテレビCMも出はじめだったと思う。母は少しの間ポスターを眺めて悩んでいたが、入ってみようかと言った。初めてだったから、何を頼んで良いかわからず、ケンタッキーなのにチキンは頼まず、チキンフィレサンド1セットとビスケットをひとつ頼んだ。

はちみつをかけて食べるのは、日曜日の特別な朝のホットケーキの時だけだった。母は、ビスケットを上下で半分に割って、分けっこして食べようと言って私に渡した。それが嬉しくて嬉しくて。初めて食べたメープルシロップは、本当にすごく美味しかったのを覚えている。美味しいね、また来ようねっと母が言った言葉が今でも忘れられない。それが検診のたび楽しみになった。

母親を独占し、怒鳴られずに一緒に美味しいビスケットを食べられる。その時間が奈緒音さんにはとても幸せな時間だった Photo by iStock

ただ、その後は、母が行き方を覚えて毎回早めに着いたわけではなかったので、ケンタッキーに寄ったのは2回ほどだった。診察が早く終わった日には、「お兄ちゃんにも買って帰ろう」と、家にお土産として買って帰ったので、ビスケットは母と二人だけの「特別」ではなくなってしまった。