第29話 警察からの連絡②

今日は大妻署に行く日だ。何も指示したりはしてないので、樋口がなにかやらかしていたとしても、共犯に問われることは無いはずだが、念の為知り合いの弁護士に今日▲時以後に警察署から連絡をいれるかもしれないと話を通しておき、連絡先電話番号のメモをポケットに入れて警察署に向かう。逮捕された時には知り合いの弁護士に連絡できるかが鍵だからな。


鍵……そういえば樋口って鍵のモチーフが好きだったな。逮捕されたかもしれない樋口のことを思い浮かべながら大妻署に向かった。


大妻駅を降りて繁華街を横切ったところに大妻署はあった。かなり年季の入った建物だ。入口を入って受付に下田刑事と約束があることを告げると、入館届に名前を書くように言われる。名前や住所を書いていると、右側から声をかけられた。


「松尾さんですか?」


顔をそちらに向けると、いかにも刑事といった体格の、スポーツ刈りの男が立っていた。


「刑事課の下田です、入館証を受け取ったらご案内します」


下田に付き従って刑事課のある階で降りる。刑事課との案内がある部屋の入口脇にある、安物の机とパイプ椅子を並べた席を案内された。


「こちらにおかけください」


うながされたパイプ椅子に座る。刑事課内の取調室を使わないということは、ただの参考人ということか。弁護士の番号は要らなかったかな。


「まず、身分証の提示をお願いします。それと、今のご職業など伺ってもよろしいですか」


「松尾光、探偵業をしてます。届出番号は--------」


「はい、こちら確認してあったのと一致してます。実は今日ご足労いただいたのは、樋口英雄さんについてです」


「あいつ何やったんですか?この署で逮捕されてるんですか?」


「は?あ、いえ、樋口さんは逮捕はされていませんよ。お電話で伺ったのは、樋口さんに探偵業の外注をされていたとか?」


逮捕されてない?とするとどういうことだろうか


「はい、この日このターゲットを尾行して浮気の証拠写真を撮ってきてくれとか、そういう依頼をたまにしてました」


「最後に樋口さんに仕事を依頼されたのはいつですか?」


「えーっと、メールみればわかるのでスマホ見ていいですか?」


「どうぞ」


「えーっと、この日ですね。で、この日に依頼完了の報告を受けて報酬を振り込んだのがこの日です」


スマホを見せて説明すると、下田刑事はそれらをノートにメモしている。


「あとはこの日に、私は受けられない仕事を紹介したりもしましたね。で、その完了報告の連絡がきたのが、樋口からきた最後のメールですね。そのあとこちらからメールをしても返信がこなかったので、ちょうど下田さんから電話もらった日、心配で樋口の家を見に行ってたんですよ。だからこの辺にいました」


特に最後のメールについては、紹介した仕事の依頼主についてなど、詳しく聞かれた。それらについても全て話したあたりで、下田刑事のこちらへの警戒心が緩むのを感じた。


「ああ、なるほどですね。実は樋口英雄さんに親御さんから捜索願がでておりまして」


「捜索願ですか」


「はい。この最後に樋口さんからメールがあった日の次の週ですね、帰省すると言ってた息子と連絡がつかないと。というわけで、マンションの管理人の許可ももらって部屋に入ったんですが、部屋の電気もパソコンも付けっぱなしで、数日放置されてるみたいでした。まるで神隠しにあったみたいに。それで、メールを確認したら、松尾さんが今おっしゃった通りのメールの履歴があったという次第でして」


「あいつ行方不明なんですか?」


「はい、なにか心当たりとか、樋口さんについて覚えていることとかあれば何でも良いので教えて下さい」


「うーん……そうですねえ。探偵業は向いてるやつでしたよ。超望遠レンズを使いこなして浮気の証拠写真を抑えるのはとても上手かったです。ともすればストーカーにもなりかねない危なっかしい写真の撮り方とかしてることもありましたが……」


「なるほどですね」


「最後に紹介した依頼主とはなにか揉めたみたいな話をしてました。ただそれくらいで行方不明になるとは思えませんが、一応揉めたメールはこれです」


「こちら写真撮らせてもらってもよろしいですか?」


「え?ああ、どうぞ」


下田刑事は俺のスマホにカメラをむけ、樋口からのメールの全文を写真におさめていく


「よくわかりました。ありがとうございます。最後に、樋口さんの服装とか、身につけていたもので記憶に残ってるものとかあったら教えて下さい」


「あ、来る途中あいつのこと思い出してたんですけど、あいつ鍵のモチーフが好きで、いつも鍵をモチーフにしたピアスやネックレスとかをつけてましたよ。ベルトのバックルには鍵穴のマークがついてたり」


「鍵のモチーフ、ですか」


「はい。なんか、俺という鍵を差し込む鍵穴となる女を探してるとかwこれってロックでしょ!とか言ってましたね。そのロックはちげーよってねw」


「なるほどですね。本日はご足労いただきありがとうございました。また何か確認したいことができたらご連絡さしあげるかもしれませんが、よろしくお願いします。また、もし樋口さんと連絡が取れたらこちらにもご連絡ください」


「了解しました。俺も心配してるので、よろしくお願いします」


「本日はありがとうございました。見送りはエレベーターまでで失礼します」


スマホをポケットにしまい、帰ろうと立ち上がったところで不意に思い出した


「あ!そうだ」


「?」


「そういえば、俺Youtubeチャンネルもやってるんですよ。凍道チャンネルって歴史解説チャンネル」


「なるほどですね?」


「そこで一昨日、コメント欄になぜか樋口英雄って名前を連呼する変な荒らしがでたんですよ。最近ひかり教団ってカルト宗教の人たちに絡まれてネットニュースになったりで。知ってます?ひかり教団。お陰様で視聴者数増えて、比例して荒らしも増えてるんですけど、あれいつだったかな。最近なんか、樋口樋口樋口樋口ってあいつの名前を書き込む荒らしがきて。先々週かな?でも多分、チャンネルで樋口の話はしたことないんですよ。あれなんだったんだろう。えーと、その荒らしはブロックしたから消えてるかな。コメントはちょっともう消えてるんですが」


「なるほどですね。また現れたらスクリーンショットとかで残しておいて連絡をもらえますか」


「了解しました、それでは」


「はい、本日はありがとうございました」

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