第28話 警察からの連絡①

樋口には電話を何度かけても通じない。奴の名刺も見つかったので、住所を見に行くかと思ったが、その前にひかり教団について調査しておこう。検索窓に「ひかり教団」と打ち込み、でてきた検索結果を上からメモをとりつつ読んでいく。


ひかり教団。


戦後の新興宗教乱立期に生まれた新興宗教の一つで、開祖の佐伯尚樹は自身を神武天皇を導いた八咫烏の化身であると主張し、天皇崇拝と、古き良き日本の文化を取り戻すという教義で信者を集めているらしい。特に、「古き良き日本の文化を取り戻す」が保守的な考えの人々に受けているらしく、熱狂的な信者も多いらしい。


20世紀の末頃までは家族を取り返そうとする人達と揉めたりしていたようだが、教義に異を唱えると、「昔ながらの日本の礼儀作法とかを学べるんだから良いじゃないか!」と職場や子供の学校にまで集団で異常なクレームを入れられるので、だんだんと誰も名前を上げなくなっていったらしい。クレームに屈した人達が残した怨嗟の残滓がネットに残っていた。


開祖佐伯尚樹は作家として多数の著書があり、それらは愛国精神(笑ってしまうようなものだった)に溢れた、国粋的な小説や歴史書(これも笑ってしまうようなものだった)のようだった。


妹の佐伯香が実質的な権力を握っており、兄であり教祖の佐伯尚樹はお飾りとの噂だ。


芸能人や政治家にも信者がいるらしく、新興宗教としてはありきたりな「お布施をするほど心が清められる」との教えで集めた金で、全国各地に立派な支部を建て、今では外国にも信者がいるほどの、名前こそ知られていないがかなり力を持った教団らしい。特に本部や芝浦支部などをみると、不動産価値だけでも数百、いや数千億はありそうだ。


「知らなかったけどこんなカルト宗教あったんだなあ……」


思わず1人つぶやいてしまうくらいには存在感のあるカルト宗教だった。


おっと、日が暮れる前に樋口の家を見てこないとな。ええと……


樋口の家に着き、チャイムを鳴らしたのだが誰もでなかった。樋口とは正式に雇用契約を結んだりしていたわけではないので、緊急連絡先などはわからない。樋口の家は横浜の保土ヶ谷という所にあり、思ったよりも遠かったので役所はもう閉まっている。明日、雇用者として住民票を取得し、親御さんが調べられるなら調べるか。樋口 親調査 とメモして、「連絡がないから心配している、なにかトラブルか?これをみたら連絡しろ」とメールを改めて送っておいた。


樋口の家の最寄り駅で、ホームで次の電車を待っていると電話が鳴った。非登録の番号、というか末尾が0110だから警察署だ。なんだ?


「はいもしもし」


「こちら大妻署の下田と申しますが、松尾光さん御本人でしょうか?」


「はい、松尾ですが」


「樋口英雄さんはご存知ですか?」


「樋口?ああ、樋口ですか、連絡つかなくて心配してたんですよ。たまに探偵業の仕事を外注してます。樋口になにかあったんですか?」


「なるほどですね。詳しい話は、ちょっとこちらの署まで来ていただいて、お話を伺いたいのですが、可能でしょうか?」


「ええ?ああ、まあはい、そういうことなら伺わせていただきます。今丁度近くに来ていてこのあと予定もありませんので今から伺うことも可能ですが?30分以内には着けると思います」


大妻署はたしか2駅隣だ。おそらく樋口の住所を管轄する署だろう。


「なるほどですね、でも、今日はこのあとちょっと私が出なくちゃいけなくてですね。申し訳ないです。来週ですと◯日の▲時以降とかご都合いかがでしょうか?」


「ええ、◯日の▲時で構いません」


「わかりました、では◯日の▲時に大妻署の受付で刑事課の下田を呼び出してください」


「わかりました」


「ではよろしくお願いします」


「失礼します」


予定表に◯日▲時 大妻署 下田と書き込み、樋口 親調査のメモを二重線で消す。


あいつなにか警察沙汰になってたのか?逮捕されてたのかなあ、これ。心当たり……どれだろう?たくさんありすぎる。俺が依頼した仕事に関係してないと良いんだが、俺が呼ばれてるってことは、そういうことだよなあ……任意で呼ばれてるし、俺が逮捕される心当たりは無いと思うんだが、一応もしもの時に備えて準備してから大妻署に行くか……。

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