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アカデミー賞ノミネート快挙も、伊藤詩織監督作は何が問題になっているのか #専門家のまとめ

斉藤博昭映画ジャーナリスト
この1月のNational Board of Review(映画賞)のガラに出席(写真:REX/アフロ)

1/23に発表された第97回アカデミー賞のノミネートで、長編ドキュメンタリー部門に伊藤詩織監督の『Black Box Diaries』が5本の中に入った。同部門で日本人監督の作品がノミネートされるのは、アカデミー賞史上でも初めて。大きな快挙ではあるが、同作の中で使用された映像と音声が波紋を広げている。裁判以外では出してはいけないはずの防犯カメラの証拠映像、警察官との電話の録音などが同作で使われているからだ。実際に作品を観た筆者にとっても、これらは作品の根幹となる部分だっただけに混乱は収まらない。

ココがポイント

最高裁判所は双方の上告を棄却する決定をし、伊藤さんの性被害を認めた判決が確定
出典:テレ朝news 2022/7/8(金)

訴訟のルールにのっとり提出されたものを目的外使用すれば、証拠の少ない性被害での証言や映像提供者がいなくなってしまう
出典:共同通信 2024/10/21(月)

交渉を尽くし、プライバシーに配慮しながら、オリジナル映像とは異なる加工を施したもので、映画には公益性があるとする考え
出典:弁護士ドットコム 2024/12/19(木)

性暴力被害者が経験する、公の場で再び自らの体験を語らなければならないような場面で、彼女は社会が求める勇敢な女性像の典型
出典:The Hollywood Reporter Japan 2024/10/28(月)

エキスパートの補足・見解

『Black Box Diaries』は英国アカデミー賞でもノミネートされ、世界的に高評価を受けているが、日本での公開は未発表。日本のスターサンズが製作に名を連ねており、公開に向けて動いてはいるはずだが、上記の問題が足枷になっている可能性もある。

ホテルの防犯カメラの映像は加工されているとはしても、あまりに衝撃的であるし、警察官との電話のやりとりは事件の闇の深さ、裁判の過程と重なる意味で重要なうえ、エモーショナルな役割も果たしている。もしこれらを削ってしまえば、作品の存在意義も弱まるに違いない。

一方でそれ以外にも「性被害に遭った当事者にしかわからない痛み」は強烈に観る者の心をえぐるし、当時の政権との関係など事件の“裏”まで見えてくるスリリングな運びの巧みさ、さらに思わぬ人物の証言が感涙を誘うシーンなど、多くの人に観てほしい作品なのは確か。「無断使用」と「公益性」というドキュメンタリーで起こりやすい問題は、マイケル・ムーアなど過去の事例で、アメリカでは公益性を受け入れやすい土壌であることも再認識する。

なおアカデミー賞「受賞」に関しては、他に有力な作品もあり、現状では「可能性あり」に留まる。

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映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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