ローカルプレイヤーの皆さんに、地元のおすすめおやつと、それにまつわるエピソードを教えてもらう企画。
今回おやつを紹介してくれるのは、静岡県沼津市の書店「リバーブックス」の江本典隆さん。「同級生のように感じている」という、沼津のソウルフード的パンについてお話してくれました。
おやつを教えてくれた人:江本典隆さん
1978年、静岡県沼津市生まれ。大学卒業後、旅行系出版社勤務を経て、2023年9月沼津市下本町にクラフトビールが飲める新刊書店「リバーブックス」を開業。趣味は展覧会巡りとサウナ。好きな食べ物は麻婆豆腐とのっぽパン。2024年沼津市の魅力発信を行う「沼津ふるさと応援隊」に就任。
Instagram:@riverbooks_numazu
X:@Riverbooks_NMZ
沼津の人たちのソウルフード「のっぽパン」
沼津駅から徒歩10分ほど。1月のこの時期は特に強くなるという風を受けながら歩くと、「リバーブックス」に辿り着く。小さいお店ながら、なかに入るとじっくり棚を眺めずにはいられない、選書が光る書店だ。
そんなリバーブックスを営む江本典隆さんに、地元のおやつを訊くと「のっぽパン」を教えてくれた。長さ34センチ、キリンのキャラクタが描かれたパッケージが可愛いご当地パン。江本さんは続ける。
「のっぽパンは『メディア』なんですよ」
一体どういうこと……?
「地元のありとあらゆる食材を乗せることができるし、ローカル番組やアニメとのコラボもできる。なにとでも組める、メディアのようなパンなんです。ちなみに、なにも挟まっていない状態ののっぽパンを、我々は『素のっぽ』と呼んでいます」
1978年に販売がはじまった「のっぽパン」。会社の事業再編のため、一度は表舞台から姿を消したものの、地元の人たちの「のっぽパンが食べたい」という魂の叫びに応えるようにして1年ほどで復活。まさに沼津の「ソウルフード」なのだ。
「のっぽパン」はなんでも挟める「メディア」
シンプルに見えるのっぽパンが長年愛されているのは、飽きさせない工夫があるから。ふかふかした生地にクリームが挟まった「レギュラー」や「丹那牛乳」などの定番商品はもちろん、3ヶ月に一度は新商品が登場する。
沼津を舞台にしたアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』の劇中にも登場し、コラボ商品が販売されたことも手伝って、人気は全国区に広がった。
目を離せない数々のコラボの裏には、のっぽパンを製造するバンデロールの担当者・冨田さんの存在がある。「おもしろい」「やってみよう」という冨田さんのフットワークの軽さが、どんどん新味を生み出している。
江本さんが冨田さんと出会ったのは、江本さんが前職で静岡県富士市のほうじ茶のブランディングに関わっていた時のこと。富士市は、香り豊かなほうじ茶が有名な土地。お茶農家の方との会話のなかで「のっぽパンにほうじ茶味があったらいいですよね」というアイデアが出た翌日には、江本さんはバンデロールに提案の電話をかけていた。冨田さんの回答は「やりましょう!」。
完成した「富士のほうじ茶ラテのっぽ」は、ローカル線・岳南電車のラッピングにもなり、富士市がほうじ茶の町であることを掲げて地元を駆け回った。
江本さんが会社を退職し、地元の沼津で書店をはじめてからも、のっぽパンとの縁は続いた。2024年の夏祭りでは、地元の飲食店「魚鳥木」の人気商品・サバサンドの中身を挟んだ「魚鳥木サバサンドのっぽ」を、リバーブックスの軒先で販売。「1日しか買えない幻ののっぽパン」と銘打つと、開店1時間前からお店の前に行列ができるほどだった。
2022年にオープンした「バンデロール工場直売所」では、イベントに限らずいろいろな種類ののっぽパンを売っている。「カツカレーのっぽ」「富士宮焼きそばのっぽ」、さらには静岡おでんを挟んだ「しぞ~かおでんのっぽ」まで。「しぞ〜かおでんのっぽ」(※)は、地元の天神屋というお店とのコラボで、おでんの汁にはとろみをつけてパンからこぼれないようにしている。インパクト重視と思いきや、お客さんに楽しんでもらえるよう、味にはかなりこだわっている。
(※)「しぞ〜かおでんのっぽ」は現在 休売中です。
江本さんの話を聞いていると、のっぽパンのこの長さは、地域のアイデアをたっぷり乗せるための懐の広さのように思えてくる。なんだか、地元の食材やアイデアがやわらかな生地の上で、楽しそうに踊っているような。沼津の知ってほしいもの、沼津で試してみたいことにスポットライトを当てる舞台に、のっぽパンはなっているのだ。
同級生として「のっぽイズム」を忘れずに
一度は「沼津には何もない」と感じ、東京の大学に進学して地元から離れた江本さん。それでも、静岡から離れた土地のスーパーでのっぽパンを見つけると、懐かしいパッケージに思わず手を伸ばした。
「のっぽパンが販売開始したのは1978年。僕の生まれたのも1978年。だから、僕たち同級生なんですよ。『久しぶり』って心のなかで呼びかけて、売り場にあるのっぽパンを買い占めていましたね(笑)」
コロナ禍を機に20年ぶりにUターンした江本さんは、沼津の魅力に気が付き、この土地で書店を開いた。書店は、どんな味の食材も挟める「素のっぽ」みたいだ。本を起点にすれば、この場所ではどんな企画だって実現できる。地元に住みながら、自由に、真面目に、遊び心を忘れず、どんどん思いついたことをやっていく。お店のなかにあるギャラリースペースの展示は、1年後まで予定が埋まっているという。深夜営業をしたり、カウントダウン営業をしたりもしている。お客さんが飽きないように、楽しめるように。いろいろな展示で、アイデアで。のっぽパンもリバーブックスも、食べるごとに違う味を楽しませてくれる。
バンデロール工場直売所
〒410-0835 静岡県沼津市西島町20-2
「のっぽパン」は、バンデロール工場直売所以外にも、静岡県沼津市の駅売店やスーパー等で購入することができます。販売場所に関しては、公式HPをご参照ください。