第17話 男女混合寮生活(健全)
あの後先生を問い詰めたらクリスの一件は最初から知っていたらしい。
それどころか俺の父上とクリスの父との
……もうこの人、元王国騎士ってこと隠すつもりがねーや。
俺が入学するにあたりド派手に新聞に乗ったことで嫌な予感がしていたが、受験期間ギリギリに滑り込んできたクリスが合格したところで
「これ……
と確信したそうだ。
さすがのベレッタ先生もどうしようと悩みに悩んだらしいけれど、
「やっぱり悪い事はぁ、最初にケリをつけた方がいいわねぇ」
と可及的速やかに
「あんなのはぁ王国騎士団じゃ日常茶飯事よぉ。今は
とのこと。
……ここは王立ミューロック学園ですが?
いろいろツッコミどころがあるけれど、絶対行かないからな王国騎士団!
それに
曰く、戦う前のボディーチェックでつけた
火傷については先生がすぐさま回復魔法で治してくれた。何でもできるんですね、前はどこの所属だったんですかと聞いてもはぐらかされた。隙がないなぁ。
「先生はぁ頑張ったアレン君にご褒美をあげようと思うのぉ。楽しみにしててねぇ」
そう言われて夜。寮室の振り分けがあるということで名簿を渡されて……思わず二度見した。
「先生。あの、男女一緒なんですが?」
「そうよぉ」
「そうよじゃなくて! 俺!
「そうよぉ」
寮室は四人一部屋で、共用ラウンジと個室付きのものだった。同性同士で分けるのかなと思いきや、男女混合とは。
これがご褒美か、と思ったら俺たちだけじゃなかった。他の連中もそうだった。大荷物を抱えた我ら特殊技能科一年生は寮のホールで悲鳴を上げていた。
「はーいよく聞きいてみんなぁ。これから同じ釜のメシを食う仲間ですからぁ。とにかく仲良く、仲良くねえ!」
仲良くにも限度があるだろ、間違いがあったらどうするんだという至極真っ当な反論が返ってくるも、ベレッタ先生はうふふと笑うだけ。
「それもまた学びよぉ。
いやいやとツッコミを入れるクラスメート。抗議の雨霰だが、ベレッタ先生がついに薄目を開いたので皆即黙り込んだ。
「――うん、いい子ねみんな。あ、そうそう。男女お互いにセクハラはもちろん、同意の上でも子供デキたら即退学だからねぇ」
ストレートに言うなと一斉にツッコミをいれるクラスメート達。
「そうならないように、上手にヤりなさいねぇ。先生は自由恋愛派だから〜」
最終的にはベレッタ先生が左手で輪を作り、右手の指を輪の中に出し入れするという生々しいジェスチャーをしてきたので、
「「「「我々はそう言う事はしません!」」」」
と一斉に宣誓する我ら特殊技能科一年。先生が出て行った後は誰が言うでもなく円陣を組み、
「「「「必ずみんなで卒業するぞ!!」」」」
――と、謎の連帯感が生まれていた。
そもそも皆、王国騎士団や正教会その他諸々の強引なスカウトを逃れるためにやってきた者がほとんどだ。何とかして卒業しなければ、という目標が一緒なので結束力が高くなるのは当たり前かもしれない。
皆がいそいそと自分達の寮室に荷物を運ぶ中、
「アレン君〜!」
と再び現れたベレッタ先生。今度は何だと思ったら羊皮紙を手渡された。
「忘れてたわぁ。はい、これがご褒美」
「これは?」
中を見てみると魔法陣と呪文が描かれている。なんぞこれ……と思っていたら
「先生!」
「上手にヤるのよ〜」
顔真っ赤になる俺に、わははと笑って走り去っていくベレッタ先生。義足なのに速ええな。
もう何なんだあの人は。本当に担任の先生なのか。相手してるだけで疲れるんですけど。
預け倉からの荷物を持って寮室へと向かう。俺の部屋は寮の端っこで荷物を持っていくのが大変だった。
部屋の中は先生の言った通り、基本寮室は共用ラウンジがあって、トイレとシャワー室そしてキッチンと並び、その奥にプライベートルームがあるつくり。
「あ、アレンくん……」
寮室に入ると、広いラウンジにはすでにマリーとエイファ、そしてクリスがいた。三人とも入るなり俺の顔を見てくる。やめてくれ俺も恥ずかしいんだ。
「お、お世話になります。マリーゴールド・モーゼルです」
「なんで改めて自己紹介?」
「だ、だって。おおお男の人と一緒の部屋とかははは初めてで」
「落ちついて。よくよく考えればプライベートルームは分けられてる。シャワー室も男女別だから問題ない」
はず。
だよね?
いかん。意識するとこっちまで恥ずかしくなる。
嬉しいか嬉しくないかで言ったら、すごく嬉しい。一番最初にこの学園で出会って、ちょっとしたトラブルに巻き込まれたけどそれも乗り越えた。
最初からかなりトバしたけれども、一生忘れられない思い出になったと思う。
うっ。
マリーもそんな風に顔を赤らめないでくれ――
「よかったですねお二人さん。あ、わたしはイチャイチャしてるところは邪魔しませんのでご安心ください」
と、どストレートにそう言うのはエイファだった。既に部屋着に着替えていてくつろいでいる。
見たこともないポンチョめいたローブを着ていた。チラチラと生足が見えて、ずいぶんと体のラインがくっきりハッキリ――まさか下着着てないとかないよな。
「アレンさんこの服が気になりますか? 里の普段着ですよ」
ソファーから立ち上がりクルッと回るエイファ。ポンチョが際どいところまで上がってきたので思わず顔を覆う。
マリーが「やめなさい!」とわりと本気で注意していたが、「何がです?」と首を傾げていた。
「マリーまずいぞ。彼女が一番フルオープンかもしれない」
「そういえばエルフって地域によっては全裸だったりするから、貞操観念もピンキリってじいやに聞いたことある」
もしかしてそれが穢らわしいとかいう差別に繋がってるのかしら。うーんそれはそれで酷いけど。
「わたし、嬉しいです。皆さんと一緒で」
俺たちの心配をよそに、にへらと笑うエイファ。その顔初めて見たかも。
「エイファ、でも俺男なんだけど……構わない?」
「特には。エルフの里でも特にそういうので分けたりしないので違和感はないですね」
「そ、そうか……」
「よろしくお願いしますね」
「わたくしも改めて、よろしくお願いします」
そう言うのはクリスだった。
どんな顔して会おうかなとは思っていたけどまさかルームメイトになるとは。
でも意外や意外、俺を睨むこともなければ前よりもスッキリしたような顔になっている。それどころか俺にも微笑むとか。どうした。変なもの食べたのか。
「よろしくクリスティーナちゃん!」
「クリスで結構ですよマリーさん。よろしくお願いしますね」
「……な、なんだかさっきとずいぶん変わってない? ほとんど別人だけど?」
言いにくいことをズバッと言えるのはマリーさんかっこいい。
しかしクリスはうふふと大人びた笑みを浮かべて
「何だか肩の荷が降りたような、そんな気がしまして。今全てが新鮮に見えます」
とのこと。確かに出会った時のイケメンな感じから、落ち着いた品のあるお嬢様みたいになってる。一人称も「私」から「わたくし」に変わってるし。こっちが素なのだろうか。
しかしクリスは急に姿勢を正したかと思うと、マリーに深々と頭を下げていた。
「先ほどは失礼しました」
「ええ!? な、何が!?」
「マリーさんの許婚にわたくし、あのような事を。事情があったとはいえ――」
「「許婚じゃないです!」」
ハモった。恥ずかしい。そして目が合った。ダブル恥ずかしい。
「……そ、そうなんですか。新聞では結婚秒読みと」
そういやそんなこと書いてあったっけか。もう世の中では完全に夫婦扱いらしい。まだ付き合ってすらもないのに!
「や、やっぱりあの新聞社買い取りにいかないと」
「違うのですか?」
「「違います!!」」
またしてもハモった。恥ずかしい。
「そ、それでもやはり。わたくしはとんだご無体を」
「……正直怖かったけど。ほら。アレンくんの良さがわかったでしょ?」
急にこっちを見てくる二人。やめて、なんか恥ずかしい。あとエイファが小さく「おっ自分のものムーヴ」って言ったのは聞き逃さなかったからな。
「ええ」
「ならいいかなって」
「……ありがとうございます。あなたが優しい人で良かった。キズモノにしたと言われたらどうしようかと」
されましたけど。手、めっちゃ火傷したし。
……あれ、そういえばマリーには謝っても俺には謝ってなくない?
「クリスさん」
と、クリスの前にとててと足を鳴らして近づくのはエイファだった。
「お礼を言ってませんでした。今日は助けてくれてありがとうございました。危うく貴族の男に摘み出されるところでしたよ」
「お礼なんてそんな」
「正直アレンさんに対して殺意マシマシの時は、わたしもどうかとはおもいましたけど……」
「うぐっ」
「今は眉間の皺がとれて、今とってもお綺麗です。白銀の騎士って感じで憧れます」
ご覧あれ、この穢れなき笑顔。
裏表全くない好意100%のエルフスマイルだ。
クリスはカーッと赤くなっている。でも嬉しそうだ。エイファの頭を撫でていたが絵になっている。
「では以後、素の自分でいるようにします」
「やった!」
エイファがホッとした顔になった。マリーもそう。打ち解けてきて良かったという感じかな。
「皆さんお優しいですね。あんな醜態を見せたら幻滅されると思っていました」
「そんな事ないよ。さすがだと思ったし、俺も負けられないと思った」
というと、クリスが目を丸くして黙った。なんかやっちゃったかなと思ったら、スーッと一筋の涙。
「どこまでもお優しいのですねアレン殿」
「そっそうかな」
「よく考えれば私が勝てる道理なんて無かったんです。飴玉であんなにされたのですから。アレン殿が鉄球や石を使っていたら私はすぐ負けていたはずです」
「クリス」
「また一からやり直しです。それは皆さんとやりたいと思っています。だから、よろしくお願いしますね」
そう言うクリスの顔はエイファの言う通り、綺麗な顔だなとそう思った。
少し見惚れてしまったが、脇を小突かれた。見るといつの間にか真横にいたマリーがジトっと睨んでいる。何でや。
それを見たエイファは「盛り上がってまいりました」みたいな顔もするし、クリスに至っては時々獲物をとらえたような目もするし。大丈夫かなこのルームメイトたち。
ただそんな始まりでも、同い年だからか話は弾む。すっかり打ち解けてきたところで、「そろそろやりますか」と各々が向き合ったのはそれぞれに割り当てられたプライベートルーム。
中に入ると六畳一間くらいの空間で、備え付けのベッドとクローゼット、そして机があった。シンプルだけど上等だ。ほかの三人も気に入っている様子。
とりあえず必要なものだけ最低限部屋に入れるかとバタバタ作業をしていると、不意に寮室の部屋のドアノッカーの音が響いた。
「こんな時間に誰だ?」
四人で恐る恐る扉を開けてみると……そこにはやっぱりベレッタ先生がいた。
猫ちゃん柄のファンシーな寝巻きで帽子まで被っているが、ものっすごい不機嫌そうにしている。半目も空いていた。
「ど、どうしたんですか先生。う、うるさかったです?」
「ううん。職員寮は外だから」
「なら、何か?」
「ゲパードのダボカスが」
「はい?」
「……コホン。アレン君、ゲパード団長が呼んでるぅ。こんな夜中にぃよぉ〜非常識だと思わな〜い?」
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