第172話 進路

 快楽が体を貫いていく。

 お互いの震えが、徐々に収まっていく。

 余韻をたっぷりと感じながらも、聖子は和真を払いのける。

「重い」

「ん」

 素直にどいた和真が処理をしている間、聖子は呼吸を整えていた。

「久しぶりやから、ようけやったなあ」

「あ~、大会中は禁欲してたしな」

「オナニーしてたんちゃうんか?」

「聖子ちゃん……」

 からかうように言う聖子は、やはり年上マウントを取ってくる。

 している最中は可愛いのに、と和真は思う。


 秋季大会も終わり、これから本格的に基礎体力を上げていく。

 聖子としては推薦で大学は決まる予定だが、最低限しておかなければいけないことはある。

 こうやって肌を合わせるのは、夏が終わって以来。

 場所はだいたい、一人っ子の和真の部屋である。

 聖子の家は妹たちがいるので、こちらになるのは自然なことだ。


 夏が終わってしばらく、聖子の日焼けはかなり落ちてきた。

 元はかなり色白なのである。

 和真はその日焼け跡と、白い肌の境目を舐めるのが好きだ。

 なんだか少し変態っぽいが、性癖の一つと思うぐらいで許容する、年上彼女の聖子である。

「次はもう春やんね」

「センバツ行けなかったしなあ」

「うちももうすぐ、面接あるしなあ」

 そう言いながら、ごそごそと服を着ていく聖子である。


 じっとそれを見ていた和真は、手を伸ばす。

 そして装着したブラのホックをまた外した。

「え、もっかいするん?」

「もう一回とは言わないけど、何度もしたい」

「う~ん」

 ここでちょっと押されると、そのまま押し倒されてしまうあたり、聖子も慣れたものである。


 行為の最中でも、二人はコミュニケーションを取る。

 だがお互いに、手の動きは止めない。

「東京行っても浮気しないでね」

「するわけないやろ。むしろこっちが心配やわ。精力絶倫やし」

「いや、男は皆こんなもんだけど」

 それでも体力に関しては、二人共に絶大である。

 なのでそこから長い、仲良しの時間が過ぎていった。




 仲良くするのを終えて、今度こそさすがに服を着て、二人はまったりと話す。

「プロに行く話はどうなってるん?」

「大学を経由すると思うんだよね」

「東京の大学やで。まあうちの部屋の方が絶対に広いやろうけど」

 聖子は母方が、相当のお金持ちである。

 だからセキュリティのしっかりしたところに、物件を探してくれるだろう。

 むしろ物件のオーナーであったりするかもしれないが。


 和真はプロを目指している。

 だが基本的には、関東のチームを狙っている。

「関西でもええんやで。むしろあっちが本家やし」

 神戸から始まったホテル業が、聖子の母方の事業なのである。

「ついてきてくれる?」

「あんたがプロになるって決めてから、ずっとそのつもりや。うちはこれでも尽くす女やからな」

 それは分かる和真である。


 和真の父にも、プロの声はかかっていたのだ。

 一位争奪になるほどではないが、それなりに期待されていた。

 だがプロの世界に全てを捧げるほど、父は野球に賭けられなかった。

 それは同じくスポーツをやっていながらも、怪我で選手生命を絶たれた、母の姿を見ていたからだ。

 和真は大学に進み、さらに自分の力が通用するのか、それを見極めるのだ。


 一位指名を獲得出来るなら、挑戦してみようとも思っている。

 もっともあと一年の高校生活を考えれば、高卒でも上位指名は充分に可能性があるのだが。

 ただでさえ一年間、聖子と離れることになる。

 そこからプロで地方に行ってしまえば、あまりにも距離が離れてしまうのだ。


 遠距離恋愛というのは、和真も聖子も望まない。

 まだ若い二人は、肌を重ねることで、大きな喜びを感じている。

 聖子としても将来のことは、ちゃんと考えているのだ。

 和真がプロとして成功する確率は、才能だけを見ても分からない。

 プロスポーツの世界は厳しいと、ちゃんと分かっているのだ。


 卒業してもプロに入れば、しばらくは寮生活となる。

 ある程度の期間は、それで生活面を支えてもらうのだ。

 ただ結果を残す以外に、すぐに寮を出る方法もある。

 結婚してしまえば当然のように、寮を出ることになるのだ。

(う~ん、結婚かあ……)

 そこまでちゃんと聖子は、将来のことを考えている。

 果たして和真はどれだけ、深く考えているものだろうか。


 聖子の心配をする和真であるが、聖子からすれば和真の方こそ、女性からの評価は高くなる。

 プロ野球選手にならないまでも、甲子園で優勝につながるホームランを打った、注目の選手なのだ。

 普通に学校の中でも、和真を好きな女子はいる。

 あまり人前でべたべたするのが嫌いな聖子が、わざわざ威嚇しなければいけないぐらい、狙われているのは確かなのだ。




 空気が冷たくなってきた。

 聖子を家まで送るあたり、和真もちゃんと彼氏をしているのだ。

 話題は進路のことと、やはり野球のこととなる。

 昇馬がプロの世界に進む。

 またアルトも同じく、指名されることは間違いない。

 だがまだ二年生で、甲子園で何本も放り込んでいる和真も、既にスカウトからはチェックされているのだ。


 玄関まで送って、そこで別れる。

 そのはずであったが、周囲を確認した聖子は、背の高い和真を屈ませた。

 軽く唇を合わせて、それから笑って手を振る。

 どこか小悪魔めいたところがあるのが、聖子の魅力と言えるであろうか。

(あ~、次は練習試合禁止期間になってからかなあ)

 聖子も一応は受験生。

 進路の問題はないのだが、あまり乳繰り合っているわけにはいかない。


 和真は聖子の心配も、頭では分からないでもない。

 だが聖子はいまだに、和真のことを理解していない。

 それこそ幼稚園児の頃から、和真はずっと聖子のことが好きだったのだ。

 なのでシニア時代、同じチームになれなかったことが、ずっとしこりになっていた。

 もっとも真琴と聖子が組んだ三橋シニアは、鷺北シニアをそれなりに撃破していた。

 二人は間違いなく、シニアまでは全国レベルでも、通用する選手だったのだ。


 離れてしまうと、また寂しくなってしまう和真である。

 大学に行ったならば、もっと一緒にいられる時間は増えるだろうか。

 むしろ今が一番、お互いが忙しい。

 練習試合が重なっていて、来年に向けて強化していくのだから。

(プロの世界か……)

 和真の身体能力は、父と母の両方から、受け継いでいるものである。

 あるいは母の方こそが、平均値からは離れていたであろう。

 高校時代は兼部で野球もやっていたが、あのフィジカルモンスター権藤明日美と、パワーで互角であったのは、母だけであったのだ。


 昇馬とはあくまでも、練習でしか勝負はしていない。

 だが将典のボールを、和真はしっかりと打っている。

 プロの世界でも通用するのかどうなのか。

 だがまず和真は、来年を目指していく。

 最後の夏に向けての準備は、今年の夏が終わった直後から、もう始まっているのであった。

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2025年1月24日 18:00

エースはまだ自分の限界を知らない[第十部B]新・白い軌跡 草野猫彦 @ringniring

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