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トンデモ邦題はどうして生まれるのか? 邦題で損した良作・佳作

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
ポルノ映画のような邦題で損をした『乙女たちの秘めごと』

邦題の名付け人の苦労には頭が下がる

外国の映画の題名は素っ気なく、そのものズバリのものが多く、それを何とか翻訳で飾り付けて見る気にさせないといけない

例えば、『愛と青春の旅だち』だ。これ、原題の『An Officer and a Gentleman』を直訳した“士官と紳士”という邦題だったら、日本であれだけ大ヒットしただろうか?

ちなみに、この題名は売れるというので80年代には「愛と●●の……」方式の邦題が連発された。

『The Thing』だって、“物”じゃあ、見る気がしない『遊星からの物体X』となって初めて見てみようかな、となる。『Bonnie and Clyde』だって“ボニーとクライド”よりも『俺たちに明日はない』の方が絶対にカッコいい

しかし、その一方で、見てもらおうとする意欲が空回りして内容とかけ離れ、逆に見る気を損ねているものもあるのだ。例えば前回紹介した『愛を耕すひと』なんてのはミスリードだと思う。

今回は過去の紹介作の中から、邦題は今イチだが見逃すのは惜しい、今も見られる作品を紹介する。

●邦題で損をしている3作

■『グリーン・ヘル/マウス -終わらない戦禍-』(原題『The Maus』)

この長い邦題こそ「迷い」の象徴である。

まるで2つの作品のタイトルがくっ付いたようだが、実際にそういうことがあったという説がある。もともと「グリーン・ヘル」で封切られたものが、「マウス -終わらない戦禍-」に改題され、結局2つを合体させた形に落ち着いたらしい。マウスというのは確か主人公のあだ名だったと記憶する。

この作品の問題は、売り出し方の迷いだ。

食人族を描いた『グリーン・インフェルノ』を連想させる「グリーン・ヘル」は、主人公が犠牲になる血みどろのホラーとして売り出そうとした。一方、「マウス -終わらない戦禍」は主人公の背景――ユーゴスラビア紛争の生き残り――という部分にスポットを当てた。

これ、どっちが正解か?

後者の方である。前者は完全にミスリード

邦題は「マウス -終わらない戦禍」一本で最初からいけば良かったのだ。そうすれば、襲う方にも、襲われる主人公の方にも、戦争の残酷な傷が今もなお残っていることと、戦争を知らない我われ平和主義者がいかにのほほんと生きているかに気付かされたはずだった。

怖がる映画ではなく、考えさせられる映画だったのだ。

邦題で見る気を失った人は、ぜひ、この機会に見てほしい。

過去の紹介記事:

幸せなヨーロッパの隣にある地獄。『The Maus』の主人公の体に「怪物」が巣食うようになった背景

配信サービス:Rakuten TV

■『乙女たちの秘めごと』(原題『The Sower』

邦題はまるでポルノ映画のよう。

これは、エロチックな方向で、お客さんを引っ張ろうとしたのだろう。よくある手だ。ポスターに女優のあられもない姿を使い――実はそんな姿が出て来るのはほんの一瞬だったりする――、思わせぶりな邦題で釣る

『乙女たちの秘めごと』に釣られて見に行った人はさぞ失望したに違いない。

「秘めごと」はある。しかし「乙女たち」ではない。主人公は若い女性だが、中年やその上の年齢の女性もたくさん出てくる。正確には「女たちの秘めごと」である。

で、ポルノはもちろん、エロでも全然ない。

これは戦争によって女だけになってしまった村を舞台とする、女たちと男を描いたドラマ、男女の対立ではなく互いを必要とする社会を描いたドラマなのだ。だから、カップルにおススメの作品なのだが、この邦題のせいで、女性に敬遠されたとしたら余りにもったいない。

邦題は原題通り、素直に「種をまく人」で良かったのだ。

種をまく、という行為に重要な意味が込められていることは予告編でも強調されているではないか。

男と女を考える上で、とかく思想や信条に目が曇りがちだが、原点である生物学的な視点から目を開かせてくれる

邦題のせいで見逃している男女のみなさん、今こそ、配信で見直してほしい。

過去の紹介記事:

『The Sower』=「種をまく人」。ソフィア・コッポラの新作と合わせて問う、女にとって男とは?

配信サービス:Prime Video、DMM TV、Rakuten TV

■『心と体』(原題Appendage)

邦題のトンデモなさで言えば、これがワーストワンだ。

原題のAppendageというのは盲腸とか虫垂とかの意味。始まってすぐに主人公のお腹が痛くなるので、これには意味があるが、邦題は原題にも内容にもまったく関係がない

いや、それだけではなく安直さでも類を見ない。「心と体」と言っておけば、まあどんな映画も通用するのである。

例えば『エイリアン』でも『ゴットファーザー』でも、心と体でなんとかなる(かも)。邦題決定会議での「まあ、こんなもんでいいか」なんて声が聞こえてきそうだ。

普通、邦題によるミスリードは狙いがあって、それが間違った方向へ行ってしまうことで起こる。上に紹介した2作品でもスプラッター引っ張り、エロ引っ張りという狙いがあったが空回りしてしまった。

しかし、この邦題の凄いところは「命名の狙い」というものが伝わって来ないところ。

心と体で、何をアピールしようとしたのか? どんな客層を引っ張ろうとしたのか?

ちなみに『心と体と』という名作があってあちらは愛のヒューマンドラマ。でも、一字違いのこっちは、ホラーなんですけど……。

公式WEBはここ

過去の紹介記事:

雨の日曜日にぜひ。面白過ぎずつまらな過ぎない映画『心と体(Appendage)』

配信サービス:Disney +

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写真提供はサン・セバスティアン映画祭

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ありがとうございます。
在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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