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勇者の嫁になりたくて ( ̄∇ ̄*)ゞ  作者: 千海
16 水の都パルシュフェルダ
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16−4



 それから目星の店を覗いた勇者様は、隣り合う数件の武器屋をはしごし、気に入った得物を見つけたらしい。間に合わせに手元に置いたものより長く、いかにも重そうな大剣で、細身の彼が所望するのを不思議そうに見ていた店員さんだが、あっさり振り抜く姿を見たら口を開けて固まった。

 その時同じ店内に居た数人のお客さん達も、割と気になっていたようだ。いや、単に「女連れかよ!」な気になりの方向だったかもしれないが、あいつ何を買うのかな?とも思っていたのかもしれない。店員さんと二、三、交わしておもむろにソレを振った男に、棚の影とかで動きを止めた気配がばっちり丸わかりです!と、私は内心突っ込んだ。

 今も、にぎりを確認している澄まし顔の勇者様だが、この店内の人達が更にトリップするからやめて!と、思わない事もない。地味めとはいえイケメンが、どう見ても非売品(ディスプレイ)っぽい大剣を、ありえないほど軽々と振ってるぞ…な、妙な絵柄がそこにある。けれど、これで“勇者”をやってるオーラをプラスしたなら納得ものだ。


——この人、実は勇者ですから…。


 今日だけとはいえ、言えない私は、店内のトリッパー達にそっと心で呟いた。

 それからさらに交渉をして注文をつけた勇者な人は「明日の朝、受け取りにくる」と定員さんに言付けて、前金としていくらかをその人に手渡した。

 大概の人はお店側からこのくらいとか請求されるが、言われる前にこと足りる額をさっと渡したその人は、いかにも手慣れた旅の人。勇者様てば、こういうスキルは完璧なんだなぁ…と。お義父さんと大陸を放浪した経験はこういう所に生きてるんだなと、感心しながら目で追った。

 予想したよりずっと早くに用事を終えたその人は、ふとこちらを振り返り。


「行こう」


 と自然に促した。


 賑やかな通りに戻り、武器屋の前で足を止めると、次はどこへ行こうか?という問題が持ち上がる。てっきりお昼を過ぎた辺りまでかかるものだと思っていたから、ここで早めの予調会議だ。

 始めに「行きたい所はあるか?」と聞かれた事もあり、たぶん今日一日はこちらのリードで進むのだろうと思っていたのだが、「そうですねぇ…」とピックアップした名所のカードを選んでいたら、違う感じに取られたようだ。


「行きたい所が特になければ、付き合って貰えるか?」


 と。

 意外な事に、勇者様はリードを取ってくれたのだ。


——あ。え。あ、はいです。


 まさか腕輪の代金である何ちゃってデートの中で、本当のデートみたいにエスコートされるとか。してもらえるとか全く思っていなかったので、少し反応が遅れたが。「もちろんです」と頷き返すと、どことなく安堵したような反応を見せ、勇者様は勝手知ったる道っぽい歩みを見せて、通りを埋める人ごみの中、サクサクと先を行く。


——おぉっ、歩みが早まった…!


 急いでるのかな?え?何かの限定品を買いに行くとかですかねぇ…?

 何はともあれ、置いてかれるとか全くシャレにならないからね!

 と、私は私で急いだのだが。

 人ごみの上に慣れないヒールは想像以上の足かせで、ふとした拍子に誰かの足に蹴躓いてしまったら、後は予想する通り。ガツッとよろけた先にあるのは、石畳とのハイタッチである。

 それでも、せめて両膝は擦り剝くまい…!!と力を入れて踏ん張ったのだが———。


 その時、すかさず入った救いの腕に、大惨事を免れる。


——…ん?…おお。おおぉおぉ…!?


 まずは私の腕を掴んだ、大きな手とかが目に入り。

 次は頭の天辺付近に掛かる、薄い人影に驚いて。

 前方にある全体的に間近な感じの圧迫感に、これは、うっかり前を見れない…!!とひたすらに縮み上がった。

 は、と短い息をお吐きになったその人は、ぐっと私の倒れた体を持ち上げて、真っすぐ元の姿に正すと「すまない」と短く語る。「つい、先走ってしまった…」と言う深良い声は、やはり申し訳なさそうだ。

 いえ、勝手に転んだのとか、私の方ですし…と。逆に恐縮してしまうのだが、それ以上のこちらの言葉を受け取らないぞ、なお硬い態度。どうやら、勝手に先に進んだ→私に急がせた→そして転ばせた、な定式が彼の中で揺るぎないものになってしまっているらしい。


「結局、こうして転ばずに済みましたから…」


 ですのでどうぞ気にせずに…。

 頑な人に張り合ったっていい事は余り無い。

 そう考える私の方は早々に切り上げて。

 この人も中々頑固だな〜…とか。今度はしっかり横を選んだ、生真面目勇者なお人を思う。

 たまに上から降ってくる気遣いの視線だが、おかげで膝は守られましたよ!大丈夫ですってば!!と。チラチラされるともの凄くむず痒くなってきて、今度は逆に私の方が突っ走って行きたい気分。


——あぁもうホント、“勇者”って…!!!


 いやもうこの場合は“この人”なのか!?と、訳が分からなくなりつつも、真面目過ぎるよ勇者様!!と心の中で叫びに叫ぶ。

 それでもお互い会話が無いからどうしようも無くなって…。


——って!会話をすればいいじゃない!!


 即ひらめいた私がすかさず、「どこへ向かってるんですか?」とか苦し紛れに質問すれば。

 はっ、とした勇者な人はふと辺りを見渡して、「すまない、こっちの道だった…」とおもむろに進路を変えていく。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


——って。いやいやいやいや、勇者様…ヾ(・_・;)


 よ、良かったですねぇ、と。

 これが本気のデートじゃなくて。私は余り気にしませんが、世の女性の大半は普通呆れる所です…。

 どうか本番は失敗するな!!と内心で激励し、そこまで気を取られるほどの魅力は膝には無い筈ですが…と、彼の方向に従いつつもふと足下を見下ろした。

 そしてしばらく路地を進むと、その一角に賑わいがあり。看板に書き込まれたメニューから選べと言うので、たまごとハム入りのサンドイッチと、特産品のお茶にした。


「それと、オススメサンドイッチを。飲み物は中サイズのラグーを頼む」


 順番になりちゃっちゃと頼むと、勇者様は当たり前みたく食事をおごってくれたりとかして。

 ちょっと早いなと思ったけれど、そうして昼食を注文したら、持ち帰り用の袋に詰めてもらって、我々はまた歩き出す。


「五区寄りの神殿裏に、眺めが良い場所がある」


 そう呟かれた内容からして。

 どうやらランチはピクニック風…になるらしい。

※予調:よちょう、とふります。予定を調整するような雰囲気の短縮語…な雰囲気で。

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