フジテレビから広告主が消える?ACジャパンへのCM差し替えの先にある本当のリスク
中居正広氏を巡るトラブルを起点とした、フジテレビの対応への批判の声が止まりません。
米ファンドによる第三者委員会設置要求に押し出されるように1月17日に実施された、港浩一社長の記者会見でしたが、結果的に視聴者の怒りの火に油を注ぐ結果となり、その影響は日に日に拡がりつつあります。
特に象徴的なのが、フジテレビのスポンサーである広告主の、実に75社以上がすでにテレビCMの差し止めを宣言していると報道されている点でしょう。
その結果、フジテレビの番組の間に流れるテレビCMは、ほとんどがACジャパンの広告という状況になり、東日本大震災直後を想起させるような異常事態になっています。
こうした異常事態を受けて、ようやくフジテレビ側も今日にも第三者委員会を設置する方向で臨時取締役会が開催される方向に方針を転換したようですが、はたしてフジテレビは今後どうなってしまう可能性があるのでしょうか。
現時点ではフジテレビは、最悪のシナリオに向かうかどうかの分岐点に立っていると言えます。
ACジャパンとはどういう仕組みなのか
まず、一般の方には分かりにくいACジャパンへのCM差し替えの仕組みをご紹介しておきます。
一部では、フジテレビのテレビCM枠がほとんどACジャパンに差し替わっている関係で、フジテレビが倒産するのでは?という報道も散見されますが、現時点ではそれは大袈裟な報道と言えます。
テレビCMは基本的に枠をおさえる契約をした際に費用が確定し、キャンセルをしても広告主が投下したお金は返ってきません。
基本的には私たちがホテルや航空券を予約した際に、キャンセルしてもお金が全く戻ってこないケースがあるのと同様です。
ホテルや航空券の場合は、キャンセルが発生すると空室や空席のまま稼働することになりますが、テレビCMの場合は秒単位で放送時間が決まっている関係で、空いたテレビCM枠になにも流さないわけにはいかないため、ACジャパンの広告素材を流すという判断になるわけです。
ACジャパンはメディアを通じて、社会問題の啓発をするための公共広告素材を作っている公益社団法人です。
参考:フジテレビのCM差し替え問題で注目「ACジャパン」とは?料金はどうなる?
最近では、世の中に寛容になろうと呼びかける「寛容ラップ」が話題になるなど、「環境汚染」「公共マナーの悪化」「人間関係の希薄化」などの社会問題に光をあてる公共広告を作っており、今回の差し替えにおいては、特に「決めつけ刑事」の広告がタイムリーだと話題になるなどしているようです。
参考:フジ差し替えCM「決めつけ刑事」が「タイムリーすぎ」と話題 名優出演…真偽不明の投稿に警鐘
一部では、なぜかフジテレビの広告がACジャパンに差し替わっても、ACジャパンにお金が流れると誤解している人もいるようですが、ACジャパンには差し替えによる収益は発生しませんし、税金も投入されておらず、会員企業による社会貢献に近い位置づけの組織になります。
テレビCMの差し替えは基本的に広告主が全額負担
つまり、広告主がテレビCMをACジャパンの広告素材に差し替えても、ACジャパンには1円も入らず、フジテレビにテレビCM費用が全額支払われる構造になっているのです。
ホテルや航空券であれば、前日キャンセルであっても50%などの返金があるケースもありますが、テレビCMは非常にニーズが高い広告枠ということもあり、基本的に一度契約すると直前キャンセルはできず、全額支払いが発生するというのが通常のようです。
実際に、東日本大震災の直後に全てのテレビCMがACジャパンに差し替わったタイミングでも、テレビCMの費用は広告主が全額負担をしていました。
さすがにこの状況には、一部の広告主からは「有事の広告差し替えは、広告業界すべてが責任を分担して対応するのがあるべき姿と考える。クライアントが全費用を負担するのはおかしい。」と問題提起もあったのです。
参考:震災後のAC差し替え、広告主の負担「釈然としない」――企業の広告宣伝部門の責任者72人に聞く<前編>
今回のフジテレビの騒動では、トヨタをはじめとする大手広告主は、そうした既に契約した広告投資が無駄になるリスクを負ってでも、自社の広告を今のフジテレビには流したくないという判断をしたことになります。
逆に、一部広告主の中では、「CMをAC広告に切り替えたところで、投下した広告費が戻ってくるわけでもなく、広告費用分の損害が発生するだけ」なので「イメージが悪くなるリスクを冒してでも、テレビCMを流さざるを得ない」と嘆きを投稿している企業もあるようです。
参考:フジCMスポンサーの法律事務所が告白、差し止めない理由「イメージ悪くなるリスク冒してでも…」
つまり、フジテレビはCMをACジャパンに差し替えられたところで、短期的には収入は減りません。今すぐに全ての広告主がCMをACジャパンに差し替えても、フジテレビが倒産することはありえないわけです。
一部広告主から広告の返金交渉が始まる
ただ、もちろん、長期的視点で見ると話は全く変わってきます。
まず、テレビCM差し替え時の広告主全額負担という考え方は、広告主側の都合でテレビCMを差し替える場合を想定して作られています。
ホテルや航空券においても、ホテル側や航空会社の不手際でキャンセルせざるを得なくなれば、当然返金があるのが常識であることを考えると、今回のようなフジテレビ側の問題でテレビCM差し替えが発生したケースでも広告主が全額負担すべきなのか、疑問を持つ広告主がこれまで以上に増えるのは当然です。
そのため、既に一部の広告主はテレビCM差し替えに伴う広告料金の返還交渉や、広告契約期間の前倒し終了を交渉しはじめているようです。
参考:広告返金交渉、契約終了の動き フジCM差し替え、地方局にも
フジテレビ側としても、ここで広告主に全額負担をさせて、そのために未来永劫フジテレビにテレビCMは出稿しないという判断をされるよりは、今回の差し替えについては一部広告料金を返還したり、未来の広告出稿を補償するような対応を検討するケースは当然出てくるでしょう。
そうした対応をすれば、当然その分はフジテレビとしては損失が発生することになります。
将来の広告出稿の買い控えも確実に起きている
また、テレビCMの広告枠というのは人気が高いこともあり、基本的には3ヶ月や半年前から営業活動が行われています。
現在は4月以降の番組編成を元に4月以降の広告枠の販売がまさに行われている最中のようですが、当然現時点の状況を踏まえると4月以降のフジテレビへの広告出稿を躊躇する企業が増えているのは間違いないでしょう。
現在既に購入されている広告枠についてはACジャパンに差し替えられても、広告主が全額負担の原則がありますが、将来の広告枠が売れ残ってしまえば、当然フジテレビとしては明確に減収になることになります。
また、今回の騒動の影響でフジテレビの視聴率も下がっているという調査結果も出ており、視聴率が下がれば広告の価格も下がり、それも将来の収入に影響することになります。
特にフジテレビからすると深刻なのは、キッコーマンが「くいしん坊!万才」の放送休止を要請したり、塩野義製薬が「ミュージックフェア」での社名削除を要請するなど、1社提供をしていた長寿番組のスポンサーも、フジテレビと距離を取り始めている点です。
参考:塩野義製薬『ミュージックフェア』内の社名削除を要請「一連の報道内容が事実なのであれば到底容認できるものではない」
こうした安定した広告出稿を続けてくれた広告主が、今回の騒動を起点に広告主を降りてしまったら、フジテレビの長期の収益に与える影響は非常に大きなものになります。
現在のところは、広告主の中には社会的批判を避けるために一時的に広告を差し替えている広告主も含まれているかもしれませんが、彼らが将来にかけてフジテレビに広告を出稿することを止めるという判断こそが、フジテレビにとって最悪の事態です。
実はフジテレビにとっては、テレビCMがACジャパンに差し替わっている現在よりも、広告主がフジテレビを見限り、差し替えるべきテレビCMがなくなってしまう状態になる未来の方がはるかに大きなリスクなのです。
実は広告主から厳しい要請が来ている現状はまだ期待されている状態とも言えます。本当に深刻なのは広告主がフジテレビへの興味を失い、言及すらされなくなる状態なのです。
もし完全に広告主の出稿が止まり、本当の空き枠が出てしまった場合は、おそらくフジテレビとしては、ACジャパンの広告素材だけでなく、自社の番組の宣伝や自社の事業の紹介などの自社広告を流すことになるはずです。
フジテレビの番組の間に流れる広告がACジャパンだけではなく、番宣広告ばかりになったときの方が、フジテレビが本当の危機を迎えた状態と言えるでしょう。
フジテレビは最悪のシナリオを回避できるか
フジテレビにとって最悪と考えられるシナリオは、今後実施される第三者委員会による調査結果や、それに対するフジテレビ側の対策や姿勢が、広告主や視聴者から評価されず、更なる広告主や視聴者離れを起こしてしまうケースです。
会見後の社会からの大きな批判を受けて、社外取締役の要請により本日臨時取締役会が開催され、第三者委員会の設置に向けて方針転換したり、社員からの要請により社員向け説明会が急遽予定されたことを踏まえると、フジテレビのガバナンスはまだ機能する余地があるようですので、会見直後に比べると、この最悪のシナリオの可能性は少し薄らいでいるようにも見えます。
参考:フジHDとフジテレビ、第三者委設置へ 23日に臨時取締役会で決議
港社長による17日の会見は、文字通りフジテレビにとって最悪の会見となり、最悪の結果をもたらしていますが、これからの対応次第では、最悪のシナリオを回避できる余地はあるはずです。
もちろん、簡単な話ではありませんが、会社にとって最悪な状態から、本質的な方向転換を果たし復活した事例は過去にいくつもあります。
例えば、「ペヤング」を販売するまるか食品は、異物混入騒動の初動を誤り炎上する結果となりましたが、その後製品4万6000個を自主回収するとともに、全国で販売休止を決定。半年間をかけて製造ラインを刷新し、見事な復活を遂げました。
参考:ゴキブリ混入で操業停止でもボーナスは全額支給…「ペヤング」が炎上から大復活を遂げられたワケ
マクドナルドも期限切れ鶏肉の使用、異物混入など、複数の問題が相次いで発覚して社会から大きなバッシングを受け、もはや時代にあわない業態とまで批判されましたが、顧客の声に再度耳を傾け店舗環境の改善や、マーケティングを刷新することで見事にV字回復を果たしました。
参考:マクドナルドの復活で見落とされがちな本質 「不祥事を消費者が忘れただけ」の見方は違う
フジテレビが、このまま最悪のシナリオに向けて突き進んでしまうのか。
それとも、過去の過ちや問題を明らかにして適切な謝罪や対応を行い、企業文化や経営体制を刷新し、逆に今回の最悪の失敗をきっかけに、本来のフジテレビが生まれ変わるべき方向に方針を転換することができるのか。
フジテレビの次の一歩が、大きな分岐点になることは間違いありません。